SS 81~100

正義だなんだと言いながら結局のところ自分達が手を汚したくないから、体よく力があって優秀だった僕にお鉢が回ってきただけだよ。
僕が『正義』なんてお優しい感情を持っているわけないのにね。


「ね?キミもそう思わないかい?」

「そんなもの知るか」

「ハハッ。だよねぇ。だけど、だから僕には君を殺す御立派な大義名分はあっても、君を殺す意思はないんだ」

「私を殺さねばお前が死ぬだけだぞ。私にはお前を殺す理由も、意思も、確かにあるのだからな」

「そうなんだよねぇ」


だからそれが困ってるんだ。
君を殺さないで国に帰れば一生負け犬として後ろ指を指される人生を送る事になりそうだし、かといって君を殺しても国の人間は僕を英雄扱いと言う名目で腫れ物のように接するだろうし。
どちらに転んでも、僕には何も良いことがないんだよね。


「もう逸そ君の配下にでもなっちゃおうかな」

「……は?」


君の配下になれば僕は国の人間から裏切り者だと言われるだろうし、討伐隊なんて出来るかも知れない。
けれどどうせ何をしても、もう普通の人生には戻れないのだから、担がれてあれよあれよと嫌な役を押し付けたのはアイツらなんだから、僕が人間を裏切ったって良い筈だ。


「うん。そうしよう」

「何を勝手に決めているんだ!第一貴様は勇者だろう!私を殺すのが役割な筈だ!」

「大丈夫大丈夫」


なんたってさ。


「勇者様の言うことは全て正しいんだから」


そう言って笑えば、魔王は瞳を見開いて息を飲む。
そうして暫くすると長い長い息を吐き出し、呆れたように額に手を当てていた。
そんな魔王を見ながら僕は今しがた決めた自分の考えに、満足げに頷いた。
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