Another Story

名門中の名門高校に春から就職することになった。
それは良い。
生徒は多方面で面白い奴らばかりだし、頭の回転も早いから話していて楽しいのもある。
しかし、しかしだ。
困ったことに俺こと望月茂、御歳23歳。
自分の受け持つ生徒と関係を持つことになろうとは、就職当時は露とも知らなかっただろう。

今戻れるなら言ってやりたい。

「……未成年者に手を出すのは法律違反だ……」

「何か言いましたか?先生?」

「なんでもない……」

きょとんと首を傾げる可愛い恋人の、その真珠のような艶やかな肌に触れるのは一度や二度ではない。
過ちは繰り返せば繰り返す程に抜け出せなくなるけれども、まさしくその通り。


俺は自分の生徒であるこの子を受け入れた瞬間から今に至るまで、ただの女として見ているのだから。


「俺の教師人生終わった……」

「先生がバラさなければ、わたし達の関係は暴露されることはありませんよ」

「どーしてそう思うんだよー」

狭い部屋の、狭いキッチンから良い匂いを漂わせてくる恋人に俺は枕を抱き締めて唸る。

「わたしには心強い味方が居ますので」

「ふーん」

ふーん。へー。ほー。
俺の知らぬ間に勝手に友人を作って、そいつを信頼した百合に、俺はむくれる。
格好悪いとは思っている。
けれど、仕方が無いだろう?

「俺、百合が初恋なんだよなー……」

「? 知ってますが」

「余裕綽々だな」

「そうですね。私だって余裕があるわけではありません。ただ、」

「ただ?」

「……茂さんと一緒に居る為に、わたしはどんな手でも使ってみせると決めたんです」

諦めないと、決めたんです。

強い意志が込められた言葉に俺はきょとんと目を丸くする。
俺の知っている百合は怖がりで、臆病で、ただひたすらに優しい子で。
ふぅん、と今度は感心したように声を発する。

「お前も大人になってくんだなぁ……」

「わたしを大人にしたのは茂さんじゃないですか」

「そういう意味の大人じゃない」

「では、どういう意味ですか?」

百合が食事の乗った食器を両手に持って近付いてくる。
俺は座りながら受け取り、机に置いた。

「早く大人になれよ。あ、でも高校生活は楽しめ!人生に一度しかないんだから!」

「難しい注文ですね」

困ったように眉を寄せる百合が隣に座ったことを良いことに、俺は百合を抱き寄せてその白くて滑らかな頬に頬擦りする。

「な、なんですか?」

「百合パワーを貰って今日も元気に生きる為?」

「充分元気だとは思いますが……茂さんが楽しいなら私も楽しいので良いです」

「百合のパワーは効くなぁ」

「おっさん臭いですよ」

「うるせぇ」

お前に比べりゃ、俺は確かにおっさんだよ。ばーか。ばーか。
そんな子供染みた発言をひとしきりして、俺は百合が俺の為に作ってくれた食事にようやく手を付けた。
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