誇り抱く桜の如く

その日、天より降りた人間界で見上げた桜は満開で。
生き生きとしたその様は、まるで誇りを抱いて咲き誇るが如く。
その生き様は、地に落ちる散り際すら美しく。

――ああ、願わくば。

桜を仰ぎ見て、わたくしは頭一つ分大きな背を持った殿方を見上げた。
永久とも言える時を生きるわたくし達。
己が信じるままに生きていけたら、願わくばこの方と共に。

――そうこの日、彼の方の名前に入っているのと同じ【桜】に願いました。

仏頂面を少しだけ緩めて桜を見つめる大好きな御方。
隣に並べただけで頬が緩むのを必死に抑えていれば、きっと然り気無くを装おうとしたのだろう。
何処かぎこちない咳払いが聞こえてきて何かしらと思えば、ぬくもりが肩を覆う。大きな手がわたくしを包む。

どう揶揄って差し上げましょう?

そんなことを一瞬考えたけれども。
怒りん坊のこの方を怒らせるのは簡単。
だけれども今この瞬間に怒らせて、このぬくもりが離れていくのがとても嫌だったから。
わたくしはただ肩を抱かれたぬくもりには触れずに。

「桜、綺麗ですね」

そう言った。
肩を抱くいとしい人は何も言わなかったけれども、同じ気持ちだと確かにそう思ったのは、肩を抱く力がほんの少し強くなったから。


それは遥か遠く昔。
ねだってねだって、ようやく取り付けた逢引の日。
今でも容易く思い出せる程の、いとおしき記憶。

――今はもう、わたくしの隣で肩を抱いてくださる方は、居ないけれども。
1/18ページ