Another Story
泡となったお姫様は愛した王子様を想いながら、海を揺蕩いました。
「めでたしめでたし」
子供達に絵本を読んであげていたら、パチパチという拍手の音。
発生源を辿れば、そこにはお風呂上がりの大河の姿。
「さすがは『ママ』やなぁ……。もう寝てしもうたん?」
「大河」
「寝てる時は可愛らしい顔しとるんに、起きとる時は怪獣そのもので、俺は嬉しいわ」
私の膝の上で眠る小さな子供。
私と大河の愛の結晶は、すやすやとした吐息を吐きながら眠っていた。
大河の地毛と同じ茶色い髪を優しく撫でる大きな手。
この子達が愛されているのだと感じると凄く幸せな気分になる。
「瑠璃葉」
甘い声が耳に響いた。
「なぁに?」
問えば、しゃがんだ大河と視線があった。
そのまま何も言わずに私の頬を撫でる大河の、大きくてあたたかな手はとても優しい。
不意に、キスをひとつ落とされた。
「……あなたはいつも突然ね」
「ふふ。そう?でも忘れてるみたいやから」
「私が?何を?」
記憶力だけは良い私が、何を忘れているというのだろうか?
大河は蕩けるような笑みをその端正な顔に浮かべながら、口を開いた。
「――誕生日おめでとう」
「……あ、」
日付を見たら、ちょうど大河が私にキスをしてきた時刻が私の誕生日へ日付が切り替わる時間だった。
つまりは今日。四月四日だ。
「今年はちゃんと祝えて良かった」
「……そう言えば、ここ数年はテレビ電話だったものね」
「毎年ちゃんと祝いたかったんやで、これでも」
「努力は認めてる。それに、私は言葉だけでも充分……」
そこではたと気が付いた。
最近忙しくてテレビ電話も出来なかったのに、子供達は不平不満を言わないどころか、それがさも当たり前のことのように受け入れていて。
子供らしくないところが私そっくりだと、リツには常々言われていたけれども、まさか。
「子供達がな、俺にお願いしてきてん。『クリスマスも自分達の誕生日も祝わなくて良いから、ママを祝いに帰ってきて』って」
「……そんなの、」
「瑠璃葉とおんなじお願いされたら、頑張らんわけにはいかんやろ?」
ふふんと鼻を鳴らす大河に、呆然とする。
私は確かにお願いをした。
『私のことは良いから、この子達のバースデーだけは祝ってあげて』
と、大河に告げたその言葉は記憶に新しい。
ポロポロと涙が零れてくる。膝の上で眠っているこの子達に悟られたら、きっと悲しませてしまうわね、と思った時にはその涙は大河の指によって掬われていた。
「子供達はリツのとこに行く気満々やったけど、そんなんさせへん。久し振りに、家族で過ごそうな」
「……っ、ええ」
鼻を啜って、自分で涙を拭ってから。
目を覚ましたら、この素晴らしいバースデープレゼントを考えてくれた愛しい子供達をたくさんたくさん抱き締めようと、心に決めた。
「……ありがとう」
そんな言葉では足りないけれども。
「大切な家族の為ですから」
それに、と大河は付け加えた。
「ありがとう、は俺の言葉。生まれて来てくれて、俺の子供を生んでくれて、ありがとうな」
「……誕生日なんて気にしたのは、大河と出逢ってからな気がする」
「え?」
きょとんとした顔をする大河に、私は微笑んだ。
「生まれてきて良かったと思えたのは、きっとあなたと出逢ってからだわ」
「……久し振りのデレが思ったよりキた」
「何か言った?」
ぼそりと呟かれた大河の言葉が聞き取れなくて、訊き返す。
そうしたら、触れるだけのキスをされた。
小鳥が餌を啄むように何度も何度も振って来るキスに、嬉しいけれども待ったをかける。
「何」
「なに、じゃなくて……子供達、が……」
「……狸寝入りしてへんと、部屋に行きや。明日たんと遊んだるで」
大河の言葉を聞いたのか、膝の上にある重みが消えた。
走り出す前に私達……主に大河を見た子供達は嬉しそうな顔をしていた。
「狸寝入り……」
「さて、これからは大人の時間ですよ」
私の混乱を他所に、大河は私を横抱きにして抱き上げた。
何処へ、なんて野暮なことを聞く生娘ではない。
今は何もかもを気にしないで、大河の首に腕を巻き付けると、精一杯甘えようと心に決めた。
私は泡となったお姫さまではないから。
王子様は泡となろうとした私を救い上げて、傍に居ようと言ってくれたから。
今日も私はあなたの腕の中に居られる。
――余談ではあるけれども。
次の日歩けないまでにしてくれた私を甲斐甲斐しく介抱しながら、子供達と時間の隔たりなんて感じさせない程に遊んでいた大河のその笑顔は、私が好きになったあの日と同じ輝きを見せていた。
「めでたしめでたし」
子供達に絵本を読んであげていたら、パチパチという拍手の音。
発生源を辿れば、そこにはお風呂上がりの大河の姿。
「さすがは『ママ』やなぁ……。もう寝てしもうたん?」
「大河」
「寝てる時は可愛らしい顔しとるんに、起きとる時は怪獣そのもので、俺は嬉しいわ」
私の膝の上で眠る小さな子供。
私と大河の愛の結晶は、すやすやとした吐息を吐きながら眠っていた。
大河の地毛と同じ茶色い髪を優しく撫でる大きな手。
この子達が愛されているのだと感じると凄く幸せな気分になる。
「瑠璃葉」
甘い声が耳に響いた。
「なぁに?」
問えば、しゃがんだ大河と視線があった。
そのまま何も言わずに私の頬を撫でる大河の、大きくてあたたかな手はとても優しい。
不意に、キスをひとつ落とされた。
「……あなたはいつも突然ね」
「ふふ。そう?でも忘れてるみたいやから」
「私が?何を?」
記憶力だけは良い私が、何を忘れているというのだろうか?
大河は蕩けるような笑みをその端正な顔に浮かべながら、口を開いた。
「――誕生日おめでとう」
「……あ、」
日付を見たら、ちょうど大河が私にキスをしてきた時刻が私の誕生日へ日付が切り替わる時間だった。
つまりは今日。四月四日だ。
「今年はちゃんと祝えて良かった」
「……そう言えば、ここ数年はテレビ電話だったものね」
「毎年ちゃんと祝いたかったんやで、これでも」
「努力は認めてる。それに、私は言葉だけでも充分……」
そこではたと気が付いた。
最近忙しくてテレビ電話も出来なかったのに、子供達は不平不満を言わないどころか、それがさも当たり前のことのように受け入れていて。
子供らしくないところが私そっくりだと、リツには常々言われていたけれども、まさか。
「子供達がな、俺にお願いしてきてん。『クリスマスも自分達の誕生日も祝わなくて良いから、ママを祝いに帰ってきて』って」
「……そんなの、」
「瑠璃葉とおんなじお願いされたら、頑張らんわけにはいかんやろ?」
ふふんと鼻を鳴らす大河に、呆然とする。
私は確かにお願いをした。
『私のことは良いから、この子達のバースデーだけは祝ってあげて』
と、大河に告げたその言葉は記憶に新しい。
ポロポロと涙が零れてくる。膝の上で眠っているこの子達に悟られたら、きっと悲しませてしまうわね、と思った時にはその涙は大河の指によって掬われていた。
「子供達はリツのとこに行く気満々やったけど、そんなんさせへん。久し振りに、家族で過ごそうな」
「……っ、ええ」
鼻を啜って、自分で涙を拭ってから。
目を覚ましたら、この素晴らしいバースデープレゼントを考えてくれた愛しい子供達をたくさんたくさん抱き締めようと、心に決めた。
「……ありがとう」
そんな言葉では足りないけれども。
「大切な家族の為ですから」
それに、と大河は付け加えた。
「ありがとう、は俺の言葉。生まれて来てくれて、俺の子供を生んでくれて、ありがとうな」
「……誕生日なんて気にしたのは、大河と出逢ってからな気がする」
「え?」
きょとんとした顔をする大河に、私は微笑んだ。
「生まれてきて良かったと思えたのは、きっとあなたと出逢ってからだわ」
「……久し振りのデレが思ったよりキた」
「何か言った?」
ぼそりと呟かれた大河の言葉が聞き取れなくて、訊き返す。
そうしたら、触れるだけのキスをされた。
小鳥が餌を啄むように何度も何度も振って来るキスに、嬉しいけれども待ったをかける。
「何」
「なに、じゃなくて……子供達、が……」
「……狸寝入りしてへんと、部屋に行きや。明日たんと遊んだるで」
大河の言葉を聞いたのか、膝の上にある重みが消えた。
走り出す前に私達……主に大河を見た子供達は嬉しそうな顔をしていた。
「狸寝入り……」
「さて、これからは大人の時間ですよ」
私の混乱を他所に、大河は私を横抱きにして抱き上げた。
何処へ、なんて野暮なことを聞く生娘ではない。
今は何もかもを気にしないで、大河の首に腕を巻き付けると、精一杯甘えようと心に決めた。
私は泡となったお姫さまではないから。
王子様は泡となろうとした私を救い上げて、傍に居ようと言ってくれたから。
今日も私はあなたの腕の中に居られる。
――余談ではあるけれども。
次の日歩けないまでにしてくれた私を甲斐甲斐しく介抱しながら、子供達と時間の隔たりなんて感じさせない程に遊んでいた大河のその笑顔は、私が好きになったあの日と同じ輝きを見せていた。