Another Story

「りっちゃん。どうして大河は私のことを好きになったのかしら?」
「……どうしてそんな面倒くさそうなことを俺に聞くんだ?」
「あら? だってりっちゃんは大河の親友なのでしょう?」
「どうして嘘だと分かりきっていることを言うかな、お前は」
「いひゃいわ、りっひゃん」

 至極真面目にそう言ったら、リツは眉間に皺を寄せながら私の頬を引っ張ってくる。痛いわ、と言いつつもこれはただの戯れなのであるが。
 それはそれとして、そうと理解出来ていない人の視線が凄く痛い。

「……瑠璃葉がリツとイチャイチャしとる⁉」
「面倒なのが増えたな」

 ぼそりとリツがそう呟いたのが聞こえた。それには同感とばかりに頷いておこう。

「なんでお前がここに居るんだよ、大河」
「え? なんでって……好きな子の居る場所が俺の居場所やから?」
「頼むから日本語を話してくれ」
「ごっりごりの日本人俺しか居らんのに⁉ 日本語しか話してませんよ⁉」
「そう間に受ける場面ではないと思うのだけれども……」
「瑠璃葉。アレは間に受けているわけじゃなくて、面白がってるだけだ」
「いやいや。そんなわけないやん」
「じゃなきゃ、どうしてオートロックのマンションに入って来れるのか分からん」
「……そう言えば、貴方。何故ここに居るの?」
「待って? このくだりまたさせる気なん? 俺はかまへんけど」
「もういいわ。話を進めましょう。きっとそういう悪戯が起きているのでしょうね」
「不法侵入を悪戯で済ませるな、馬鹿」
「不法侵入やないで⁉ 俺はちゃんと正規のルートから瑠璃葉の家に来ましたけども!」

 疑わしい眼差しを思わず向けてしまう。
 この人は時折どうしてそんな行動に? と思うようなことを平然とするからとても困ってしまうのだ。

「私は貴方がどういうルートでこの家に侵入してきたかは正直どうでもいいのだけれども」
「俺が言うんも変やけど、少しは気にしよな?」
「今更貴方のことを気にしても仕方がないじゃない」
「少しは気にして⁉」
「何故?」

 この人はどうして私に構うのだろうか。私のことを好きだと言うくせに、他の女の子にもへらへらと笑いかけるような人なのだ。
私のことを好きだと言われても、どう思えと言うのだろう。
 少しだけ心がキュッとなった。どうしてだろうか? そんな理由からは目を逸らす。
 もう二度と苦しい思いなんてしたくない。それに、一方通行の気持ちは重たい。重たいものなんて私は要らない。

「どないしたん? 瑠璃葉?」
「なん、でもないわ」
「なんでもないって顔には見えへんけど」
「大河。その辺のしてやってくれ」
「リツ。……そぉか。なるほどな」
「? 大河」
「まあ、俺は瑠璃葉のこと好きで居続けるし、いつか振り向いてもらえたらその辺はどうでもええねんけど」

 でも、と大河は続けて言った。

「逃げても、留まっとっても、仕方ないこともあんねんで」
「貴方には関係ないわ」

 少しだけ感情的にそう言ってしまった。彼の言葉を肯定する態度だと分かりきっていたと言うのに触れられたくない場所に触れられてしまえば、感情的にもなると言うもの。

「瑠璃葉は、自分で思っとるよりもずぅっと好かれとんのやから。少しは自分のことも好きになったり」
「……どうして、」
「ん?」
「どうして貴方は、こんな私を好きだと言うのかしらね」
「んー、それは……ナイショ!」
「案外、秘密主義よね」
「そうでもないんやけどねぇ」

 ハハっと笑う大河は柔らかく笑むと私を見つめて、そうして言った。

「世界中の誰が瑠璃葉を嫌いでも、俺はずっと永遠に好きで居続ける自身あるで」
「何故私が世界中から嫌われる前提なの?」
「そういうロマンもあんねん」
「ロマンチストではないでしょう?」
「まあ、夢追い人ではありますけどね」
「その夢を叶える力もあるくせに」

 そんな会話をしていたら、リツが呆れた顔をしながらクッキーを焼いていた。
 そんな流れるようにクッキーを焼き出さないで欲しいものね。

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