if Story
もしもこの世界に人間以外の存在が居て。
もしもその人間以外の存在を認知して。
もしもその存在と対話したなら。
「きみ達はどう思うんだろうね?」
未だ何も知らぬ子供らは庭を跳ね歩いている。
ソレを目を細めながら見つめた。
「シーギルハイト、楽しそう」
「ふふ。楽しみだよ。あの子達がどう生きていくのかなって」
「そうね、わたしも、楽しみだわ」
ゆったりと喋る雪原のような銀糸の長い髪を背に流した女はアメジストのような美しい瞳を僕に向ける。
「いとしい魔女。僕の最愛。きみだけは僕が絶対に守るからね」
彼女の眠る寝台に近付いて、そっと手を握った。
恐ろしいほどに冷たい彼女の手をあたためることは、同じく氷のように冷たい僕の体温では不可能だけれども。
「ふふ、シーギルハイトは、甘えたさんね」
「そうだよ、ジゼ限定で僕は甘えたなの」
「……ギル、シーギルハイト。どうかこの手を離さないで」
「もちろん。神に歯向かった僕が今更きみの手を離すものか」
重ねるようにジゼが手を置いたから。
包みこむようにその手を握り締めた。
そうしてジゼの額にこつんと額をくっ付ける。
「あいしているよ、僕の魔女」
「ええ、わたしもよ。わたしの大切な悪魔さん」
この愛は呪いを生んだけれども、僕はどうしたって彼女を離す道だけは塞ぎ続けた。
魂が消滅するまで、僕はジゼを愛するし。
ジゼは僕が消滅するまで存在し続ける。
僕達が愛し合ったことで『罪』は生まれ。
僕達が子を生したことで『呪い』が生まれたけれども。
僕は悪魔だ。
大事な大事な僕だけの魔女に危害がないならそれでいい。
そうでなくては壊れてしまう。
僕達の子が死ぬ運命にあることを受け入れるには、ある程度薄情でなければいけなかった。
ジゼを取るか。
子供達を取るか。
そんなの端から決まっている。
「ジゼ、今日は天気がいいからきみのドレスに似合う薔薇を摘んでくるね。きみに似合う、漆黒の薔薇を」
ジゼはこくりと頭を振って、そうして眠そうに瞬きをした。
「眠いの?ジゼ」
「ええ、すこし」
「なら少しだけお休み」
「少しだけ。ギル、帰って来たらちゃんと起こしてね」
「うん、ちゃんと起こすよ。大丈夫」
きみは安心して眠っていてね。
きっときみが目覚める頃には、あの庭を駆け回る子供達は大きくなって、違う道を歩んでいるのだろう。
僕の嘘に気付けないほど、ジゼは馬鹿ではないけれども。
それでもジゼは安心したように眠りについた。
その雪原のような銀糸の髪を指で梳く。
いとしい、いとしいと心が喚く。
最初は煩わしかったこの音も、今では心地よい音色だ。
「さて、きみ達はどういった道を歩むのかな?」
銀糸の髪にアメジストのような瞳を持った兄と、黒檀のような長い髪と灰青の不思議な瞳を持った妹。
姿は違えどその双子を叱りつけている稲穂のような金髪に空のような青い瞳を持った双子の良き理解者。
その場にいるのはどれも僕達の子供達。
正確には子孫とでも言うべきか。
そんな些末なことは関係ないけれどもね。
「きみ達がどう世界を歩んでいくのか、僕は楽しみだよ」
そう笑って、そうしてジゼが目覚めた時の為に薔薇を摘みに出掛ける用意をはじめる。
世界はぐるりぐるりと回っては。
進んだ針は巻き戻る術を知らぬまま。
ただひたすらに、彼らは突き進む。
その歩む道に【運命】という名の罪の小石を置きながら。
もしもその人間以外の存在を認知して。
もしもその存在と対話したなら。
「きみ達はどう思うんだろうね?」
未だ何も知らぬ子供らは庭を跳ね歩いている。
ソレを目を細めながら見つめた。
「シーギルハイト、楽しそう」
「ふふ。楽しみだよ。あの子達がどう生きていくのかなって」
「そうね、わたしも、楽しみだわ」
ゆったりと喋る雪原のような銀糸の長い髪を背に流した女はアメジストのような美しい瞳を僕に向ける。
「いとしい魔女。僕の最愛。きみだけは僕が絶対に守るからね」
彼女の眠る寝台に近付いて、そっと手を握った。
恐ろしいほどに冷たい彼女の手をあたためることは、同じく氷のように冷たい僕の体温では不可能だけれども。
「ふふ、シーギルハイトは、甘えたさんね」
「そうだよ、ジゼ限定で僕は甘えたなの」
「……ギル、シーギルハイト。どうかこの手を離さないで」
「もちろん。神に歯向かった僕が今更きみの手を離すものか」
重ねるようにジゼが手を置いたから。
包みこむようにその手を握り締めた。
そうしてジゼの額にこつんと額をくっ付ける。
「あいしているよ、僕の魔女」
「ええ、わたしもよ。わたしの大切な悪魔さん」
この愛は呪いを生んだけれども、僕はどうしたって彼女を離す道だけは塞ぎ続けた。
魂が消滅するまで、僕はジゼを愛するし。
ジゼは僕が消滅するまで存在し続ける。
僕達が愛し合ったことで『罪』は生まれ。
僕達が子を生したことで『呪い』が生まれたけれども。
僕は悪魔だ。
大事な大事な僕だけの魔女に危害がないならそれでいい。
そうでなくては壊れてしまう。
僕達の子が死ぬ運命にあることを受け入れるには、ある程度薄情でなければいけなかった。
ジゼを取るか。
子供達を取るか。
そんなの端から決まっている。
「ジゼ、今日は天気がいいからきみのドレスに似合う薔薇を摘んでくるね。きみに似合う、漆黒の薔薇を」
ジゼはこくりと頭を振って、そうして眠そうに瞬きをした。
「眠いの?ジゼ」
「ええ、すこし」
「なら少しだけお休み」
「少しだけ。ギル、帰って来たらちゃんと起こしてね」
「うん、ちゃんと起こすよ。大丈夫」
きみは安心して眠っていてね。
きっときみが目覚める頃には、あの庭を駆け回る子供達は大きくなって、違う道を歩んでいるのだろう。
僕の嘘に気付けないほど、ジゼは馬鹿ではないけれども。
それでもジゼは安心したように眠りについた。
その雪原のような銀糸の髪を指で梳く。
いとしい、いとしいと心が喚く。
最初は煩わしかったこの音も、今では心地よい音色だ。
「さて、きみ達はどういった道を歩むのかな?」
銀糸の髪にアメジストのような瞳を持った兄と、黒檀のような長い髪と灰青の不思議な瞳を持った妹。
姿は違えどその双子を叱りつけている稲穂のような金髪に空のような青い瞳を持った双子の良き理解者。
その場にいるのはどれも僕達の子供達。
正確には子孫とでも言うべきか。
そんな些末なことは関係ないけれどもね。
「きみ達がどう世界を歩んでいくのか、僕は楽しみだよ」
そう笑って、そうしてジゼが目覚めた時の為に薔薇を摘みに出掛ける用意をはじめる。
世界はぐるりぐるりと回っては。
進んだ針は巻き戻る術を知らぬまま。
ただひたすらに、彼らは突き進む。
その歩む道に【運命】という名の罪の小石を置きながら。
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