Another Story
世に言うところの『ポッキーの日』を俺はどれだけ待ち望んだだろうか?
「今年こそ……!」
意を決して、部活帰りにもう一年の付き合いになる愛しい恋人が住む家へと向かった。
ピンポンと鳴らしたチャイムの後に、鍵が開く音がした。
これは何度も何度もキツく言った賜物だろうか?
恋人はすぐにストーカーなんかに合うくせに、警戒心が薄すぎるのだ。
今までは「りっちゃんが助けてくれるから」で済んでいたことも、少し前に起きたとあるストーカー事件のお陰でようやく自分の自己防衛方法にも悪いところがあるのだと、彼女は理解したらしい。
出迎えてくれた恋人、瑠璃葉は無表情を少しだけ緩めて「おかえりなさい」と言った。
いつまで経っても照れくさいその言葉は、家主たる瑠璃葉の口から発せられるからだろうか?
まあ、そんな話はさて置き。
「ポッキーゲームせぇへん?」
「はぁ?」
心底嫌そうに眉間に皺を刻む瑠璃葉。
あ、タイミング間違えた。と内心で冷や汗を垂らす。
まず「ただいま」すら言っていない。
それに瑠璃葉は怒ったのだろう。
挨拶を重んじる瑠璃葉なら当然の怒りだ。
しかし。と俺はもう一度だけワンチャンないかなぁ、と口に出す。
もう気持ち的には最終クォーターの終了一秒前でスリーポイントシュートを決めなければならない程の気持ちだ。
簡単に言えば清水の舞台から飛び降りるレベル。
「ポッキーゲー…」
「はぁ?何か言ったかしら?」
「ご、ごめんて……でも去年はやってくれたやん!?」
「ええ。散々ディープキスをされた覚えならあるわ」
「……う、うん。まあ、したなぁ……」
「何故あなたが照れるのかしら」
「いや!でもアレは最後の方は合意やったし、瑠璃葉も気持ち良さそうに……」
「今すぐその隠しているポッキーを普通に食べるか、別れるかのどちらが良いかしら?」
俺はその言葉にポッキーの箱を潰す勢いで握り締め――土下座した。それはもう華麗に。
「ごめんなさい」
「Japanese Dogeza」
そんな驚きの声の後に、顔を上げたら?という瑠璃葉。
俺は恐る恐る顔を上げる。
すると、ふに、と柔らかなモノが口を塞いだ。
それは一瞬のことであったけれども、俺はわなわなと震える。
「したいなら最初から『したい』と言えば良いのよ」
「……遊び心が分かっとらんなぁ……」
せめてもの強がりにそう言えば、瑠璃葉は、ふふ、と微笑んだ。
「それで結構。……まあ、来年は付き合ってあげても構わないわよ」
「今年は!?」
「今年はプリッツを食べると決めていたの」
「まさかのプリッツ派やと!?一年目の真実!」
「阿呆なのかしら?」
緑の箱を手に楽しそうに眦を下げてそんなことを言う瑠璃葉に、俺は「敵わんなぁ」と、床に座ったままの状態から立ち上がる。
そうして真下にある瑠璃葉に膝を屈めてひとつキスをした。
このあとめちゃくちゃポッキーとプリッツを食べることになるとは露知らず。
「なんでこないにあるん?」
「何故か今日、たくさん貰ったのよ」
「……誰に?」
「生徒会長」
「あの、狸にか!なんや毒でも仕込まれてたら怖いやん!ちょっ、吐き出し!」
「大河。ちょっと、あの。押し倒してるから。落ち着いて。押し潰される」
「抱き潰しても押し潰さんから安心して吐き出し?な?」
「落ち着きなさい」
猫パンチのような腹パンは一切痛くないが、今日はハグ禁止令が出た。痛い。主に心が。
「今年こそ……!」
意を決して、部活帰りにもう一年の付き合いになる愛しい恋人が住む家へと向かった。
ピンポンと鳴らしたチャイムの後に、鍵が開く音がした。
これは何度も何度もキツく言った賜物だろうか?
恋人はすぐにストーカーなんかに合うくせに、警戒心が薄すぎるのだ。
今までは「りっちゃんが助けてくれるから」で済んでいたことも、少し前に起きたとあるストーカー事件のお陰でようやく自分の自己防衛方法にも悪いところがあるのだと、彼女は理解したらしい。
出迎えてくれた恋人、瑠璃葉は無表情を少しだけ緩めて「おかえりなさい」と言った。
いつまで経っても照れくさいその言葉は、家主たる瑠璃葉の口から発せられるからだろうか?
まあ、そんな話はさて置き。
「ポッキーゲームせぇへん?」
「はぁ?」
心底嫌そうに眉間に皺を刻む瑠璃葉。
あ、タイミング間違えた。と内心で冷や汗を垂らす。
まず「ただいま」すら言っていない。
それに瑠璃葉は怒ったのだろう。
挨拶を重んじる瑠璃葉なら当然の怒りだ。
しかし。と俺はもう一度だけワンチャンないかなぁ、と口に出す。
もう気持ち的には最終クォーターの終了一秒前でスリーポイントシュートを決めなければならない程の気持ちだ。
簡単に言えば清水の舞台から飛び降りるレベル。
「ポッキーゲー…」
「はぁ?何か言ったかしら?」
「ご、ごめんて……でも去年はやってくれたやん!?」
「ええ。散々ディープキスをされた覚えならあるわ」
「……う、うん。まあ、したなぁ……」
「何故あなたが照れるのかしら」
「いや!でもアレは最後の方は合意やったし、瑠璃葉も気持ち良さそうに……」
「今すぐその隠しているポッキーを普通に食べるか、別れるかのどちらが良いかしら?」
俺はその言葉にポッキーの箱を潰す勢いで握り締め――土下座した。それはもう華麗に。
「ごめんなさい」
「Japanese Dogeza」
そんな驚きの声の後に、顔を上げたら?という瑠璃葉。
俺は恐る恐る顔を上げる。
すると、ふに、と柔らかなモノが口を塞いだ。
それは一瞬のことであったけれども、俺はわなわなと震える。
「したいなら最初から『したい』と言えば良いのよ」
「……遊び心が分かっとらんなぁ……」
せめてもの強がりにそう言えば、瑠璃葉は、ふふ、と微笑んだ。
「それで結構。……まあ、来年は付き合ってあげても構わないわよ」
「今年は!?」
「今年はプリッツを食べると決めていたの」
「まさかのプリッツ派やと!?一年目の真実!」
「阿呆なのかしら?」
緑の箱を手に楽しそうに眦を下げてそんなことを言う瑠璃葉に、俺は「敵わんなぁ」と、床に座ったままの状態から立ち上がる。
そうして真下にある瑠璃葉に膝を屈めてひとつキスをした。
このあとめちゃくちゃポッキーとプリッツを食べることになるとは露知らず。
「なんでこないにあるん?」
「何故か今日、たくさん貰ったのよ」
「……誰に?」
「生徒会長」
「あの、狸にか!なんや毒でも仕込まれてたら怖いやん!ちょっ、吐き出し!」
「大河。ちょっと、あの。押し倒してるから。落ち着いて。押し潰される」
「抱き潰しても押し潰さんから安心して吐き出し?な?」
「落ち着きなさい」
猫パンチのような腹パンは一切痛くないが、今日はハグ禁止令が出た。痛い。主に心が。
1/16ページ