霊感少女とびびり先輩
「メリークリスマース! 先輩! 今年もこの日がやって来ましたね!」
「ああ、待ってもないこの時期がやってきたな……」
同棲してから一年目の冬。
つまりは神山が高校三年の冬。
「受験は良いのか?」と訊いたなら、「私には神社がありますから」と答えられた。
つまりは高三にして受験が関係ない神山は、至って普通に『そこ』を眺めていた。
「大学で忙しくて全然私の相手をしてくれない先輩の為に、いい感じの海を探してきたんですよー。褒めてください!」
「なんか、ごめんなさい……」
俺には手招きしている腕しか視えないんだけど……。
ぼそりと呟いたその言葉。
けれども神山は素知らぬフリを決め込んでいた。
分かってた。分かってたよ。
神山から「先輩忙しいのは分かってますけど、クリスマスパーティーくらいはしません?」とお誘いがあった時から警鐘は煩いくらいに鳴っていたよ。
けれどもなんか、恋人として何もしてやれてないから。
せめてクリスマスパーティーくらいはしようと。
その結果がこれだよ。
そこはきっと普段は綺麗な海なのだろう。
けれど今は辺り一面なまっちろい腕がうじゃうじゃ。
ああ、帰りたい……。
こんな寒くて凍えそうな海より、毎食神山に作って貰ってる美味しい夕飯がある家に今すぐ帰りたい。
決して神山と外に出掛けるのが嫌というわけではないけれども。
この状況は毎年のことながら嫌すぎる。
というわけで、さっさと終わらせよう。
「で?」
「はい?」
「ケーキ。食うんだろ?」
「……先輩が倒れない! 気絶しない! 若葉驚き!」
「お前にはこの生まれたての小鹿のように震えた足が見えねぇのか?あ?」
「小鹿って。やだぁ、先輩可愛い」
「ぶちのめされてぇのか」
「えへへ。先輩がまた懲りずに一緒にクリスマスを過ごしてくれて、私は結構嬉しいんですよ」
ニッコリと笑った神山の顔は本当に嬉しそうで。
馬鹿じゃないのかと思った。
「先輩」
「なんだよ」
「ケーキ、食べてくれるんでしたよね?」
「おう」
「今年は苺の生クリームケーキにしました」
「ああ、俺が好きなケーキだな?」
珍しく自分が好きなチョコレートではなく、俺の好みに合わせてくれたようだ。
しかも一品だけ。珍しい。
いつもは多種多様、様々な種類のケーキを沢山持ってくるくせに。
「熱でもあるのか?」
「いえいえ。ただね。気付いたんです。私」
「何に?」
神山はゆっくりと紫に染まった唇を開いた。
いや、寒いならマフラーくらい巻いて来いよ。あとコート着ろよ。なんで制服だけでくるんだよ。
今年のクリスマスは日曜日だから学校もないのに何で制服!?
なんてずっと言いたかったけれど言えない雰囲気だ。
ごくりと唾を飲み込む。
神山はこてりと首を傾げて、言った。
「先輩。いつも気絶しちゃうから。全部食べるの私ですし、なら別に沢山持って来なくてもいいかなぁって思ったんですよねぇ」
「言っとくけど、気絶させてる原因お前だからな?」
「先輩がびびりなだけです。私悪くありません」
「なら普通に神社でメシでも何でも一緒に食えば良かっただろ。どっか出掛けるにしても街には色々あるし」
なんでお前、こういうところに拘るわけ?
実質色々居るから二人きりではないにしろ、生者は俺と神山の二人きりだ。
神山は言いづらそうに口をもごもごとさせている。
「言いたくねぇなら、別にいいけど」
「……せんぱいと、」
「あ?声がちいせぇ!」
「せ、先輩と、二人きりになりたかったから……」
「はぁ?」
思わず、眉を顰める。
「先輩。人気者ですし。大学でも陸上部で既に人気出てるって聞きましたし。片や私は友達も居ない不思議ちゃんとか言われてる女ですし。神社には大和様いらっしゃいますし……」
街中で二人で居たら先輩に悪い噂とか付き纏うんじゃないかって思ったら、廃墟とか、学校とか、夜の海とかしかなくて。
「色々言いたいけど、選択肢が可笑しいな。うん」
「真剣に言ってるんですよ!」
「お、おう。悪い……」
でもなぁ、と俺は頭を掻く。
「俺と神山の関係はなんだっけ?」
「え」
「何だ? お前、まさか俺を振った気でいたのか?」
「まさか! そんなことはないですけど……」
「知らなかったのか? 俺は結構独占欲が強いんだよ」
何でも知ってそうな神山だから、知っていても可笑しくないと思っていたんだが。
「神山」
「あ、はい」
「ケーキ食ってさっさと帰るぞ」
「帰らないと駄目ですか?」
「お前のメシ食いてぇなぁ」
「いくらでも作ります!」
「と言うわけで、ケーキ」
「はい!」
すっかり元気を取り戻した神山に、俺は笑う。
何やかんや言うが、神山は笑っていた方が可愛い。
最近は抵抗も恥ずかしさも無くなって来たその言葉。
そのすぐあとに神山が取り出した巨大なホールケーキを見て「まじかよ」と頬を引き攣らせる事態になるのだけれども。
冬の浜辺でブルーシートを敷いて、寒い中二人で食べたケーキは何処か甘かった。
まあ! 海から「おいでおいで」している腕は全力で見なかったことにしたけどな!
「ああ、待ってもないこの時期がやってきたな……」
同棲してから一年目の冬。
つまりは神山が高校三年の冬。
「受験は良いのか?」と訊いたなら、「私には神社がありますから」と答えられた。
つまりは高三にして受験が関係ない神山は、至って普通に『そこ』を眺めていた。
「大学で忙しくて全然私の相手をしてくれない先輩の為に、いい感じの海を探してきたんですよー。褒めてください!」
「なんか、ごめんなさい……」
俺には手招きしている腕しか視えないんだけど……。
ぼそりと呟いたその言葉。
けれども神山は素知らぬフリを決め込んでいた。
分かってた。分かってたよ。
神山から「先輩忙しいのは分かってますけど、クリスマスパーティーくらいはしません?」とお誘いがあった時から警鐘は煩いくらいに鳴っていたよ。
けれどもなんか、恋人として何もしてやれてないから。
せめてクリスマスパーティーくらいはしようと。
その結果がこれだよ。
そこはきっと普段は綺麗な海なのだろう。
けれど今は辺り一面なまっちろい腕がうじゃうじゃ。
ああ、帰りたい……。
こんな寒くて凍えそうな海より、毎食神山に作って貰ってる美味しい夕飯がある家に今すぐ帰りたい。
決して神山と外に出掛けるのが嫌というわけではないけれども。
この状況は毎年のことながら嫌すぎる。
というわけで、さっさと終わらせよう。
「で?」
「はい?」
「ケーキ。食うんだろ?」
「……先輩が倒れない! 気絶しない! 若葉驚き!」
「お前にはこの生まれたての小鹿のように震えた足が見えねぇのか?あ?」
「小鹿って。やだぁ、先輩可愛い」
「ぶちのめされてぇのか」
「えへへ。先輩がまた懲りずに一緒にクリスマスを過ごしてくれて、私は結構嬉しいんですよ」
ニッコリと笑った神山の顔は本当に嬉しそうで。
馬鹿じゃないのかと思った。
「先輩」
「なんだよ」
「ケーキ、食べてくれるんでしたよね?」
「おう」
「今年は苺の生クリームケーキにしました」
「ああ、俺が好きなケーキだな?」
珍しく自分が好きなチョコレートではなく、俺の好みに合わせてくれたようだ。
しかも一品だけ。珍しい。
いつもは多種多様、様々な種類のケーキを沢山持ってくるくせに。
「熱でもあるのか?」
「いえいえ。ただね。気付いたんです。私」
「何に?」
神山はゆっくりと紫に染まった唇を開いた。
いや、寒いならマフラーくらい巻いて来いよ。あとコート着ろよ。なんで制服だけでくるんだよ。
今年のクリスマスは日曜日だから学校もないのに何で制服!?
なんてずっと言いたかったけれど言えない雰囲気だ。
ごくりと唾を飲み込む。
神山はこてりと首を傾げて、言った。
「先輩。いつも気絶しちゃうから。全部食べるの私ですし、なら別に沢山持って来なくてもいいかなぁって思ったんですよねぇ」
「言っとくけど、気絶させてる原因お前だからな?」
「先輩がびびりなだけです。私悪くありません」
「なら普通に神社でメシでも何でも一緒に食えば良かっただろ。どっか出掛けるにしても街には色々あるし」
なんでお前、こういうところに拘るわけ?
実質色々居るから二人きりではないにしろ、生者は俺と神山の二人きりだ。
神山は言いづらそうに口をもごもごとさせている。
「言いたくねぇなら、別にいいけど」
「……せんぱいと、」
「あ?声がちいせぇ!」
「せ、先輩と、二人きりになりたかったから……」
「はぁ?」
思わず、眉を顰める。
「先輩。人気者ですし。大学でも陸上部で既に人気出てるって聞きましたし。片や私は友達も居ない不思議ちゃんとか言われてる女ですし。神社には大和様いらっしゃいますし……」
街中で二人で居たら先輩に悪い噂とか付き纏うんじゃないかって思ったら、廃墟とか、学校とか、夜の海とかしかなくて。
「色々言いたいけど、選択肢が可笑しいな。うん」
「真剣に言ってるんですよ!」
「お、おう。悪い……」
でもなぁ、と俺は頭を掻く。
「俺と神山の関係はなんだっけ?」
「え」
「何だ? お前、まさか俺を振った気でいたのか?」
「まさか! そんなことはないですけど……」
「知らなかったのか? 俺は結構独占欲が強いんだよ」
何でも知ってそうな神山だから、知っていても可笑しくないと思っていたんだが。
「神山」
「あ、はい」
「ケーキ食ってさっさと帰るぞ」
「帰らないと駄目ですか?」
「お前のメシ食いてぇなぁ」
「いくらでも作ります!」
「と言うわけで、ケーキ」
「はい!」
すっかり元気を取り戻した神山に、俺は笑う。
何やかんや言うが、神山は笑っていた方が可愛い。
最近は抵抗も恥ずかしさも無くなって来たその言葉。
そのすぐあとに神山が取り出した巨大なホールケーキを見て「まじかよ」と頬を引き攣らせる事態になるのだけれども。
冬の浜辺でブルーシートを敷いて、寒い中二人で食べたケーキは何処か甘かった。
まあ! 海から「おいでおいで」している腕は全力で見なかったことにしたけどな!