幕間

不思議な話をしましょう。
これは私の知り合いのお話です。
そのお宅は何でも『男児が早世する』家柄だったそうです。
哀しいお話ですね。
え?それだけだって?
いえいえー。違いますよー。先輩ったら早っ気さんなんだからぁ。

そのお宅の対角線上、まあ、斜めに違うお宅があったのです。
そのお宅の母親は体調を崩しがちでした。
そうしてある日、その家の娘と父親の間を何でも風が通り抜けたと言うではありませんか。
びっくりですねー。強風だったみたいですよ。
もちろんただの風ではありません。

え?何故分かるのかって?
それは開け放たれていながら窓が開いていない床の間から居間にかけて二人の間をスッと通るように。いえ、どちらかと言えば襲い掛かるかのように風が通り抜けたからです。
怖いですねぇ。

その風が吹いてから母親は益々体調を崩し、とうとう入院までしてしまったそうです。

きっと気のせいだ。
そうは思いながらも、その家の娘は夜な夜な床の間に出向いては何かよく分からない言葉で怒鳴っている父親の声を聞いていたのです。
娘は怖い話が好きではありましたが、実感するのと聞くだけでは話が違います。

耐え切れなくなった娘は、霊力のある祖母に助けを求めました。

え?霊力がある人間が早々居てたまるか?
何言ってるんですかー!
先輩だって霊力がなければ幽霊なんて見えませんよ!
話を続けますね!

その祖母は次の日、神棚で一晩清めたお塩を持って来てくれました。
そうして娘に頭から足の裏までくるくると線香を回してお祓い紛いをしました。
擽ったいのだそうです。
腰の辺りが、やけに。
まるで掴まれて居るかのように。

あ、先輩顔が真っ青ですよ?
大丈夫ですか?
まあ、そんな先輩はいつものことですよね!

祖母はお清めのお塩を撒き、玄関に置いて部屋の四隅にも結界を張るように置きました。
毎日線香を焚き続けました。

これで安心出来る。
母親の体調も良くなってきた。
嗚呼、安心出来る。

そんな風に思ったのが、気を緩めたのが運の尽きだったのでしょうね。

線香を焚く日々が続く中、線香の炎がぼぉっ!と勢いよく燃え上がり半分ほどになったのです。

親子は怯えました。
まだナニか知らない、得体の知れないモノが居る。

とうとう親子は近くの僧正様にお祓いをして貰えないかと頼みました。
僧正様は「不安が取り除けるなら」と、半信半疑な様子で受け入れます。
本来、親子はそういったモノが視える僧正様に頼みに行こうとしたのですが、まるで邪魔をされるように、彼の方は不在だったのです。

その僧正様は半信半疑ながら、すぐ様赴いてくださいました。

そうしてお祓いは始まります。

娘はついでに、と祖母が「これは良くない」と言っていた人形と、何故か雛祭り辺りに夢に出る、数年も仕舞っているお雛さん一式も祓って頂くことにしました。

雛祭り辺りに、とは何となく気になりますよね!
え?先輩は気にならないんですか?
だってきっとお雛さん達は会いたかっただけなのですよ?
また外の世界に出たかっただけなのですよ。
まあ、同情はしませんが。

お祓いも終わり、床の間のすべてのモノを捨て、人形もお雛さんもすべて捨てて。
床の間からは何も無くなりました。
しかし娘は何かが引っ掛かったのです。

なんだろう?
綺麗になったのに、ここから先が冷たい。怖い。

お祓いについていてくれた祖母に告げると、祖母は目を瞑り壁に顔を添わせます。
するとどうでしょう。
麻縄が出てきたのです。
その麻縄は後に聞けばお祭りで使った麻縄だったそうなのですが、祖母に「触ってみな」と言われ娘が触る、瞬間、手を離します。
祖母はしっかりと掴んでまるで畳に落とさないようにしていたそうです。

何故、娘が手を離したのか。

私はそれを聞いて久し振りにゾクゾクしましたよー。
勿体ぶるな?
怖いくせに生意気ですね!
そんな先輩も嫌いじゃないです。

その麻縄、水よりも氷よりも冷たく、まるで死人のような冷たさを持ったいたそうです。
ただの麻縄が、ですよ?
信じられませんよね!
私はそんなこともあるのだと、その話を聞いた時にはドキドキして眠れませんでした!
え?変態かキチガイだって?
だって仕方がないじゃないですか。
その麻縄。

まるで首吊りをするかのような形で人知れず吊るさがっていたと言うのですから。

そう。母親がいつも床の間で涼んでいる 頭の位置と、同じ場所で。


「どーですか?怖かったです?」
「……何でこれから麻縄の処理をする時に話したんだよ」
「え?だって、」


その麻縄が、その知人の家の麻縄なんですもん。


そう話すと先輩はびゃっ、と声を上げて麻縄を落とす。
直前に、私がゲットした。
若葉ちゃん偉い!


「というか、対角線上だとか言う話はどこ言ったんだよ?」
「ああ、アレですか」


ふふん、と楽しそうに鼻を鳴らしてみた。
先輩は私のその鼻をぎゅっと摘む。
苦しいですよー!と騒げば、先輩は話してくれた。


「その不幸なお家から知人の家の床の間は、対角線上に在るんです。まるで不幸を連鎖させようとするみたいに」


霊道、というのが通っているのかも知れませんね!
まあ、私はそのお家を見たことがないので分かりませんが。


「何でそんな話を俺にするかな?お前は?」
「だって先輩が暑い暑いと言ってましたから、冷やそうかと」
「そうだな。肝が冷えたわ」
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