幕間

「先輩はどうしたらそんなに引っ憑けてくるんでしょうねぇ」

黒いモヤ――心残りのある魂の残留思念のようなモノ――を千切っては投げ、千切っては投げを繰り返している私に先輩は「仕方がねぇだろ」と眉間に皺を寄せる。

「相手が勝手に追い掛けてきたんだから」

「怖いですねー」

「お前が平然とした顔で千切っては投げてるモノだけどな」

「私はその状況を怖いと言ったんですよ。嫌じゃないですかぁ、まるでテケテケみたいに這いずって全速力というと何か違いますけど、腕の力のみでロードワーク中の自転車に負けず劣らずな勢いで走ってる先輩を襲い来るモノなんてぇ」

「うん。俺はそれをさも見ていたかのように言うお前が怖い」

そうですかぁ? と私は首を傾げる。
だって視えるのだから仕方がないじゃないですか、と言えば先輩はそれこそ仕方がないとばかりに笑った。

「そんなお前に助けられてるんだから感謝しねぇとなぁ」

「そうですよー。だから私は駅前に出来た喫茶店のパフェを所望します!」

「あのカップルで溢れ返ってる店に、俺とお前で行くのか?」

「はい、良いカップルを演じられそうですよね!」

なぁんて。冗談ですよー。
そう言いかけて、先輩がわりと真剣に考えている顔をしていたから、私は何も言うことが出来なくて。
ただ、先輩に憑いたモヤを急くようにして千切っては投げた。
先輩を困らせてしまっただろうか?
こんな友人も居ない私なんかと居て噂になんてなりたくないだろうし。

「よし」

「どうしました?」

先輩が何かを思いついたようなしたり顔で私を見る。

「俺が受験に合格したら、パフェ奢ってやるよ」

「あー……そう言えば先輩、受験生でしたね」

「まぁなぁ。だからしばらくはお預けな」

にっかりと、白い歯を見せて笑う先輩の顔が今日も眩しいなぁ、と思いながら。
楽しみにしてます。とそう言った。

寒さ染みる冬の頃、先輩とこっそり『約束』をした。
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