SS 81~100
人と同じ様に息をし、食事を摂り、笑い、怒り、泣く。
ただ違うのは、尖った耳と鋭い爪を持つくらい。
彼女と俺との違いはたったそれだけ。
そんな、優しく暖かな心を持つ彼女と出会ったのは幼い頃。
腹を空かせていた彼女にパンを与えたのが俺達の始まり。
それから彼女は城から出られない俺の為にいつも外の話を聞かせてくれた。
俺の知らない様々な事を聞かせてくれる彼女が、大切な友人から大好きな唯一になるまで時間は掛からなかった。
――そんな彼女の存在が今日、側近にバレた。
「……めろっ! やめてくれ!」
必死な声を出し、手を伸ばすも側近によって遮られる。
「王子! 危のうございます!」
「良くもこの国の大切な王子を誑かしてくれたな! この化け物が!」
兵士の一人が彼女の腹を嫌悪と憎悪を滲ませた瞳をしながら蹴る。
ボキッ、と骨が折れるような音が聞こえ、咄嗟に叫び声をあげた。
「やめろっ!」
やめてくれ。やめてくれ。やめてくれ。
彼女を、傷付けないでくれ。
喉が裂けるんじゃないかというくらい声を張り上げた。
何度も何度も、血を吐くのではないかというくらい。
けれど彼女を攻撃する兵士の手は止まず、牢の中の鎖に繋がれ、殴り、蹴られ、長い木の棒のようなもので叩かれた彼女は体をくたりとさせ、先程からピクリとも動かない。
その事実に、恐怖した。
「あああああぁああああああ!」
俺を守るように立ち塞がる側近を押し退けようとするが、鍛えられた側近の体は僅かに動くだけ。
発狂したように叫んだ俺に何を思ったのか、側近は俺を半ば強引に引き連れ彼女が居る牢から離れた自室へと誘う。
「王子にはショックが多い場面でしたでしょう。アレの処分は我々に任せて本日はもうお休みになさってください」
そう言うと一礼をし、側近は部屋から出ていく。
カチャリと音がしたから、俺は自室に閉じ込められたようだ。
バンバンと重厚な扉を叩く。
意味なんてないと分かっていても、とめることなんて出来なかった。
今この瞬間でさえ彼女が耐え難い苦痛を味あわされているのだと思うと。
辛くて、悲しくて、どうにも出来ない自分の無力さに苛立って。
何度も、何度も、彼女の名前を呼んだ。
夜になり、朝が来てもそれは止めず、俺はただひたすらに叫び続け、昼になり気を失った俺が次に見たのは――
君が何処にも居ない世界だった。
彼女は公になることなく殺害され、その亡骸は俺と対面する前に焼かれた。残った骨は砕かれ、粉々にされて、魔獣の餌に混ぜ混まれたらしい。
なあ。彼女は一体何をした?
ただ俺の話し相手になってくれていた。それだけじゃないか?
なのになんでそんな目に合うんだ?
「……人間の方が、よっぽど化け物じゃないか」
崩れ落ちた体を支える側近の腕さえ汚ならしく感じて。弱い力で突っぱねる。
側近は困ったような顔をしていたけれど俺にはそれに答える気力もなかった。
世界中の人間全てを敵に回しても、守りたかったヒトが居た。
愛したかったヒトが居た。
俺は彼女を守れなかった自分の不甲斐なさと、人間の醜さに耐えられず。
けれども王子という立場は崩れ落ちる事を許してはくれなくて。
数年経った今でも、彼女と話した庭に赴いては何をするでもなく言葉を投げ掛ける。
「なあ、恨んでいるか?」
返事は当然のようにない。
分かっていて、俺は再度口を開く。
「俺は恨んでいるよ。今でも人間を赦せそうにない」
君を奪った人間を。
君を守れなかった俺自身を。
「……っ、守れなくて、ごめんなっ」
ぼたりぼたりと大粒の涙が袖を濡らす。
俺は今でも守るべき人間が憎くて堪らないのだ。
titel by:「たとえば僕が」
ただ違うのは、尖った耳と鋭い爪を持つくらい。
彼女と俺との違いはたったそれだけ。
そんな、優しく暖かな心を持つ彼女と出会ったのは幼い頃。
腹を空かせていた彼女にパンを与えたのが俺達の始まり。
それから彼女は城から出られない俺の為にいつも外の話を聞かせてくれた。
俺の知らない様々な事を聞かせてくれる彼女が、大切な友人から大好きな唯一になるまで時間は掛からなかった。
――そんな彼女の存在が今日、側近にバレた。
「……めろっ! やめてくれ!」
必死な声を出し、手を伸ばすも側近によって遮られる。
「王子! 危のうございます!」
「良くもこの国の大切な王子を誑かしてくれたな! この化け物が!」
兵士の一人が彼女の腹を嫌悪と憎悪を滲ませた瞳をしながら蹴る。
ボキッ、と骨が折れるような音が聞こえ、咄嗟に叫び声をあげた。
「やめろっ!」
やめてくれ。やめてくれ。やめてくれ。
彼女を、傷付けないでくれ。
喉が裂けるんじゃないかというくらい声を張り上げた。
何度も何度も、血を吐くのではないかというくらい。
けれど彼女を攻撃する兵士の手は止まず、牢の中の鎖に繋がれ、殴り、蹴られ、長い木の棒のようなもので叩かれた彼女は体をくたりとさせ、先程からピクリとも動かない。
その事実に、恐怖した。
「あああああぁああああああ!」
俺を守るように立ち塞がる側近を押し退けようとするが、鍛えられた側近の体は僅かに動くだけ。
発狂したように叫んだ俺に何を思ったのか、側近は俺を半ば強引に引き連れ彼女が居る牢から離れた自室へと誘う。
「王子にはショックが多い場面でしたでしょう。アレの処分は我々に任せて本日はもうお休みになさってください」
そう言うと一礼をし、側近は部屋から出ていく。
カチャリと音がしたから、俺は自室に閉じ込められたようだ。
バンバンと重厚な扉を叩く。
意味なんてないと分かっていても、とめることなんて出来なかった。
今この瞬間でさえ彼女が耐え難い苦痛を味あわされているのだと思うと。
辛くて、悲しくて、どうにも出来ない自分の無力さに苛立って。
何度も、何度も、彼女の名前を呼んだ。
夜になり、朝が来てもそれは止めず、俺はただひたすらに叫び続け、昼になり気を失った俺が次に見たのは――
君が何処にも居ない世界だった。
彼女は公になることなく殺害され、その亡骸は俺と対面する前に焼かれた。残った骨は砕かれ、粉々にされて、魔獣の餌に混ぜ混まれたらしい。
なあ。彼女は一体何をした?
ただ俺の話し相手になってくれていた。それだけじゃないか?
なのになんでそんな目に合うんだ?
「……人間の方が、よっぽど化け物じゃないか」
崩れ落ちた体を支える側近の腕さえ汚ならしく感じて。弱い力で突っぱねる。
側近は困ったような顔をしていたけれど俺にはそれに答える気力もなかった。
世界中の人間全てを敵に回しても、守りたかったヒトが居た。
愛したかったヒトが居た。
俺は彼女を守れなかった自分の不甲斐なさと、人間の醜さに耐えられず。
けれども王子という立場は崩れ落ちる事を許してはくれなくて。
数年経った今でも、彼女と話した庭に赴いては何をするでもなく言葉を投げ掛ける。
「なあ、恨んでいるか?」
返事は当然のようにない。
分かっていて、俺は再度口を開く。
「俺は恨んでいるよ。今でも人間を赦せそうにない」
君を奪った人間を。
君を守れなかった俺自身を。
「……っ、守れなくて、ごめんなっ」
ぼたりぼたりと大粒の涙が袖を濡らす。
俺は今でも守るべき人間が憎くて堪らないのだ。
titel by:「たとえば僕が」