SS 61~80
特に意味も理由もないけれど、何故だか無性に君に会いたくなった。
財布と携帯をポケットに押し込んで、リビングに居た母親に出掛けてくると言って外に出る。
靴を履いている時に何か言われた気がしたが、彼女に会いたい思いに思考が捕らわれていたからか左から右へと流れて行ってしまった。
彼女の家までは電車一本分の距離。
都会ならまだしも、街灯も殆どないに等しいし、田舎でその距離を歩くには些か無理がある。
田舎だから一時間に一本、あるかないか。
電車があるにせよないにせよ、それを逃すと会うのはかなり難しくなるだろう。
電車がある事に掛けて無人の駅に向かってアスファルトを蹴った。
荒い息を整えながら額から顎に伝った汗を拭う。
無人の駅にある時刻表を見れば、幸いにも15分後に最終電車が来るらしい。
良かった。と息を吐きながら、誰も居ない駅のホームに置かれているベンチに腰掛けた。
冷えたベンチにぶるり、身体が震える。
汗が引いて身体の熱が下がってきたからか、それとも秋になったからなのか。
星空輝く夜空の下は些か肌寒い。
何か上に羽織るものでも持ってくれば良かったなと後悔した。
けれどそれほどまでに彼女に会いたかったのかと思うと笑ってしまう。
全部全部衝動的だ。
明日母親に何て言えばいいのだろうか。
『彼女に会いたくなったから何も考えずに飛び出してしまった』
確実にどやされるだろうな。
もしくは冷やかされて当分の笑いのネタにされるだろう。
それでも構わない。
だから早く。はやく。彼女の下へ。
何がどうしてこんなにも会いたいのか理由すら分からないけれど。
今この瞬間。電車を待つ時間すらもどかしい程に君に会いたい。
「……、は」
一旦急いた気持ちを落ち着かせる為に息を吐く。
そうしてグッと伸びをした。
視界の端にちらりと駅を照らす街灯には沢山の虫が集まっているのが見えた。
こんな時間に今から会いに行くとメールをしたら、彼女は驚くかな?
それとも、こんな遅くに尋ねて行く事を怒るかな?
正直、どちらでもいい。
「……はやく、」
早く、早く、
君に会いたくて仕方がないんだ。
「んで?こんな時間に女の子の家に尋ねて来て、いきなり無言で抱き締めてきた理由がそれ?」
「……」
「ちょっとー?無視しないでこっち向いてくれませんかねー?」
「……にやにやするのやめるなら向きます」
「それは無理。私に会いたくて電車で1時間は掛かる私の家に来ちゃうとか、私の彼氏が可愛い過ぎてにやけるのも当然!」
「うるさい」
「ふーん。そんなこと言っても良いのかなぁ?なぁんにも考えないで終電乗っちゃったからウチに止まるしかないのにー。あ、もしかしてそれで照れてたりしてたりするのー?」
「っも、ほんと黙りやがって下さい。マジで」
「やぁだよ。だって嬉しいんだもん」
「……俺の醜態が?」
「んふふー。まあ、それもあるけど、」
ぽそりとあるのかよと呟いた声が彼女に聞こえたのかどうなのか定かではないけれど。
「好きな人にそんな風に求められて嬉しくない訳がないよねって訳ですよ」
にへらぁと頬をだらしなく緩めながら彼女がそんな可愛らしい事を言うものだから、もう一度彼女を抱き締める為に腕を伸ばした。
財布と携帯をポケットに押し込んで、リビングに居た母親に出掛けてくると言って外に出る。
靴を履いている時に何か言われた気がしたが、彼女に会いたい思いに思考が捕らわれていたからか左から右へと流れて行ってしまった。
彼女の家までは電車一本分の距離。
都会ならまだしも、街灯も殆どないに等しいし、田舎でその距離を歩くには些か無理がある。
田舎だから一時間に一本、あるかないか。
電車があるにせよないにせよ、それを逃すと会うのはかなり難しくなるだろう。
電車がある事に掛けて無人の駅に向かってアスファルトを蹴った。
荒い息を整えながら額から顎に伝った汗を拭う。
無人の駅にある時刻表を見れば、幸いにも15分後に最終電車が来るらしい。
良かった。と息を吐きながら、誰も居ない駅のホームに置かれているベンチに腰掛けた。
冷えたベンチにぶるり、身体が震える。
汗が引いて身体の熱が下がってきたからか、それとも秋になったからなのか。
星空輝く夜空の下は些か肌寒い。
何か上に羽織るものでも持ってくれば良かったなと後悔した。
けれどそれほどまでに彼女に会いたかったのかと思うと笑ってしまう。
全部全部衝動的だ。
明日母親に何て言えばいいのだろうか。
『彼女に会いたくなったから何も考えずに飛び出してしまった』
確実にどやされるだろうな。
もしくは冷やかされて当分の笑いのネタにされるだろう。
それでも構わない。
だから早く。はやく。彼女の下へ。
何がどうしてこんなにも会いたいのか理由すら分からないけれど。
今この瞬間。電車を待つ時間すらもどかしい程に君に会いたい。
「……、は」
一旦急いた気持ちを落ち着かせる為に息を吐く。
そうしてグッと伸びをした。
視界の端にちらりと駅を照らす街灯には沢山の虫が集まっているのが見えた。
こんな時間に今から会いに行くとメールをしたら、彼女は驚くかな?
それとも、こんな遅くに尋ねて行く事を怒るかな?
正直、どちらでもいい。
「……はやく、」
早く、早く、
君に会いたくて仕方がないんだ。
「んで?こんな時間に女の子の家に尋ねて来て、いきなり無言で抱き締めてきた理由がそれ?」
「……」
「ちょっとー?無視しないでこっち向いてくれませんかねー?」
「……にやにやするのやめるなら向きます」
「それは無理。私に会いたくて電車で1時間は掛かる私の家に来ちゃうとか、私の彼氏が可愛い過ぎてにやけるのも当然!」
「うるさい」
「ふーん。そんなこと言っても良いのかなぁ?なぁんにも考えないで終電乗っちゃったからウチに止まるしかないのにー。あ、もしかしてそれで照れてたりしてたりするのー?」
「っも、ほんと黙りやがって下さい。マジで」
「やぁだよ。だって嬉しいんだもん」
「……俺の醜態が?」
「んふふー。まあ、それもあるけど、」
ぽそりとあるのかよと呟いた声が彼女に聞こえたのかどうなのか定かではないけれど。
「好きな人にそんな風に求められて嬉しくない訳がないよねって訳ですよ」
にへらぁと頬をだらしなく緩めながら彼女がそんな可愛らしい事を言うものだから、もう一度彼女を抱き締める為に腕を伸ばした。