SS 61~80

「ごめん、ごめん、ごめんなさい」


ぼろぼろと涙を流しながら、ただひたすらに「ごめんなさい」と繰り返す貴方。
私は何に対して謝られているのか分からなくて、首を傾げる。


「俺…俺のせいだ…俺のせいで……なんで俺、お前は平気だって思ってたんだろう…っ」


こんなに好きだって、なんで今更気付いたんだろう…っ。


何かに耐えるように歯を食い縛る貴方に益々意味が分からない。
一体全体、どうしたと言うのだろうか?
どうして貴方はそんな風に泣いているの?
誰かに何か言われたの?
それともまた振られちゃった?


そう聞けば傷付いたような顔をくしゃりと歪めた。


「……振られるわけないよ」

「?」

「だって俺が付き合ってるの、お前だもん」


まだお前に振られてないから、だから振られてない。


「……つきあってる?私と貴方が?」


そう呟けば、頷かれた。その拍子に、はらりと涙が落ちる。


私と貴方は付き合ってる。
……ああ、そう言われればそうだったのかも知れない。
なんだか随分と昔のことのような気がして、忘れてしまったけれど。
なんで付き合ってるのにそう昔のことだと思ったんだろう。


(ああ、そうか)


貴方が浮気を繰り返すようになったからだ。


告白は貴方からだった。
でも、飽きたのも貴方からだった。
だから浮気を繰り返すようになって。
何も言えなかった私は、……確かそう。
悔しい気持ちも。悲しい気持ちも。それでも貴方を好きだと思った気持ちも。
全部全部。隠そうとして。


……隠そうとして、何をしたんだっけ?


思い出せない。と、言うよりも思い出そうとすると頭がガンガンと痛む。
眉根を寄せて額に手を添える。
そんな私の様子に動揺する貴方。


「痛いの…っ?」


その言葉に、ふるふると首を振る。
それを見た貴方がホッと息をついた。


「……っよかった」


良かった。
また泣き出してしまった貴方に、しょうがないなぁ、と腕を伸ばして。


はた、と気付いた。


そういえば、


「……貴方の名前、なんだっけ?」

「……っえ?」


どうしたって貴方の名前が出てこない。
どうしてしまったのだろうかと首を傾げて。
愕然とした表情で瞳を見開いていく貴方の様子を、ズキズキと痛む額を手を当てながらどこか遠くで見つめる。
視界の端で腕に巻かれた真白い包帯が見えて益々頭が痛くなった気がした。
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