SS 61~80

「お前良くそんなもん食えるよな」

「はい?」


スプーンを咥えたままの状態で振り向けば、眉間に皺を寄せて嫌そうな顔をした恋人の姿。


「美味しいですよ?食べます?」

「いらねぇー」


はい、と抹茶ゼリーを一掬いしたスプーンを差し出せばべぇっと舌を出して拒絶した恋人。
それを見てくふりと笑う。


「美味しいのに」

「嫌いなんだよ」


美味しいのに。ともう一度口の中で呟いてパクリとスプーンに掬ったそれを口に入れた。


うん。やっぱり美味しい。


にへにへと緩む頬を隠さずに滑らかな舌触りがするゼリーを楽しんでいる時、ふと悪戯を思い付いた。


「ねぇねぇ」

「あんだよ」

「ちゅーしたいです」

「は?」

「ちゅーしましょう」

「ナニ?お前頭になんか沸いたの?」

「純粋にちゅーしたいだけなのに酷いですよー」

「いや、お前が純粋にとか無いわー」


訝しむ恋人に酷いです。と呟いて、それでも諦めずに恋人に差し出すように両手を広げた。
何考えてやがんだというような顔をしながら、それでも近付いてきてくれた彼に、優しいなー、と口に出したものなら顔を真っ赤にして頭を叩かれそうな事を考える。


「ナニ?甘えたいの?」

「んー…じゃあ甘えたいです」


じゃあってなんだよ。
困ったように苦笑する恋人と見つめ合う。
そんな隙を付いて、ぶちゅっと唇を押し付けた。


「奪っちゃったぁ~」

「……あまっ」


ふふっ、と笑い声を上げて口角を吊り上げた。
恋人は不味そうに顔を顰めている。間接的にでも甘いものがダメらしい。
そんな恋人に向かって一言。


「甘いものも良くないですか?」


そう言えば目尻を赤く染めた恋人は悔しそうに顔を腕で覆って「……そうだな」と吐き捨てた。
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