SS 61~80
いつかお前が居なくなる未来を、俺は確かに知っていた。
それでも実際にその場面に直面した時、俺は確かに思ったんだ。
「……へんなかお」
ふふ、と唇を薄く開いて笑った彼女は楽しそうに目尻を下げた。
「ねえ、なかないでよ」
そんな無茶なこと言うなよ。
そう言おうと思って唇を開いたら、ぽろり、涙が落ちた。
それはボロボロと彼女の頬に落ちていく。
「ふふ。しょっぱいわ」
涙って、しょっぱいのね。知らなかったわ。
「……っごめん」
「?」
「ごめん……、俺は……」
お前を救えなかった。
こうなる未来は分かっていた。
だからって抵抗しようとしなかった訳ではない。
彼女を失う未来を享受するだなんて俺には出来なかったから。
何度も、何度も、彼女は‘悪’ではないと進言した。
―――けれど駄目だった。
彼女に怯えた人間は、俺の言葉なんて認めなかった。
認めるのが怖かったのだろう。
今まで彼女を‘悪’と信じていたから、本当は違うのだと、その間違いを認める事が怖かったのだ。
「あなたが、なにをおもっているのか、わたしにはわからない」
でもね?と彼女は微かに微笑んだ。
「わたし、あなたにであえて、しあわせだったわ」
それだけは確かなの。
そう言った彼女にそんな訳ないと首を振った。
お前を苦しめる事しか出来ない俺に、出会えて幸せだなんて。
そんな事を言わないでくれ。
頼むから。
間違ってもお前だけは…っ
「もういいの」
「……っ」
もう、充分だよ。
私の命を終わらせてくれたのが貴方だったから。
貴方だから私は良いと思ったから。
だから、
「わたしがしんだら、わすれてね」
なあ、なんでそんな事言うんだよ。
俺はお前を忘れたくない。
お前を忘れなければ、俺がお前の命を奪った事実を忘れないでいられるんだって、
分かれよ。
頼むから。
言いたい事は山のようにあるのに、次から次から流れてくる涙のせいで喉に突っ掛かって出てきやしない。
オマケに彼女の顔もロクに見えないときた。
笑えない事実だ。
覆る事のない現実だ。
彼女はもう助からない。
当たり前だ。俺がそうなるようにしたのだから。
むしろ今まで良く持っていた方だろう。
こんなところで彼女が人では無いと実感する。
それが良いことなのか、悪いことなのか。
俺にはもう、判断なんて出来やしないけれど。
彼女は俺の悲しみや後悔なんて知らないとばかりに唇を動かし。
最後の言葉を口にする。
「さよなら」
いとしいひと。
お前がただの女で在ったなら。
お前と出逢う未来すら無かったのだろうか?
それは酷く悲しくて、けれど同時にお前が居なくなる未来も無かったのだと思うと。
あまりにも残酷だなと、乾いた笑いを溢す。
お前が死ぬくらいなら、そんな未来だって幾らでも受け入れたのにな。
それでも実際にその場面に直面した時、俺は確かに思ったんだ。
「……へんなかお」
ふふ、と唇を薄く開いて笑った彼女は楽しそうに目尻を下げた。
「ねえ、なかないでよ」
そんな無茶なこと言うなよ。
そう言おうと思って唇を開いたら、ぽろり、涙が落ちた。
それはボロボロと彼女の頬に落ちていく。
「ふふ。しょっぱいわ」
涙って、しょっぱいのね。知らなかったわ。
「……っごめん」
「?」
「ごめん……、俺は……」
お前を救えなかった。
こうなる未来は分かっていた。
だからって抵抗しようとしなかった訳ではない。
彼女を失う未来を享受するだなんて俺には出来なかったから。
何度も、何度も、彼女は‘悪’ではないと進言した。
―――けれど駄目だった。
彼女に怯えた人間は、俺の言葉なんて認めなかった。
認めるのが怖かったのだろう。
今まで彼女を‘悪’と信じていたから、本当は違うのだと、その間違いを認める事が怖かったのだ。
「あなたが、なにをおもっているのか、わたしにはわからない」
でもね?と彼女は微かに微笑んだ。
「わたし、あなたにであえて、しあわせだったわ」
それだけは確かなの。
そう言った彼女にそんな訳ないと首を振った。
お前を苦しめる事しか出来ない俺に、出会えて幸せだなんて。
そんな事を言わないでくれ。
頼むから。
間違ってもお前だけは…っ
「もういいの」
「……っ」
もう、充分だよ。
私の命を終わらせてくれたのが貴方だったから。
貴方だから私は良いと思ったから。
だから、
「わたしがしんだら、わすれてね」
なあ、なんでそんな事言うんだよ。
俺はお前を忘れたくない。
お前を忘れなければ、俺がお前の命を奪った事実を忘れないでいられるんだって、
分かれよ。
頼むから。
言いたい事は山のようにあるのに、次から次から流れてくる涙のせいで喉に突っ掛かって出てきやしない。
オマケに彼女の顔もロクに見えないときた。
笑えない事実だ。
覆る事のない現実だ。
彼女はもう助からない。
当たり前だ。俺がそうなるようにしたのだから。
むしろ今まで良く持っていた方だろう。
こんなところで彼女が人では無いと実感する。
それが良いことなのか、悪いことなのか。
俺にはもう、判断なんて出来やしないけれど。
彼女は俺の悲しみや後悔なんて知らないとばかりに唇を動かし。
最後の言葉を口にする。
「さよなら」
いとしいひと。
お前がただの女で在ったなら。
お前と出逢う未来すら無かったのだろうか?
それは酷く悲しくて、けれど同時にお前が居なくなる未来も無かったのだと思うと。
あまりにも残酷だなと、乾いた笑いを溢す。
お前が死ぬくらいなら、そんな未来だって幾らでも受け入れたのにな。