SS 41~60
耳に押し当てた携帯から響く保留音。
プツリ、という音が不意に聞こえて口を開いた。
――今どこに居るの?
そう言おうとして、けれど出来なかったのは、
『だぁれぇ?』
甘ったるい声が耳障りに鼓膜を揺らす。
フッ、と思わず笑ってしまった。
(あーあ。また負けちゃったね?)
電話の声の主が何かを言っているが頭に内容が入ってこない。
と、いうよりも正確に言うならば「だぁれ?」「何か話なさいよぉ」という言葉を繰り返しているだけだから、理解する必要性がないだけなのだが。
というか人の携帯に勝手に出た挙げ句に相手が誰かも知れない状況で不躾な言葉遣いを平然と出来ること事態が信じられない。
だから話をする必要性はないと判断する。
キンキンと小煩いがそんなものはどうだっていい。
しばらくそんな状態を続けていれば、少し言い争う声。
通話状態のままだとはいえ、精密に聞き取ることは出来ないが。
『……っもしもし?深雪?』
「ええ。随分とお楽しみだったみたいね?邪魔してごめんなさい」
聞こえてきたのは掠れた甘い声。
情事の後を匂わす声を指してそう言えば、電話の向こう側であからさまに慌てた雰囲気。
『ちょ、待って!今回のは違うってっ!』
「その言い訳、5回目よ?」
『本当に違うんだって!あっちが誘ってきたからっ、』
「それは10回目。第一に誘いに乗ったのは貴方でしょう?」
呆れた物言いにそう吐き捨てれば、『っごめん!』と謝りの言葉が聞こえた。
『本当にごめん!でも、俺が愛してるのは深雪だけだよ?』
その言葉にハッと笑ってしまった。
愛しているのが私だけだから何だって言うの?
それが自分勝手で、尚且つ私を貶すような言葉だと気付いていないのかしら?気付いていないのでしょうね。
「別に良いわよ」
『……っえ』
「なに?許して欲しいんでしょう?じゃあ許すわ」
『……え、え?でも…』
困惑した声だ。
それはそうか。彼は私に妬いて欲しくて浮気なんて繰り返しているのだから。
それが簡単に許されて、困惑しているのだ。
(馬鹿な男)
許すって言ったのだから、素直に喜べばいいのに。
『……オレ、浮気したよ?』
「ええ。良く聞こえてきたわよ?浮気相手が怒って部屋から出ていく声まで」
『じゃあなんで、』
――なんでヤキモチ妬いてくれないの?
焦りすら滲んだその言葉に面と向かっていたならお腹を抱えながら笑って、引っ叩いていたかも知れない。
「そんなの決まってるじゃない」
ヤキモチを妬かない理由はね?
もう貴方が誰と浮気しようと構わないって思っているからよ。
『…………え』
「分からなかった?もっと分かりやすく言いましょうか?」
――私はもう、貴方のことを何とも想ってはいないの。
『……っき、らいって、こと?』
「嫌いじゃないわ。興味がないだけ」
嘘を吐かれれば信頼はなくなるし。
浮気をされれば愛情は薄れていく。
つまりはそういうこと。
「愛想を尽かせたのよ。だから貴方が誰と何をしてようと興味がないの」
『……っ』
ヒュッと息を呑む音が聞こえた。
それに少しだけ溜飲が下がる気がして、まだこんな男のことを欠片でも好きだったのかと自嘲する。
「話はそれだけよ。邪魔してごめんなさいね?まあ、相手は帰ってしまったけれど、貴方なら誰か捕まえられるでしょう?電話一本で駆け付けてくれるオトモダチが沢山居るみたいだから」
『……っ待って!今どこに居るの!?ちゃんと話そうよ!オレ今から行くから、』
「私には話すことなんてこれ以上ないわ」
確かに電話だけで終えるのは今まで付き合ってきた関係性に失礼かもしれないけれど。
私はもう、貴方の顔を見たくもない。
少しでも顔を見て話してしまえば、ほだされてしまう気がしたから。
「もう会うことはないと思うから、最後に言っておくわね?」
『最後ってなんだよ!?今どこに居るわけ!?』
荒い息遣いが聞こえてきた。ああ、走っているんだと笑ってしまう。
アレだけ浮気をして、記念日でも誕生日でも浮気相手と居たような適当な男が。
こんな別れ話で必死になるだなんて。
今更ね。
「貴方の浮気の理由が嫉妬をして欲しい以外にあるって知ってるわよ」
『……っえ?』
「私、これでも貴方のこと好きだったから。それくらい気付いていたわ」
「好き?」と音だけで言った疑問の声にクスリと笑う。
私の気持ちを疑って、それで妬かせたくて浮気を繰り返した馬鹿な男。
妬けば心が向いていると思って。
確かに私は滅多に“好き”だと口にしなかった。
そう容易く口にしていい言葉ではないと思っていたからね?
その事に貴方が不安を感じていたことくらいは気付いていたわ。
でもだからなんだって言うのよ。
「浮気は浮気。私は許せないわ」
私に愛を囁く声で、私を優しく触る指で。
私の知らない女を抱く貴方を、もう許せそうにないの。
「だからさようなら」
――もう二度と会いたくもない、私の好きだった人。
プツリ、という音が不意に聞こえて口を開いた。
――今どこに居るの?
そう言おうとして、けれど出来なかったのは、
『だぁれぇ?』
甘ったるい声が耳障りに鼓膜を揺らす。
フッ、と思わず笑ってしまった。
(あーあ。また負けちゃったね?)
電話の声の主が何かを言っているが頭に内容が入ってこない。
と、いうよりも正確に言うならば「だぁれ?」「何か話なさいよぉ」という言葉を繰り返しているだけだから、理解する必要性がないだけなのだが。
というか人の携帯に勝手に出た挙げ句に相手が誰かも知れない状況で不躾な言葉遣いを平然と出来ること事態が信じられない。
だから話をする必要性はないと判断する。
キンキンと小煩いがそんなものはどうだっていい。
しばらくそんな状態を続けていれば、少し言い争う声。
通話状態のままだとはいえ、精密に聞き取ることは出来ないが。
『……っもしもし?深雪?』
「ええ。随分とお楽しみだったみたいね?邪魔してごめんなさい」
聞こえてきたのは掠れた甘い声。
情事の後を匂わす声を指してそう言えば、電話の向こう側であからさまに慌てた雰囲気。
『ちょ、待って!今回のは違うってっ!』
「その言い訳、5回目よ?」
『本当に違うんだって!あっちが誘ってきたからっ、』
「それは10回目。第一に誘いに乗ったのは貴方でしょう?」
呆れた物言いにそう吐き捨てれば、『っごめん!』と謝りの言葉が聞こえた。
『本当にごめん!でも、俺が愛してるのは深雪だけだよ?』
その言葉にハッと笑ってしまった。
愛しているのが私だけだから何だって言うの?
それが自分勝手で、尚且つ私を貶すような言葉だと気付いていないのかしら?気付いていないのでしょうね。
「別に良いわよ」
『……っえ』
「なに?許して欲しいんでしょう?じゃあ許すわ」
『……え、え?でも…』
困惑した声だ。
それはそうか。彼は私に妬いて欲しくて浮気なんて繰り返しているのだから。
それが簡単に許されて、困惑しているのだ。
(馬鹿な男)
許すって言ったのだから、素直に喜べばいいのに。
『……オレ、浮気したよ?』
「ええ。良く聞こえてきたわよ?浮気相手が怒って部屋から出ていく声まで」
『じゃあなんで、』
――なんでヤキモチ妬いてくれないの?
焦りすら滲んだその言葉に面と向かっていたならお腹を抱えながら笑って、引っ叩いていたかも知れない。
「そんなの決まってるじゃない」
ヤキモチを妬かない理由はね?
もう貴方が誰と浮気しようと構わないって思っているからよ。
『…………え』
「分からなかった?もっと分かりやすく言いましょうか?」
――私はもう、貴方のことを何とも想ってはいないの。
『……っき、らいって、こと?』
「嫌いじゃないわ。興味がないだけ」
嘘を吐かれれば信頼はなくなるし。
浮気をされれば愛情は薄れていく。
つまりはそういうこと。
「愛想を尽かせたのよ。だから貴方が誰と何をしてようと興味がないの」
『……っ』
ヒュッと息を呑む音が聞こえた。
それに少しだけ溜飲が下がる気がして、まだこんな男のことを欠片でも好きだったのかと自嘲する。
「話はそれだけよ。邪魔してごめんなさいね?まあ、相手は帰ってしまったけれど、貴方なら誰か捕まえられるでしょう?電話一本で駆け付けてくれるオトモダチが沢山居るみたいだから」
『……っ待って!今どこに居るの!?ちゃんと話そうよ!オレ今から行くから、』
「私には話すことなんてこれ以上ないわ」
確かに電話だけで終えるのは今まで付き合ってきた関係性に失礼かもしれないけれど。
私はもう、貴方の顔を見たくもない。
少しでも顔を見て話してしまえば、ほだされてしまう気がしたから。
「もう会うことはないと思うから、最後に言っておくわね?」
『最後ってなんだよ!?今どこに居るわけ!?』
荒い息遣いが聞こえてきた。ああ、走っているんだと笑ってしまう。
アレだけ浮気をして、記念日でも誕生日でも浮気相手と居たような適当な男が。
こんな別れ話で必死になるだなんて。
今更ね。
「貴方の浮気の理由が嫉妬をして欲しい以外にあるって知ってるわよ」
『……っえ?』
「私、これでも貴方のこと好きだったから。それくらい気付いていたわ」
「好き?」と音だけで言った疑問の声にクスリと笑う。
私の気持ちを疑って、それで妬かせたくて浮気を繰り返した馬鹿な男。
妬けば心が向いていると思って。
確かに私は滅多に“好き”だと口にしなかった。
そう容易く口にしていい言葉ではないと思っていたからね?
その事に貴方が不安を感じていたことくらいは気付いていたわ。
でもだからなんだって言うのよ。
「浮気は浮気。私は許せないわ」
私に愛を囁く声で、私を優しく触る指で。
私の知らない女を抱く貴方を、もう許せそうにないの。
「だからさようなら」
――もう二度と会いたくもない、私の好きだった人。