SS 41~60

そこに捨てたよ。
そう言ったら泣き笑いのような顔を浮かべる君。


「そっか」


それだけ言って、君は瞼を伏せた。




彼女と不倫なんて関係を始めたのは、いつからだったか。
確かに俺達が笑い合えて居た頃はあった筈なのに。
親に逆らえず俺が結婚なんてものをした時から、この歪んだ生活は始まった。

本妻と愛人。

なんて陳腐な言葉だろう。
本当に結婚したかった君と、堂々と日の下を歩けなくなったというのに。
そのことは彼女を追い詰めるしか出来なくて。

それでも俺から別れを告げることは出来ない。
こんな歪な関係になったのは、俺の弱さ故からなのに。
弱くて狡い俺は、君の優しさを利用して、君の幸せよりも自分の幸せを優先してした。


「……ねえ、」

「ん?」

「もう、止めよっか」


今日。この関係に終止符を打たれるのは、なんとなくだが分かっていた。
いつもなら側に寄ってくれる君が、ドアの前でコートとバッグを持ったままだったから。
だからこそ、そんな予感を振り払いたくてごみ箱に指輪を捨てて見せたのだけれど。


(嫌な予感ほど、良く当たるな)


この関係を持ち出したのは俺だから。
俺から止めにしようとは言えないと、優しい君は分かっていたのだろう。


「そうだな」


君が幸せになる為に言い出した別れならば、俺に頷く以外何が出来る?


それでもと思うのだ。
出来ることならばこんな歪で、君が幸せになれない関係だって。
君と居られるなら良かったよ。



「……今までありがとう」


君は笑ってそれだけ言うと踵を返してドアを開けて出ていった。
目を瞑って、もう二度と会うことはないだろう後ろ姿を瞼の裏に焼き付ける。


最後に見た君の笑顔は、俺が好きになった晴れやかなものではなくて。
無理をしていると分かるものだったけれど。


「……ありがとう」


それでも君からのものだと思ったら愛しさだけが募った。



この恋が終わった日。
誰よりも大切にしたかったヒトを傷付けた。
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