SS 41~60

物心付いた頃にはもうソイツは居た。
何処までも忠実で、俺がどんな無茶を言っても必ず遂行する。
そんな面白味も何もない『忠実』を具現化したような女は今。何故かにこにこと笑いながら明日の用意をしていた。


用意と言ってもこいつのじゃなく、俺のだが。そこはもう何も言わない。
こいつは何を言ってもいつの間にか準備しているのだから言うだけ無駄だ。
だからと言って気にならない訳ではない。


一体こいつは俺をいくつだと思っているんだ?
いくら執事のような世話役も兼ねているとはいえ、高校生にもなって小学生にするような世話をされるのは中々に情けない。


「……何だらしねぇ顔してんだよ」


あからさまに不機嫌な声に自分でも内心驚くが、女は気にした様子もなく机の上に必要な物を置き終えると、俺の側に近寄り俺の座るソファーのすぐ側に立った。


「おや、そんなにもだらしない顔をして居ましたか?」

「ゆっるゆるな顔してやがったよ」

「それは申し訳ありません。坊っちゃんが明日ご友人を連れていらっしゃられると聞いたら表情筋が勝手に」

「……俺は小学生のガキじゃねぇぞ」

「? 勿論。坊っちゃんは先日高校にご入学なされましたから、小学生ではございませんね」

「お前本当に嫌味通じねぇよな」

「坊っちゃんのお言葉なら全てお答えするのが私の仕事でございますから」


ふふ。と柔らかく笑うコイツにツキリと胸が痛む。


コイツは知らない。
『仕事』と言われる度に俺がどんな気持ちになるのかを。
鈍感だからなのか、敢えて気付かないようにしているのかは分からないけれど。



(俺がお前をどう思っているかなんて、お前にとっちゃ関係ないんだろうな)



仕事、だから。
それに支障がないのなら気にもされない。
主従と言っても結局そんなもんなんだ。


「どうかなさいましたか坊っちゃん」

「……っんでもねぇよ」


溜め息と共に吐き捨てれば、鈍感な俺の護衛兼世話役は首を傾げた。
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