SS 41~60
付き合って数年の彼女は、確かに何よりも大切な存在だった。
いや、だった、じゃない。
今だって大切だ。
けれどもマンネリ化した恋人関係に刺激を求めた俺は、恋人がバイトや大学に行っている時に。
合コンや逆ナンしてきた女の子と浮気をした。
刺激を求めた。ただそれだけの純粋な遊びのつもりだった。
それでも俺と彼女の家に誰か違う人間の気配があるのも、匂いがするのも、嫌だったから。
来たいと言われても一度だって連れ込んだことはない。
彼女も何も言わないから。
だから俺の浮気を遊びだと理解して、容認してくれているのだと思って。
それでもモヤモヤとする感情のままに、彼女との記念日を悉く破って違う女の所に居た。
その日ばかりは罪悪感もあって、特に何をするわけでもなく家に帰る。
けれどごみ箱に捨てられた綺麗に包まれた細長い箱。
その中に俺が前に欲しいと言った時計が入っていた時は、一緒に過ごせなかった事に対して土下座した。
彼女は特に気にした様子もなく。
付けて良いかと恐る恐る聞く俺に対して、
「それはあなたにあげるつもりで買ったものだから、好きにすればいいんじゃないの?一度捨てたもので良ければだけど」
いつもと同じ、抑揚のない声音でそう言い放った。
俺はいそいそと腕に時計を巻く。
彼女から貰った大切な時計だから、大事にしなければ。
そればかりに気を取られて。
普段だったら例え喧嘩をしようと、誰かにプレゼントする為に買ったものを捨てるなんてあり得ない。
そんな彼女の送ったSOSにこの時の俺が気付いていたならと後悔した。
◆◇◆
一日振りに帰ってきた家に、人の気配は無かった。
彼女の名前を呼んで、そこまで広くもない部屋を隅々まで探したけれど居なくて。
買い物にでも行っているのかと思って唇を尖らせた。
(俺が帰ってくるまで待っててくれれば良かったのに)
買い出しの日に最後に付いていった日を思い出せない癖に、俺は理不尽な怒りを抱いて拗ねていたのだ。
――ソレを見るまでは。
「……な、にっ、これ?」
ガタンッ!と椅子が勢いよく倒れたけれど気にする余裕がない。
そのメモに書かれた言葉が、頭の中で何度もリフレインする。
『好きでした。だから、さようなら』
「さ、……よなら?って、なに?」
どういうこと?意味が分からない。分かりたくない。
過去形の好きも。
さよならも。
何一つ、理解したくなんてないのに。
コトン
何かが落ちる音がして、音の発生源を目で辿る。
するとそこには、俺の左手の薬指に嵌まっているお揃いの指輪。
時計を貰ったあの日に渡した、未来への約束の指輪。
カチリ、とパズルのピースが嵌まるように気付いてしまった。
俺が彼女にしてしまったこと。
遊びだと行っていた彼女への裏切り行為。
そして、俺ばかりが張り切っているように見えて、彼女も密かに楽しみにしてくれていた記念日。
俺は、なんてことをしてしまったのだろう。
気付いた瞬間、立っていられなくなってガクンと膝から崩れ落ちる。
彼女のSOSに気付けて居れば、今もまだ彼女は俺の隣に居てくれたのかもしれない。
浮気を遊び程度にしか考えていなかった当時の自分を殴り殺したくなった。
「ごめん、ごめんね、ごめんなさいっ、」
独り善がりに謝っても意味はないと分かっているけれど。
口から零れ出るのは彼女への謝罪だけ。
ねえ?どこに居るの?
誰と居るの?
泣いていない?
俺と離れられて清々してる?
聞きたいことが有りすぎて、いつから話していなかったのかも理解して。
謝りたくて。許して欲しくて。
色々な感情が混ざり合って、頭の中がこんがらがる。
それでも今、分かることは。
きっともうどうしようもないくらいに手遅れだということ。
いや、だった、じゃない。
今だって大切だ。
けれどもマンネリ化した恋人関係に刺激を求めた俺は、恋人がバイトや大学に行っている時に。
合コンや逆ナンしてきた女の子と浮気をした。
刺激を求めた。ただそれだけの純粋な遊びのつもりだった。
それでも俺と彼女の家に誰か違う人間の気配があるのも、匂いがするのも、嫌だったから。
来たいと言われても一度だって連れ込んだことはない。
彼女も何も言わないから。
だから俺の浮気を遊びだと理解して、容認してくれているのだと思って。
それでもモヤモヤとする感情のままに、彼女との記念日を悉く破って違う女の所に居た。
その日ばかりは罪悪感もあって、特に何をするわけでもなく家に帰る。
けれどごみ箱に捨てられた綺麗に包まれた細長い箱。
その中に俺が前に欲しいと言った時計が入っていた時は、一緒に過ごせなかった事に対して土下座した。
彼女は特に気にした様子もなく。
付けて良いかと恐る恐る聞く俺に対して、
「それはあなたにあげるつもりで買ったものだから、好きにすればいいんじゃないの?一度捨てたもので良ければだけど」
いつもと同じ、抑揚のない声音でそう言い放った。
俺はいそいそと腕に時計を巻く。
彼女から貰った大切な時計だから、大事にしなければ。
そればかりに気を取られて。
普段だったら例え喧嘩をしようと、誰かにプレゼントする為に買ったものを捨てるなんてあり得ない。
そんな彼女の送ったSOSにこの時の俺が気付いていたならと後悔した。
◆◇◆
一日振りに帰ってきた家に、人の気配は無かった。
彼女の名前を呼んで、そこまで広くもない部屋を隅々まで探したけれど居なくて。
買い物にでも行っているのかと思って唇を尖らせた。
(俺が帰ってくるまで待っててくれれば良かったのに)
買い出しの日に最後に付いていった日を思い出せない癖に、俺は理不尽な怒りを抱いて拗ねていたのだ。
――ソレを見るまでは。
「……な、にっ、これ?」
ガタンッ!と椅子が勢いよく倒れたけれど気にする余裕がない。
そのメモに書かれた言葉が、頭の中で何度もリフレインする。
『好きでした。だから、さようなら』
「さ、……よなら?って、なに?」
どういうこと?意味が分からない。分かりたくない。
過去形の好きも。
さよならも。
何一つ、理解したくなんてないのに。
コトン
何かが落ちる音がして、音の発生源を目で辿る。
するとそこには、俺の左手の薬指に嵌まっているお揃いの指輪。
時計を貰ったあの日に渡した、未来への約束の指輪。
カチリ、とパズルのピースが嵌まるように気付いてしまった。
俺が彼女にしてしまったこと。
遊びだと行っていた彼女への裏切り行為。
そして、俺ばかりが張り切っているように見えて、彼女も密かに楽しみにしてくれていた記念日。
俺は、なんてことをしてしまったのだろう。
気付いた瞬間、立っていられなくなってガクンと膝から崩れ落ちる。
彼女のSOSに気付けて居れば、今もまだ彼女は俺の隣に居てくれたのかもしれない。
浮気を遊び程度にしか考えていなかった当時の自分を殴り殺したくなった。
「ごめん、ごめんね、ごめんなさいっ、」
独り善がりに謝っても意味はないと分かっているけれど。
口から零れ出るのは彼女への謝罪だけ。
ねえ?どこに居るの?
誰と居るの?
泣いていない?
俺と離れられて清々してる?
聞きたいことが有りすぎて、いつから話していなかったのかも理解して。
謝りたくて。許して欲しくて。
色々な感情が混ざり合って、頭の中がこんがらがる。
それでも今、分かることは。
きっともうどうしようもないくらいに手遅れだということ。