SS 41~60

※心中ネタです。



赤い糸を私の左腕と貴方の右腕にグルグルと何があっても離れないように巻き付けて。
真っ暗な海の前に2人。


「本当にいいの?」

「貴方は嫌なの?」

「嫌だったらこんな所に来ないよ」

「だったら良いじゃない」


ふふ。と笑うと「そうだね」と返される。


「行こうか」


その言葉と共に冷たい海の中に一歩。
裸足の足には冷たくて、ゾワリと一瞬、身体が跳ねる。


「今なら引き返せるよ」

「……引き返したいの?」

「ううん。出来るなら、このまま真っ直ぐ走り出したい気分」

「なら、いいじゃない」


笑い合って、また一歩。
腕を赤い糸で結ばれているから、歩幅がずれる事はない。


いつもなら貴方の歩幅の方が大きかったから、置いていかれやしないかと必死に着いて歩いたけれど。


不思議ね。
今はおんなじ。
貴方に置いていかれる事も。
見失う事も。
もう無いのね。


「嬉しいわ」

「僕もだよ」


僕も、もう君を置いていかなくて済むんだと思うと。嬉しくて堪らない。


「……次は、一緒になれるかしら?」

「なれるさ。きっと、」


今のこの時代では、僕らは幸せになれないけれど。


「次の世では幸せになろう」

「ええ」


きっと。
貴方となら次の世がどんな時代でも幸せになれるのでしょうけど。


ざぷん、と頭まで海に浸かった。
刺すような冷たさが全身を襲う。
瞼を開けた視界の先は真っ暗で、どんどん苦しくなっていく。
けれどなんにも怖くない。
手足に着けた重石で海の底にどんどん沈んでいくけれど。


(しあわせだわ)


貴方が笑って私の側に居てくれるから。
空いた片手で私を引き寄せて、抱き締める。
とくん、とくん、と心臓の動く音が聞こえて、涙が零れ落ちた。
死ぬ事への恐怖ではない。
しあわせだから。
貴方と黄泉路に行ける事が。
だから泣く。


とくん、とくん、と鳴り響く小さな貴方の心臓の音。
先に静まっていったのは、私の音の方だったけれど。


でも、だいじょうぶ。
あなたはすぐに、来てくれるから。
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