SS 161~

すべてを捨てても良いと思ったんだ。
きみを手に入れる為ならば、僕はなんだって出来る。
それが神であるきみを手に入れるという覚悟だった。

「それなのに、皮肉だね」

きみだけが大事で、大切で。何よりも守りたかったモノなのに。
大好きで、いとおしくて、狂おしいほどに恋焦がれてしまったヒトなのに。
彼女を悲しませてしまった。
僕が村の人間を殺したから、彼女を殺そうとした人間を。
それは言い訳にも贖罪にも決してならないけれども、僕は彼女を守りたかった。
例え、嫌われたとしても。憎まれたとしても。愛されたいとはもう思わない。

だから、ねえ?

「そんな顔しないでよ……」

庭木を切っていたら怪我をした。それを蛇に見られた。
蛇はとてもびっくりしていて、今にもその切れ長な紅い瞳が零れ落ちてしまいそうなほどに目を見開いて。
ああ、勘違いしそうになる。きみに愛されているのではないのかと。きみはまだ、僕を想ってくれているのではないのかと。
腕から血を流したまま、僕は蛇を抱き締めた。
蛇はやはり身動きはしなかったけれども、逃げることもなかった。

「蛇、へび……」

愛していると何度伝えても答えはないけれども。
僕は何度でも勘違いをして、何度でも蛇に愛を伝えよう。

「あいしているよ」

例えばこの想いが、きみの心に届かなくても。
二度ときみが、僕に心を開かなくても。
僕はもう、きみが傍にいてくれるその事実だけが大事だからね。
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