SS 141~160

「世界に貴女と俺しか居なくなったら、どうなるんだろうね?」

そんなことを聞いてみた。答えの分かりきっている言葉だったけれども。なんだか今は聞いてみたくて。だから聞いた。
返ってきた答えはもちろんのように「ふざけたことを」との言葉。
一蹴されたその言葉に、けれども俺は縋りたかったのかも知れない。
これから命を摘み取らなければならない俺の愛しいヒトに、少しでも命乞いをして欲しかったのかも知れない。
そうしたら、……そうしたら?
一体、何が変わるというのか。

「何も変わらんさ。私達の関係は、何も変わらん」

俺の心を読んだような言葉に、俺はポリポリと頭を掻いた。

「ソレは……その通りだけどさァ……」

だからって少しくらいは期待しても良いじゃないかと思った時、貴女は言った。

「強いて、言うのであれば……」

「なぁに?」

彼女の零れ落ちた言葉に少しの期待があった。少しの希望があった。
けれども無惨にソレは散らされるのだ。
他でもない、貴女の手によって。

「お前が私を殺してくれるなら、この世界は少しは変わるかも知れない。或いは……少しくらいは幸せになるのかも知れない」

「……そっか」

『災厄の魔女』と呼ばれる貴女は優美に笑う。
こんな結末は最初から分かりきっていた。だから早く終わらせてくれ。そうとでも言わんばかりに。

「リツカ」

「数百年も呼ばれなかった名を呼ばれるのは擽ったいものだと、お前の所為で知ってしまった」

「ねえ、リツカ。俺はね、俺を育ててくれた貴方を……愛してるんだよ」

「ふん。戯言王子には相応しい言葉だ」

「……そうだね」

『戯言王子』と皆は言う。そう呼ばれるのは俺が適当に生きて来た証。
馬鹿な言葉しか吐いてこなかった。世迷い事のような言葉しか吐いてこなかった。
俺が何を言っても、何も伝わらないのだとしたら。何も変わらないのだとしたら。
俺は大切な貴女を殺す運命の線の上に立って居るのだとしたら。
その為に生まれてきたのだとしたら。

「俺は、生まれる前に戻りたい」

例えその人生が今よりも残酷な人生でも。
貴女を殺すよりはずっとずっとマシだから。

「馬鹿め」

鼻水交じりの言葉に、彼女は笑った。
彼女の言葉に辺りに光が輝く。
まるですべてを終わらせるような、そんな光だった。
光は貴女を包み、そうして世界は眩いた。


――目を開けても、俺は貴女の傍に居られるのかなぁ?


そんな願いすら、きっと世界は望んではいないのだろうけれども。
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