SS 01~20
残っているのは、ただただ後悔。
どうしてあの時ちゃんと「いってらっしゃい」を言わなかったのか。
どうして拗ねてないで見送りをしなかったのか。
悩んで、悔やんで。涙が出てきて。でも君は居なくて。
泣きすぎた喉は掠れてしまった。流れ出る涙を拭う気力はもう無い。涙腺が壊れたように垂れ流すだけ。
拭ってくれた指はない。
しょうがないと慰めるように頭を撫でてくれる手が無い。
名前を呼んでくれた耳心地の良い声がない。
君と買ったこの広い家。
そこには君だけが居ない。
君が居ないと片付けも出来ないから。散らかり放題。
ねえ?早く帰ってきてよ。
そうして怒って?「また散らかして!」って呆れながら。
どんなに怒られても呆れられても、君が帰ってきてくれたなら何だってするから。
だから君が居ない違和感を拭ぐって。
……どうして。
どうして君は、俺を置いて行ってしまったの?
どうして俺を連れて行ってくれなかったの?
答えてくれる君は帰ってこない。
かみ過ぎた鼻が痛くて、乾くことがない頬がヒリヒリして痛くて。
また涙がひとつ零れ落ちた。
いつの間にかソファーで眠ってしまっていた俺の耳に届いた部屋を割るような高い音。
頭がそれだけでクリアになって。一目散にソレを手に取って耳に当てた。
「も゛じも゛じ」
泣きすぎて渇れきった喉からどうにかして出てきた聞くに耐えないような掠れ声。
今まで泣いていたと教えているようなその声を聞いた電話の相手は、一瞬驚いたような間を作る。
ふふ、と受話器の向こうから吐息が漏れる音が聞こえた。
『また泣いてたの?』
無機質な電話を通して鼓膜に届く懐かしい声。
その声を聞いたら安心して止まっていた涙がまた溢れ出す。
「早く帰ってきてよぉ……も、無理、死んじゃう」
『人間は寂しくて死なないから大丈夫大丈夫』
「じゃあ俺もう人間止める。ウサギになる……」
『あはは、キミはホントにバカワイイなぁ』
「うぅ……」
馬鹿と言われたことに拗ねれば良いのか。
可愛いと言われたことに喜べば良いのか。
それとも、男に可愛いなんて褒め言葉じゃないと言うべきなのか。
自分の性格が女々しくて泣き虫だと自覚している身では、言うこと為すことが全て裏目に出そうで。
でも仕事に行ったきり、半年以上も連絡をくれなかった彼女からの久しぶりの電話。
話したい事が沢山あって、結局漏れ出た言葉は情けないものだった。
恥ずかしくて。
でもそんな俺を浮上させてくれるのはいつだって君。
『安心して。明後日には帰れるからさ』
「本当に!絶対!?また帰って来れなくなったは無しだからね!?」
この前の仕事の時は帰って来ると言ったくせに結局帰って来れなくなって。
予定よりひと月も遅れて帰ってきた彼女は久しぶりに会ったにも関わらずゆっくり話をする間も無く、すぐにまた仕事が入ってしまった。
しかも今度は外国。
俺も行くって散々喚いて、ふて寝してしまった。
彼女は困った顔をして「飛行機の時間だから」とそのまま俺を残して仕事に向かってしまった。
行ってらっしゃいのチュウも出来なかった…。と後悔の嵐だったのは言うまでも無い。
『うん今度は大丈夫。最近仕事ばっかりだったし上司を脅し……お願いして、ちょっと長めのお休み貰ったから』
帰れるよ?
電話の向こうで不穏な言葉が聞こえたけれど。
君の言葉が嬉しくて、そんなのどうでも良くなった。
また涙が零れた。けれどさっきまでと違った涙である事は間違いない。
だって全然悲しくない。
嬉しくて嬉しくてどうしようもなくて。
今日も明日も、ちょっとは寂しくて泣いてしまうかもしれないけれど。
でも明後日には絶対に泣かない。
だって君が帰ってくるって言ってくれたから。
「おかえりぃぃぃ!!」
「ただいま。うわぁ……部屋が凄い荒れてる」
「っう、ご、ごめんなさい。さ、寂しくて苛々して、つい」
「犬じゃないんだから……。それに片づけくらいは、いや、やっぱり良い。これ以上荒れる」
「何にも出来なくてごめんなさいぃぃぃ!」
「あー、泣かないの。確かに家事は壊滅的だし女々しいし泣き虫だし若干ストーカー入っててウザイけど、本当に良いとこどこって感じだけど。一応仕事は出来て顔がいいから多分大丈夫だから、ね?」
「本音が痛いっ!捨てないで!」
「捨てるくらいなら最初から拾ってこないから。とりあえず片付けたいから離れて?」
「ごめんなさいぃぃぃ。大好きぃぃぃ」
「いやだから離れ……もういいや」
どうしてあの時ちゃんと「いってらっしゃい」を言わなかったのか。
どうして拗ねてないで見送りをしなかったのか。
悩んで、悔やんで。涙が出てきて。でも君は居なくて。
泣きすぎた喉は掠れてしまった。流れ出る涙を拭う気力はもう無い。涙腺が壊れたように垂れ流すだけ。
拭ってくれた指はない。
しょうがないと慰めるように頭を撫でてくれる手が無い。
名前を呼んでくれた耳心地の良い声がない。
君と買ったこの広い家。
そこには君だけが居ない。
君が居ないと片付けも出来ないから。散らかり放題。
ねえ?早く帰ってきてよ。
そうして怒って?「また散らかして!」って呆れながら。
どんなに怒られても呆れられても、君が帰ってきてくれたなら何だってするから。
だから君が居ない違和感を拭ぐって。
……どうして。
どうして君は、俺を置いて行ってしまったの?
どうして俺を連れて行ってくれなかったの?
答えてくれる君は帰ってこない。
かみ過ぎた鼻が痛くて、乾くことがない頬がヒリヒリして痛くて。
また涙がひとつ零れ落ちた。
いつの間にかソファーで眠ってしまっていた俺の耳に届いた部屋を割るような高い音。
頭がそれだけでクリアになって。一目散にソレを手に取って耳に当てた。
「も゛じも゛じ」
泣きすぎて渇れきった喉からどうにかして出てきた聞くに耐えないような掠れ声。
今まで泣いていたと教えているようなその声を聞いた電話の相手は、一瞬驚いたような間を作る。
ふふ、と受話器の向こうから吐息が漏れる音が聞こえた。
『また泣いてたの?』
無機質な電話を通して鼓膜に届く懐かしい声。
その声を聞いたら安心して止まっていた涙がまた溢れ出す。
「早く帰ってきてよぉ……も、無理、死んじゃう」
『人間は寂しくて死なないから大丈夫大丈夫』
「じゃあ俺もう人間止める。ウサギになる……」
『あはは、キミはホントにバカワイイなぁ』
「うぅ……」
馬鹿と言われたことに拗ねれば良いのか。
可愛いと言われたことに喜べば良いのか。
それとも、男に可愛いなんて褒め言葉じゃないと言うべきなのか。
自分の性格が女々しくて泣き虫だと自覚している身では、言うこと為すことが全て裏目に出そうで。
でも仕事に行ったきり、半年以上も連絡をくれなかった彼女からの久しぶりの電話。
話したい事が沢山あって、結局漏れ出た言葉は情けないものだった。
恥ずかしくて。
でもそんな俺を浮上させてくれるのはいつだって君。
『安心して。明後日には帰れるからさ』
「本当に!絶対!?また帰って来れなくなったは無しだからね!?」
この前の仕事の時は帰って来ると言ったくせに結局帰って来れなくなって。
予定よりひと月も遅れて帰ってきた彼女は久しぶりに会ったにも関わらずゆっくり話をする間も無く、すぐにまた仕事が入ってしまった。
しかも今度は外国。
俺も行くって散々喚いて、ふて寝してしまった。
彼女は困った顔をして「飛行機の時間だから」とそのまま俺を残して仕事に向かってしまった。
行ってらっしゃいのチュウも出来なかった…。と後悔の嵐だったのは言うまでも無い。
『うん今度は大丈夫。最近仕事ばっかりだったし上司を脅し……お願いして、ちょっと長めのお休み貰ったから』
帰れるよ?
電話の向こうで不穏な言葉が聞こえたけれど。
君の言葉が嬉しくて、そんなのどうでも良くなった。
また涙が零れた。けれどさっきまでと違った涙である事は間違いない。
だって全然悲しくない。
嬉しくて嬉しくてどうしようもなくて。
今日も明日も、ちょっとは寂しくて泣いてしまうかもしれないけれど。
でも明後日には絶対に泣かない。
だって君が帰ってくるって言ってくれたから。
「おかえりぃぃぃ!!」
「ただいま。うわぁ……部屋が凄い荒れてる」
「っう、ご、ごめんなさい。さ、寂しくて苛々して、つい」
「犬じゃないんだから……。それに片づけくらいは、いや、やっぱり良い。これ以上荒れる」
「何にも出来なくてごめんなさいぃぃぃ!」
「あー、泣かないの。確かに家事は壊滅的だし女々しいし泣き虫だし若干ストーカー入っててウザイけど、本当に良いとこどこって感じだけど。一応仕事は出来て顔がいいから多分大丈夫だから、ね?」
「本音が痛いっ!捨てないで!」
「捨てるくらいなら最初から拾ってこないから。とりあえず片付けたいから離れて?」
「ごめんなさいぃぃぃ。大好きぃぃぃ」
「いやだから離れ……もういいや」