SS 141~160

たとえば君が、僕を忘れたとして。
僕はきっと何も変わらないだろう。
ただひたすらに愛を囁き、その艶々とした髪を梳き、紅茶色の瞳を覗いて僕の顔をその瞳に映し、柔らかな桃色の唇に触れる。
それはきっと、君が忘れる前も後も変わりはしないんだ。

「けれども、それはあなたに何の得があるの?」

「何もかもを忘れてしまった君を、まっさらな君を、もう一度最初から愛せることかな?」

「わぁ、その発想が怖いわー」

監禁しただけじゃあ、まだ物足りないのかね?

君はベッドの縁で足を組みながら言う。
その片足にはじゃらりとした鎖が巻き付いていた。
けれどもそれには触れずに、君は気だるげに言うのだ。

「私の身体を幾ら拘束しようとさ、こんなことされたら私の心は永遠に手に入らないんだけど、あなた的にはそこら辺どうなの?」

「構わないよ。別に。心ほど不確かなものを僕は求めてなんていないから。僕は君の身体さえここに在ればそれで良いんだ」

「ふぅん?そういうものかねぇ?」

そう呟いた君は、片足を引き寄せる。
じゃらりと鳴る足枷の音が心地好い。

君を捕らえている証。
君が傍に居る証。

僕はただそれだけで幸せで。
ただただ、本当に、幸せで。

心なんて要らない。
不確かで不確定で何とでも嘘を吐ける喉なんて潰してしまいたい。
けれども君は嘘を吐かないから。
だから、その金糸雀のように美しい声はそのままに。
逃げ出す為の翼たる足を捕らえて、離さないで。
僕の目の届くところでお人形さんのように鎮座させるのだ。


それを僕は幸せと呼び。
きっと世間では歪と呼ぶのだろう。
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