きっと目が覚めたらハッピーエンド。
……だったら良かったのにね。
結局、俺達はカミサマとやらが作った陳腐な物語の欠片に過ぎないんだ。
笑ってそう言ったなら、彼女は恐ろしいまでに美しい相貌をピクリとも歪めることなく、薄い唇を開いた。

「それでも私達は憎しみ、殺し合わねばなりません」

「どうしてお前はこんな世界を受け入れられるの？」

「それが、運命だからですよ」

完成された彫刻のように動かない表情さえも、カミサマが創った物ならば、俺のこの心の痛みさえ創られたモノなのだろうか。

（それは嫌だなァ）

そう思うことさえも、またシナリオ通りなのだろうけれども。

「魔王」

「なんですか、勇者」

「俺はきっとお前の居ない世界を憎むよ」

「そうですか」

心底どうでも良いというような顔で俺を見るから、間合いを詰めて胸ぐらを掴んだ。
心臓が痛い。痛くて痛くて堪らない。

「なぁ、お前は何も感じない？」

「私には何も感じませんよ。何も……」

「なら、最後に言わせてよ」

「……嫌ですよ。死に逝くものに何を告げても無駄ですから」

「酷いなぁ……」

くしゃり、と顔を歪めて魔王の胸ぐらから手を離した。
その華奢な身体が微かに傾ぐ。
苦しかったのだろうか？
もっと苦しめばいいのに。
そうすれば、

（お前だってきっと、カミサマの創ったシナリオにない言葉も言えただろうに）

「ねぇ、魔王」

「……なんですか、勇者」

「俺達はこれから殺し合うけれども、」

一度そこで言葉を区切って、そうして今出来る限りの笑みを向けた。

「お前を殺した後に、俺もそっちに逝ってもいいかなぁ」

そうしたら、二人一緒。寂しくないでしょ？

目が覚めたらハッピーエンド。
そんなシナリオをカミサマが認めないなら。用意されていないのなら。
俺は俺の求める幸せとやらを掴み取る為に、名誉も、この命すらも惜しくはない。お前しか要らないんだ。

「あなたは馬鹿ですね」

「そうなんだ。それに寂しがりだから、一緒に居てよ」

「……私の死後のことなど、私には関係ありません」

「ありがとう」

この胸から込み上げてくる感情はなんというのだろう？
あとで、二人で答え合わせをしようか。
『勇者』でも『魔王』でもなくなった。二人で。