SS 141~160

僕の『光』はきみだった。
そう言ったなら不思議そうな顔をされた。

「僕はね?生まれてからこの方、幸せなんて感じることもできなくて。そんな暇さえなくて」

きっと臣民にとったら僕の生活は恵まれていると思われているのだろう。
恵まれていると感じるのは、この国が衰退の一途を辿っているからか?
臣民も毎日食事を食えはする。
けれども娯楽品を買ったり、酒場に行くことすら出来ない。
この国は終わっている。肥え太った国王のせいで。
それを止められない僕も僕なのかもしれないけれども。

この終わりに向かっている国の第一王子。
それが僕の肩書。

どうすることも出来ないで、肥え太った国王たる父に傅いている臣下達と僕は同じだ。

「そんな中の光、だったんだ……」

彼女は優しく僕に微笑んで、頭を撫でてくれた。
じゃらりと鎖が擦れる音がする。

「あなたは優しいね」

彼女が声を発した。
優しい?優しいものか。何故なら僕は――

「きみを手に入れたいが為に国王を殺してしまった男だよ?」

国王の第三夫人。それが彼女だった。
彼女を好きになってしまった僕は、もうきっと父であった男と同じだ。
その銀の髪も。賢者たる緑の瞳も。細長い耳も。
人ではない美しさを持ち合わせている。
当然か。何せ彼女は人ではないのだ。

「ごめんね。愛してしまって」

「あなたが私との約束を守って、この国を良き国にしてくれるのなら、私は誰の妻にでもなりましょう」

彼女は優しく僕の頭を撫でながら、そう言った。

ごめんね。と心の中で謝る。
父が彼女に狂った理由が分かる気がする。
彼女の甘やかな優しさは、きっと僕を堕落させるだろう。
彼女の望みならなんだって叶えてやりたいと、そう思うだろう。

だけど彼女はこの国が良き国になってしまったら、居なくなってしまうから。

だから僕は笑顔の裏で考えるのだ。
彼女が居なくならない方法を。
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