SS 121~140
私の恋人は端的に言って『馬鹿』だと思う。
酷い言い様だって?
仕方がないじゃないか。
本当のことなのだから。
「あ、おかえりー!ご飯作ってあるし、お風呂も入れてあるよ!あ、それとも僕が欲しい?なら期待に答えなくっちゃあ」
にへりと顔をだらしなく緩めた恋人に私は端的に「ご飯、のちに風呂」とだけ言った。
恋人のことには触れずに。
というか私の自制心を褒めて欲しい。
こんな変質的な男を目の前にしても冷静で居られる自分を。
「もー、僕は要らないのぉ?」
「要らん。というか、服を着ろ」
「なんでぇ?だってすぐえっちするでしょ?なら要らないでしょ?」
「しない。私はこう見えて疲れてるんだ」
「あはっ。あきちゃんは強情だなぁ。そんなとこも好きー」
べったりと私の身体を抱き締めてはくっ付く恋人に、はあ、と溜息を吐く。
まったく。下は履いているとはいえ、何をやっているんだか。
スンスンと匂いを嗅がれて、風呂に入っていないことを思い出して振り払おうとする。
けれども恋人は退く気はないようだ。
「おい」
「ねぇ、あきちゃん?」
「なんだ」
えらく真剣な顔に、私はこてんと首を傾げる。
「あきちゃん以外の匂いがするの、なんで?」
「は?何故と問われても……」
私には検討がつかないのだが。
うーん、と記憶を辿っていれば、ひとつだけ思い当たることがあった。
「ああ、後輩がふらふらだったから支えて仮眠室に連れていったな」
その時に『匂い』とやらはついたのだろう。
うんうん、とひとり頷いていれば私を後ろから抱き締めていた恋人が私の首筋をべろりと舐めた。
「っ、な、なにをする!?」
「あきちゃんひどい!ひどいひどいひどい!僕以外の男の匂いつけるだなんて!!」
「いや、確かに支えたのは男の後輩だが、何故それが分かるんだ……というか喚きながら舐めるのはやめろ」
「やだ!絶対、やだ!別れるなんて僕許しませんよ!」
「どんな思考回路を持ったらそんな思考に飛躍するんだか……」
はあ、と溜息をまた吐けば、恋人は焦ったように私の背後から正面に来た。
なんだか犬みたいだな。
まあ、私に関しての嗅覚は犬並みだけれども。
「わ、別れないで……ごめんなさい……ごめんなさい……ワガママ言って、ごめんなさい……っひぐ、だから、わ、別れないでぇぇぇ……!」
「馬鹿だなぁ」
この恋人は、馬鹿でしかない。
「私は那月が好きだ。だから、別れない」
「……っ、ん。ほんと?」
「本当だ。私が那月に対して嘘を吐いたことがあったか?」
「んーん。ない……」
「なら良いだろう。この話は終わりだ。折角那月が作ってくれたご飯が冷めてしまったかな」
「す、すぐあっためるね!」
「ありがとう。那月ももう少ししたら仕事に行くんだろう?あまり無理をするなよ」
「あきちゃんの為なら仕事くらい休んだっていーんだけど……」
「私を囲いたいなら、ある程度の収入がないと難しいな」
以前、那月が零した言葉を言えば那月は「そっかぁ」と納得したように頷いて胸の前で拳を作る。
「僕、がんばるね!」
「ああ、がんばれ」
とはいえ。
「私以外に笑顔を振り撒く那月に対して、醜く妬く心を抑える為に、キスをひとつくれないか?」
「もー。いっくらでも妬いて?嫉妬しまくって。僕であきちゃんの心をいっぱいにしてって言ってるのにー」
まあ、ちゅーはするけどー。
そう言いながら私の唇に軽く触れるだけのキスを落とした。
それは何度となく落とされて、次第に深くなっていく。
「、ん」
離れた唇は私の首筋に埋められた。
チクリとした痛みを感じる。
「あ、とは……見えるところに付けるなと言っただろう」
「えへ。あきちゃんが可愛かったから、ついー」
でもなんか、所有印みたいで嬉しいなぁ。
「あきちゃんも僕に付けてよー」
「馬鹿をいえ。NO.1ホストがキスマークなんて付けて出勤して来た日には、そこは地獄だ」
「むー。もうちょっと稼げば、あきちゃんを一生囲えるくらいのお金は貯まるんだけどなー」
「はは。私はそれまで気楽なOLでもさせてもらうさ」
「……働くあきちゃんも可愛いけど、僕の腕の中でずーっと居てくれるあきちゃんの為に、僕、がんばるね!」
「ああ、がんばれ」
じゃあ私はお腹が空いたから食事を摂るぞ。
そう言ってスルリと那月の傍から離れた。
那月は従順な犬のようについてくる。
食事を摂っている間、とても幸せそうな顔をしながら那月は私を見ているので、私は食べていた焼き鮭を那月にあーんして食べさせてやる。
喜びすぎた那月が「仕事に行きたくないー!」と叫び出すのに時間はそうかからなかった。
そんな那月を宥めるのもいつものこと。
私の恋人は馬鹿だ。
私が好きすぎてネジが2〜3本外れた、馬鹿で愛しい恋人だ。
そんな恋人が好きな私も、馬鹿の部類だろうな。
酷い言い様だって?
仕方がないじゃないか。
本当のことなのだから。
「あ、おかえりー!ご飯作ってあるし、お風呂も入れてあるよ!あ、それとも僕が欲しい?なら期待に答えなくっちゃあ」
にへりと顔をだらしなく緩めた恋人に私は端的に「ご飯、のちに風呂」とだけ言った。
恋人のことには触れずに。
というか私の自制心を褒めて欲しい。
こんな変質的な男を目の前にしても冷静で居られる自分を。
「もー、僕は要らないのぉ?」
「要らん。というか、服を着ろ」
「なんでぇ?だってすぐえっちするでしょ?なら要らないでしょ?」
「しない。私はこう見えて疲れてるんだ」
「あはっ。あきちゃんは強情だなぁ。そんなとこも好きー」
べったりと私の身体を抱き締めてはくっ付く恋人に、はあ、と溜息を吐く。
まったく。下は履いているとはいえ、何をやっているんだか。
スンスンと匂いを嗅がれて、風呂に入っていないことを思い出して振り払おうとする。
けれども恋人は退く気はないようだ。
「おい」
「ねぇ、あきちゃん?」
「なんだ」
えらく真剣な顔に、私はこてんと首を傾げる。
「あきちゃん以外の匂いがするの、なんで?」
「は?何故と問われても……」
私には検討がつかないのだが。
うーん、と記憶を辿っていれば、ひとつだけ思い当たることがあった。
「ああ、後輩がふらふらだったから支えて仮眠室に連れていったな」
その時に『匂い』とやらはついたのだろう。
うんうん、とひとり頷いていれば私を後ろから抱き締めていた恋人が私の首筋をべろりと舐めた。
「っ、な、なにをする!?」
「あきちゃんひどい!ひどいひどいひどい!僕以外の男の匂いつけるだなんて!!」
「いや、確かに支えたのは男の後輩だが、何故それが分かるんだ……というか喚きながら舐めるのはやめろ」
「やだ!絶対、やだ!別れるなんて僕許しませんよ!」
「どんな思考回路を持ったらそんな思考に飛躍するんだか……」
はあ、と溜息をまた吐けば、恋人は焦ったように私の背後から正面に来た。
なんだか犬みたいだな。
まあ、私に関しての嗅覚は犬並みだけれども。
「わ、別れないで……ごめんなさい……ごめんなさい……ワガママ言って、ごめんなさい……っひぐ、だから、わ、別れないでぇぇぇ……!」
「馬鹿だなぁ」
この恋人は、馬鹿でしかない。
「私は那月が好きだ。だから、別れない」
「……っ、ん。ほんと?」
「本当だ。私が那月に対して嘘を吐いたことがあったか?」
「んーん。ない……」
「なら良いだろう。この話は終わりだ。折角那月が作ってくれたご飯が冷めてしまったかな」
「す、すぐあっためるね!」
「ありがとう。那月ももう少ししたら仕事に行くんだろう?あまり無理をするなよ」
「あきちゃんの為なら仕事くらい休んだっていーんだけど……」
「私を囲いたいなら、ある程度の収入がないと難しいな」
以前、那月が零した言葉を言えば那月は「そっかぁ」と納得したように頷いて胸の前で拳を作る。
「僕、がんばるね!」
「ああ、がんばれ」
とはいえ。
「私以外に笑顔を振り撒く那月に対して、醜く妬く心を抑える為に、キスをひとつくれないか?」
「もー。いっくらでも妬いて?嫉妬しまくって。僕であきちゃんの心をいっぱいにしてって言ってるのにー」
まあ、ちゅーはするけどー。
そう言いながら私の唇に軽く触れるだけのキスを落とした。
それは何度となく落とされて、次第に深くなっていく。
「、ん」
離れた唇は私の首筋に埋められた。
チクリとした痛みを感じる。
「あ、とは……見えるところに付けるなと言っただろう」
「えへ。あきちゃんが可愛かったから、ついー」
でもなんか、所有印みたいで嬉しいなぁ。
「あきちゃんも僕に付けてよー」
「馬鹿をいえ。NO.1ホストがキスマークなんて付けて出勤して来た日には、そこは地獄だ」
「むー。もうちょっと稼げば、あきちゃんを一生囲えるくらいのお金は貯まるんだけどなー」
「はは。私はそれまで気楽なOLでもさせてもらうさ」
「……働くあきちゃんも可愛いけど、僕の腕の中でずーっと居てくれるあきちゃんの為に、僕、がんばるね!」
「ああ、がんばれ」
じゃあ私はお腹が空いたから食事を摂るぞ。
そう言ってスルリと那月の傍から離れた。
那月は従順な犬のようについてくる。
食事を摂っている間、とても幸せそうな顔をしながら那月は私を見ているので、私は食べていた焼き鮭を那月にあーんして食べさせてやる。
喜びすぎた那月が「仕事に行きたくないー!」と叫び出すのに時間はそうかからなかった。
そんな那月を宥めるのもいつものこと。
私の恋人は馬鹿だ。
私が好きすぎてネジが2〜3本外れた、馬鹿で愛しい恋人だ。
そんな恋人が好きな私も、馬鹿の部類だろうな。