SS 121~140

こぽこぽと息が吐き出される。
水の中では息なんて出来ないので、私はただ肺の中の空気を吐き出すのみ。
私を引き込んでいるのは河童だ。
河童と言えば緑で皿があるあの妖怪だが、この河童は何やら人間の姿そっくりで。
私は見事に水中に引きずり込まれている。
何故かって、この河童に好かれたからだ。

「好きだから側に居たい」

そんな発言と共に森の中に連れ込まれ、なんだ心中でもする気か?まあ、天涯孤独な身だから誰も心配する人は居ないし、誰かと共に死ねるなら本望か、と思い諦めていた。
しかし死ぬのはどうやら私だけではないか?
河童だと森の中での道中で告げられ、冗談が下手だなァと思っていたが、彼は苦しそうな雰囲気もなくどんどん水底へと向かっていく。

あ、死ぬな。

そう思った瞬間。
引き上げられるように上へと引っ張られた。

「けほっごほっ」

肺に入った水を吐き出す。

「大丈夫?」

大丈夫なわけあるか。と思ったが、噎せるのに必死で声なんて出ない。
ポンポンと背中を擦られていたら、段々落ち着いてきた。

「殺す気ですか!」

いや、死んでも良いと思っていたが。

「? 何故?」

きょとんとする彼に、私は叫ぶ。

「水中に引きずり込むとか馬鹿なんですか!アホなんですか!?」

「だって、一緒に居たかったんだもん」

「だもん?だもんで、殺されかけたんですか、私!?」

今まで水中に居たから言えなかった言葉を吐き出す。
ついでに水がゴホッと口からあふれ出た。

「……はー。で?何故私は今、息が出来ているんですか?この周りの風景は一体……」

「さすが僕の花嫁さん。切り替えが早いね」

「ちょっと待ってください。いつ、私が花嫁になりましたか?」

「出逢った時から決めてた。君を僕のお嫁さんにするって」

「そんなの決められても困ります」

視界に映るだけの世界は、私が居た文明の利器の世界よりももっと昔。
まるで平安時代のような建物が目の前にはあった。

「で、ここがどこだか説明して頂けますか?」

「僕の家だけど?」

「こんな平安時代のような家が!?いや、河童な時点で何も驚いちゃいけなかったのかも知れないですね!まあ!驚きますけど!」

「大丈夫?混乱してる?僕のお嫁さんになる?」

「最後のは余計です!」

なんだなんだと言う声が遠くから聞こえる。
私は意識を飛ばしたくても、飛ばせなくて、ハハッと乾いた笑みを零すのみ。


【心中かと思ったら、河童に花嫁になれと言われました】


「僕、結構本気なんだけどなぁ……」

「何も説明しない男は知らないです」

というか。

「道端で倒れていたのを助けただけで嫁とかやめてください」

「暑かったからね。今が夏だって忘れてた」

「うわ!河童みたい!」

「河童だからね」

「嫌という程に知りました!」
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