SS 101~120
傷だらけだなー。
そんな他人事のようなことを思いながら、苦笑した。
「また切ったの?」
「……ぁ、」
踞っていた彼と目を合わせるようにしゃがめば、ぼうっと焦点の合っていない目でこちらを見てきた。
少しずつ視点が合ってきて、しっかりと私の存在を確認すると抱き着いてきた。
「お、っと」
のし掛かるような彼の重さに堪えきれず、尻餅を付いてしまった。
彼はそんな私に気付いていないのか、はたまた余裕がないのか、まあ、両方だろう。
ギュウギュウと音が鳴るんじゃないかと言うくらい強い力で抱き締められた。
「苦しいなぁ」
「……っ、しらない!」
「なぁに?泣いてるの?」
「っ泣いてない。俺のこと置いてったはるちゃんなんてしらないよぉ…」
「あはは、置いてったって。しょうがないでしょ?」
「しょうがなくない!はるちゃんはずっと、ずーっと!俺と居るんだから!離れてくなんて駄目!許さない!」
「そっかそっか。とりあえず鼻かもうね」
綺麗な顔が涙やら鼻水やらで台無しだ。いや、それでも尚、見られるレベルなんだから、いやはや美形って怖い。
「……はるちゃん」
「うん?」
ティッシュを探して視線を動かせば、少し遠いな。
抱き締められた腕の力が弛むとは考えていないので、ポケットに入れていたハンカチで代用しようとスーツのズボンからハンカチを取り出す。
それで涙と鼻水を拭いてやれば、うん。目元は紅いけれどいつもの顔だ。
「何にもされてない?」
「されてないわよ」
「他の男が良くなったとか言わない?」
「言わない言わない」
私にはキミしか居ないよ。
甘く囁くように言ってやれば、漸く落ち着いたのか、抱き締める形がしなだれかかる形へと変化する。
重いのは変わらないし、拘束的な意味でも全く変わっていないけれど。
「傷、手当てしないと」
「今ははるちゃんを感じさせて」
「……しょうがないなぁ」
苦笑を一つ零して、彼の背中に手を回してぽんぽんと幼子を宥めるように叩いた。
スリスリと私の頬に頬を寄せる彼は、そのまま髪に口付け、次に額、鼻、頬、と次々に触れるだけのキスを落としていく。
擽ったくて身を捩れば諌めるように鼻の頭を甘噛みされる。
目が合って、流れるように自然に唇にキスされた。
瞼を閉じて、キスに応える。
少しばかり長いキスはしょっぱくて、笑ってしまった。
上がった口角に何を思ったのか、唇を割り舌を捩じ込ませる彼。
戯れのキスだったのにと驚いて目を開ければ、そこには拗ねた捕食者が居た。
ああ、怪我の手当てまだしてないのになぁ。
そう思いながらも、どんどん深くなっていく口付けに逆らうことはせず、今はとにかく彼の機嫌を直すことに専念した。
「出張の度にコレだと私の身が持たない」
「じゃあ行かなきゃいいじゃん」
「そういうわけにはいかないでしょー」
「……はるちゃんは俺と仕事、どっちが大事なの?」
「またベタな質問だね」
包帯を巻きながら訊かれた質問なのか決定事項なのか分からない質問に、溜め息を吐く。
「そんなの、キミに決まってるでしょ」
「じゃあ、」
「仕事は辞めません」
「……どーして?はるちゃんが仕事しなくても俺はるちゃんのこと養えるよ?」
「私が仕事したいからに決まってるでしょ」
と、いうか。
「そういう話は籍を入れてからにしようね」
「じゃあ今日入れよう」
「書類とか色々要るから今日直ぐには無理ですー。……はい。手当て終わり」
「結婚したら、俺とずっと居てくれる?」
「どうかな?それはキミ次第じゃないかな」
「はるちゃんは意地悪だね」
「知らなかったの?」
「ううん。そんなはるちゃんも大好き」
「私も好きだよ」
この怪我も、キミの重い愛も全部、愛してる。
包帯の上から傷に口付ければ、嬉しそうに彼は笑った。
そんな他人事のようなことを思いながら、苦笑した。
「また切ったの?」
「……ぁ、」
踞っていた彼と目を合わせるようにしゃがめば、ぼうっと焦点の合っていない目でこちらを見てきた。
少しずつ視点が合ってきて、しっかりと私の存在を確認すると抱き着いてきた。
「お、っと」
のし掛かるような彼の重さに堪えきれず、尻餅を付いてしまった。
彼はそんな私に気付いていないのか、はたまた余裕がないのか、まあ、両方だろう。
ギュウギュウと音が鳴るんじゃないかと言うくらい強い力で抱き締められた。
「苦しいなぁ」
「……っ、しらない!」
「なぁに?泣いてるの?」
「っ泣いてない。俺のこと置いてったはるちゃんなんてしらないよぉ…」
「あはは、置いてったって。しょうがないでしょ?」
「しょうがなくない!はるちゃんはずっと、ずーっと!俺と居るんだから!離れてくなんて駄目!許さない!」
「そっかそっか。とりあえず鼻かもうね」
綺麗な顔が涙やら鼻水やらで台無しだ。いや、それでも尚、見られるレベルなんだから、いやはや美形って怖い。
「……はるちゃん」
「うん?」
ティッシュを探して視線を動かせば、少し遠いな。
抱き締められた腕の力が弛むとは考えていないので、ポケットに入れていたハンカチで代用しようとスーツのズボンからハンカチを取り出す。
それで涙と鼻水を拭いてやれば、うん。目元は紅いけれどいつもの顔だ。
「何にもされてない?」
「されてないわよ」
「他の男が良くなったとか言わない?」
「言わない言わない」
私にはキミしか居ないよ。
甘く囁くように言ってやれば、漸く落ち着いたのか、抱き締める形がしなだれかかる形へと変化する。
重いのは変わらないし、拘束的な意味でも全く変わっていないけれど。
「傷、手当てしないと」
「今ははるちゃんを感じさせて」
「……しょうがないなぁ」
苦笑を一つ零して、彼の背中に手を回してぽんぽんと幼子を宥めるように叩いた。
スリスリと私の頬に頬を寄せる彼は、そのまま髪に口付け、次に額、鼻、頬、と次々に触れるだけのキスを落としていく。
擽ったくて身を捩れば諌めるように鼻の頭を甘噛みされる。
目が合って、流れるように自然に唇にキスされた。
瞼を閉じて、キスに応える。
少しばかり長いキスはしょっぱくて、笑ってしまった。
上がった口角に何を思ったのか、唇を割り舌を捩じ込ませる彼。
戯れのキスだったのにと驚いて目を開ければ、そこには拗ねた捕食者が居た。
ああ、怪我の手当てまだしてないのになぁ。
そう思いながらも、どんどん深くなっていく口付けに逆らうことはせず、今はとにかく彼の機嫌を直すことに専念した。
「出張の度にコレだと私の身が持たない」
「じゃあ行かなきゃいいじゃん」
「そういうわけにはいかないでしょー」
「……はるちゃんは俺と仕事、どっちが大事なの?」
「またベタな質問だね」
包帯を巻きながら訊かれた質問なのか決定事項なのか分からない質問に、溜め息を吐く。
「そんなの、キミに決まってるでしょ」
「じゃあ、」
「仕事は辞めません」
「……どーして?はるちゃんが仕事しなくても俺はるちゃんのこと養えるよ?」
「私が仕事したいからに決まってるでしょ」
と、いうか。
「そういう話は籍を入れてからにしようね」
「じゃあ今日入れよう」
「書類とか色々要るから今日直ぐには無理ですー。……はい。手当て終わり」
「結婚したら、俺とずっと居てくれる?」
「どうかな?それはキミ次第じゃないかな」
「はるちゃんは意地悪だね」
「知らなかったの?」
「ううん。そんなはるちゃんも大好き」
「私も好きだよ」
この怪我も、キミの重い愛も全部、愛してる。
包帯の上から傷に口付ければ、嬉しそうに彼は笑った。