SS 101~120

「世界の為に戦った勇者は見事魔王を倒し、英雄になりましたとさ」


めでたしめでたし。


「――てことだから、俺がこれから何をしようとどうしようと勝手だよなぁ?」


ニヤリと口端を吊り上げれば怯えた瞳がひぃふぅみぃ、と数え切れない程にある。だけどその一つにだって哀れみも抱かないし恩情を掛ける気もない。


「お前……なんでっ……なんでこんなことしやがった!」


共に戦場とも言える日々を過ごした戦士が震える声で叫んだ。
それだけじゃない。
魔法使いも射抜くような目で俺を見やってくる。
……ああ、お前らとは毎日毎日喧嘩したり酒呑んで笑ったり死線を潜り抜けたり、確かに友情的なモノを感じていたな。


――だからこそ、そんなお前らだからこそ、解ってくれだなんて言わねぇよ?


「俺は、ただこの世界をどうにかしたくて、魔物に怯えなくても良い世界を作りたくて、ただそれだけだった」


それしか無かった筈なんだけどな。


「俺は今、それが本当に正しかったのか判断が付かねぇんだよ」


何故なら俺達が倒した魔王は、きっと誰よりも平和を愛した魔物だったから。だから力の差が歴然とあったにも関わらず殺された。


「何言って……っお前は騙されているだけだ!目を覚ませ!勇者!」

「騙されてる、か」


確かに騙されているのかも知れねぇな。
相手は魔物の中の魔物。
歴代の魔王の中で最も強く、美しいと謳われた魔王なのだから。
だけどな?


「それでもイイって思っちまった」


例えば。あんな村外れまで足を伸ばさなかったなら。
例えば。そこに焼け焦げた人間の家を見て涙を流す魔王が居なかったのなら。
例えば。――その姿に、見惚れてしまわなければ。
俺は国民が願う『正義』を振りかざし続けられたのに。
計算違いはあの日あの場に気紛れに訪れてしまったからに他ならない。
だけど後悔なんざしてねぇよ?
お陰で俺は、きっと生涯得られなかったかも知れない本当の恋とやらを出来たんだから。
例えば。これがアイツの魔力でも、それこそが本望だとさえ思うな。
アイツが少しでも俺を見ていてくれた証になるような、そんな気がするから。悪くねぇ。


「勇者!」


喉から振り絞るように叫ぶのは大切であった筈の戦士。
今では憎しみしか抱かない。
お前はアイツの身体を何度も、何度も、憎しみを込めて切りつけたから。


「勇者っ」


悲痛そうに顔を歪める魔法使いに俺は笑う。
魔法使いになったのは、苦しむ誰かを癒す為だと言っていた。
けれどお前は世界の為にとアイツに何度も、何度も、攻撃魔法を使い続けたな。


だけどな?
もうそんなことはどうでもいいんだよ。
だってアイツはもうこの世界の何処にも居ないんだから。



「さあ、始めようぜ?」



楽しい楽しい、復讐劇を。
イカれ狂った、自己満足を。
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