SS 101~120

つぷり、と肌を牙が貫通する感覚の後にくる甘く濃厚なのにも関わらず飽きのこない飲みやすさの血液を喉を鳴らしながら味わう。


「ん、おいしいですか…?」

「、ああ」


声を掛けられて、牙を突き立てたままそう返せば、良かった…、と吐息のような声が聞こえた。


「私の血はあなたにとっては穢れているから、あなたに美味しく感じて貰えるなら良かった…」

「……リーシア」


一度牙を肌から抜き、リーシアに向き直る。
リーシアは嬉しそうに笑っていた。


「……例えお前の血が俺達にとっては穢れたものであろうと、俺はお前の血以外は吸う気はない」


だからそんな心配はするな。


「ふふ、はい」

「笑うな」

「はい」

「だから、……まあいい。首を晒せ。もう少し飲む」

「はい。あなたの気が済むまで幾らでも」


そう言ってリーシアは指を組むと顔を傾け首を晒した。
その首には十字架が掛かっているが、吸血鬼に十字架が効くだなんて迷信だ。
俺達にとっては何の効力もない。
リーシアはそれが分かっているのでその首から十字架を外すことはない。
俺を受け入れた瞬間から神の加護など受けられないというのに。
「腐っても一度は神にこの身を捧げたものですから」と言って修道着を脱ぐこともない。
シスターと吸血鬼、なんて何とも正反対だというのに俺達は惹かれあってしまった。
いや、違うな。
リーシアをこちら側に落としたのは俺だ。
俺がリーシアを見初めなければ、いつかただの人間と平凡な幸せを手に入れていたことだろう。
だから、だから、憎き神よ。


(この娘に、何の罰も与えるな)


全ての咎は俺が背負おう。


「どうかされましたか?」

「……いや、なんでもない」


リーシアの首に顔を埋めて、俺は心の中だけですまないと謝った。
いつかお前を傷つけてしまうかもしれない。
年月の壁に遮られて別れることになるかもしれない。
それでもお前を手放せないのだと、リーシアの細く華奢な肩を抱き寄せた。
何処にも行ってしまわないように。
俺の側にいつまでも居て欲しいと願いながら。
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