SS 101～120
好きな子から呼び出しを受けた。呼び出しの種類は多々あるかもしれないが、やはり好きな子ということで若干の期待はしてしまう。
指定されたのが屋上だったのは予想外ではあるが、誰にも見られる必要がないからむしろ有難い。
屋上の少し開きにくい扉を開ける。
そこには既に彼女の姿があった。
「待たせてごめん！」
まず先に叫ぶように謝った。
「遅刻したわけじゃないんですし、別に構いませんよ～」
眠そうな目に間延びした声。
緊張感は欠片も見当たらない。
マイペースを地で行く彼女らしいといえば彼女らしいその態度に、早鐘を打っていた心臓が少しばかり落ち着いた。
もしかしたら呼び出しの種類を間違えて解釈していたかも知れない。
そう思えば、途端に恥ずかしくなってくる。
けれどそこは意地で顔には表さず、彼女に声を掛ける。
「それで、なんの用かな」
少し気取りすぎただろうかと焦る。
しかし彼女に気にした様子もなく、
「ああ、はい。実はわたし、先輩に告白しようと思ってたんですよ～。訊いてくれると嬉しいです～」
「……うん？」
「あ、驚きました～？」
「ああ、いや。驚いたには驚いたんだけど、むしろ違うところに驚いたというか」
彼女が俺に恋心を持っていたことにはそれはもう、驚いた。
かなりの確率で生命活動が停止しかけるくらいには心臓に悪い話だ。
これが嘘だったとか言われたら、俺は多分。今すぐ何のためらいもなく屋上の柵を飛び越えて身を投げるだろう。
そうして彼女の脳裏に一生“俺”という人物を焼き付けるくらいはするかもしれない。
我ながら重いとは思うがそれくらい彼女が好きなのだからしょうがない。
だがしかし。
俺が驚いたのはそこではなく。
あっさりさっぱり、ともすれば聞き流してしまいそうな程の気軽さで告げられた『告白したい』の言葉だ。
「ううん～？これは脈なしっぽいですかね～」
少しの間考えていたら彼女がとんでもない勘違いをぶっぱなしてくれた。
「いやいやいや！！そんなことないってか、俺もお前のこと好きだし！！」
「……へ」
「…………あ、」
一世一代の告白をどうやら俺は勢いに任せてしまったらしい。
なんてことだ。出来ればこのまま屋上から飛び降りてしまいたいたい程度には恥ずかしい。
いや、勢いに任せなければ俺は彼女に想いを伝えるという行為そのものが出来ていたか甚だ疑問だが。
「……好き、なのですか」
「……好き……です」
「そう、なんですか……それはまた……どうしましょーね」
戸惑っているような空気を感じて彼女を見る。
彼女は感じた通り、眠たそうな目をそのままに困ったように眉を下げていた。
「……迷惑、だったかな？」
「いえ～、そんなことはないです。ええとー、なんと言えば良いのかなー」
眠たそうな目を俺から逸らし、空に向け、そうして今度は柵に向ける。
「先輩が告白を受け入れてくれなかったら～、私あそこから飛び降りようって考えてたんですー」
その為の遺書も用意していたんですよ？
そう言ってポケットから茶封筒を取り出して見せる。
そこには確かにハッキリと『遺書』の文字が書かれていた。
「だから～、先輩から好きだって言って貰えて嬉しい、です」
でも～、と彼女は続けた。
「重たい……ですよねー」
確かに。
遺書まで用意しての告白なんて重い以外の何でもないかも知れない。
でもそれは俺以外が相手であったらだ。
「……こんなん用意してまで俺に告白してくれようとしたの？断られたら死にたくなるくらい俺のこと好きなの？」
マイペースでどこか抜けてるというか、ずれている彼女が、そんなものを用意してまで俺に想いを告げようとしてくれていたのかと思うと、純粋に嬉しい。
恥ずかしそうにコクンと頷いた彼女に、にやけそうになる顔を見られたくなくて、口許を掌で覆う。
「……俺も、」
「はい」
「俺も、お前が俺以外の誰かを好きになったとか、そんな相談持ちかけてきたら、このままお前引っ張って屋上から飛び降りようとか思ってた」
だから、重いとかないよ。
「それは、……嬉しい、です」
「俺も嬉しい」
想いが通じあって万々歳。
これから薔薇色の青春が待っているのかと思うと、嬉しいを通り越して悟りさえ開けそうだ。
「あー、ひとついいですかー？」
「うん。なに？」
「私は先輩をどの辺りまで縛って良いのでしょうか～」
「ううん。お前は俺の恋人になってくれたんだよね？」
「先輩が受け入れてくださるなら、ですがー」
「じゃあ、どこまででもいいよ！俺もお前のこと、多分めちゃくちゃ縛るし」
「あはは、そんなのドンと来いですよ～」
「ははっ。何も問題ないみたいだな」
「みたいですねー」
じゃあ、改めて。
「今日からずっと、死ぬまで幸せににするから。よろしくな！」
「私も、先輩を死ぬまで幸せにしてみせますよー」
可笑しなカップルだと思われるかも知れないが、こんなカップルが一組くらいは居てもいいのではないかと。
彼女の眠たげな笑みを見ながら思ったのであった。
指定されたのが屋上だったのは予想外ではあるが、誰にも見られる必要がないからむしろ有難い。
屋上の少し開きにくい扉を開ける。
そこには既に彼女の姿があった。
「待たせてごめん！」
まず先に叫ぶように謝った。
「遅刻したわけじゃないんですし、別に構いませんよ～」
眠そうな目に間延びした声。
緊張感は欠片も見当たらない。
マイペースを地で行く彼女らしいといえば彼女らしいその態度に、早鐘を打っていた心臓が少しばかり落ち着いた。
もしかしたら呼び出しの種類を間違えて解釈していたかも知れない。
そう思えば、途端に恥ずかしくなってくる。
けれどそこは意地で顔には表さず、彼女に声を掛ける。
「それで、なんの用かな」
少し気取りすぎただろうかと焦る。
しかし彼女に気にした様子もなく、
「ああ、はい。実はわたし、先輩に告白しようと思ってたんですよ～。訊いてくれると嬉しいです～」
「……うん？」
「あ、驚きました～？」
「ああ、いや。驚いたには驚いたんだけど、むしろ違うところに驚いたというか」
彼女が俺に恋心を持っていたことにはそれはもう、驚いた。
かなりの確率で生命活動が停止しかけるくらいには心臓に悪い話だ。
これが嘘だったとか言われたら、俺は多分。今すぐ何のためらいもなく屋上の柵を飛び越えて身を投げるだろう。
そうして彼女の脳裏に一生“俺”という人物を焼き付けるくらいはするかもしれない。
我ながら重いとは思うがそれくらい彼女が好きなのだからしょうがない。
だがしかし。
俺が驚いたのはそこではなく。
あっさりさっぱり、ともすれば聞き流してしまいそうな程の気軽さで告げられた『告白したい』の言葉だ。
「ううん～？これは脈なしっぽいですかね～」
少しの間考えていたら彼女がとんでもない勘違いをぶっぱなしてくれた。
「いやいやいや！！そんなことないってか、俺もお前のこと好きだし！！」
「……へ」
「…………あ、」
一世一代の告白をどうやら俺は勢いに任せてしまったらしい。
なんてことだ。出来ればこのまま屋上から飛び降りてしまいたいたい程度には恥ずかしい。
いや、勢いに任せなければ俺は彼女に想いを伝えるという行為そのものが出来ていたか甚だ疑問だが。
「……好き、なのですか」
「……好き……です」
「そう、なんですか……それはまた……どうしましょーね」
戸惑っているような空気を感じて彼女を見る。
彼女は感じた通り、眠たそうな目をそのままに困ったように眉を下げていた。
「……迷惑、だったかな？」
「いえ～、そんなことはないです。ええとー、なんと言えば良いのかなー」
眠たそうな目を俺から逸らし、空に向け、そうして今度は柵に向ける。
「先輩が告白を受け入れてくれなかったら～、私あそこから飛び降りようって考えてたんですー」
その為の遺書も用意していたんですよ？
そう言ってポケットから茶封筒を取り出して見せる。
そこには確かにハッキリと『遺書』の文字が書かれていた。
「だから～、先輩から好きだって言って貰えて嬉しい、です」
でも～、と彼女は続けた。
「重たい……ですよねー」
確かに。
遺書まで用意しての告白なんて重い以外の何でもないかも知れない。
でもそれは俺以外が相手であったらだ。
「……こんなん用意してまで俺に告白してくれようとしたの？断られたら死にたくなるくらい俺のこと好きなの？」
マイペースでどこか抜けてるというか、ずれている彼女が、そんなものを用意してまで俺に想いを告げようとしてくれていたのかと思うと、純粋に嬉しい。
恥ずかしそうにコクンと頷いた彼女に、にやけそうになる顔を見られたくなくて、口許を掌で覆う。
「……俺も、」
「はい」
「俺も、お前が俺以外の誰かを好きになったとか、そんな相談持ちかけてきたら、このままお前引っ張って屋上から飛び降りようとか思ってた」
だから、重いとかないよ。
「それは、……嬉しい、です」
「俺も嬉しい」
想いが通じあって万々歳。
これから薔薇色の青春が待っているのかと思うと、嬉しいを通り越して悟りさえ開けそうだ。
「あー、ひとついいですかー？」
「うん。なに？」
「私は先輩をどの辺りまで縛って良いのでしょうか～」
「ううん。お前は俺の恋人になってくれたんだよね？」
「先輩が受け入れてくださるなら、ですがー」
「じゃあ、どこまででもいいよ！俺もお前のこと、多分めちゃくちゃ縛るし」
「あはは、そんなのドンと来いですよ～」
「ははっ。何も問題ないみたいだな」
「みたいですねー」
じゃあ、改めて。
「今日からずっと、死ぬまで幸せににするから。よろしくな！」
「私も、先輩を死ぬまで幸せにしてみせますよー」
可笑しなカップルだと思われるかも知れないが、こんなカップルが一組くらいは居てもいいのではないかと。
彼女の眠たげな笑みを見ながら思ったのであった。
