SS 01~20
君の声。君の匂い。君の体温。
全部ぜんぶ、覚えているよ。
きっとこれから何度、年月を経ても。
君を忘れることは、無いのだろう。
「また来たの?」
私を見ようともせずに、窓の外に視線を固定している君。
真夏だというのに君の纏う青色のパジャマは長袖。
そこから見える肌は透けるような、なんて生易しい表現ではなくて本当に透けているようで。
肉の薄くなった腕には蒼白い血管が浮き出ていた。
君はこの姿を見られたくないから冷たい言葉を私に投げるのだと知っている。
知っているけれど。
だからと言って君に会いに来ることをやめてあげるほど、私は出来た人間じゃなかったから。
だから君が苦しむと知っていて、君に会いに来る。
「ここに来る道にさ。向日葵が咲いてたよ。今度二人で見に行こう?」
「……っ、行けるわけないだろう!?」
久し振りに見た君の顔は苦しそうに歪んでいた。
今にも泣き出してしまいそうな君の叫んだ声は、君が元気だった頃よりも随分か細くなっていて。
こんな時、君が病気なのだと認識する。
けれど私は君の辛さを理解することが出来ないから、ただ微笑みを浮かべて君を見つめるだけ。
「……なんで、」
その言葉の先は紡がれることなく、君は下を向いてしまった。
私はソッと腕を伸ばして、触れるか触れないかのギリギリで君の髪に触れる。
君は気付かないのか抵抗はしない。
気付いていたら振り払われてしまう。
君はそういう人だからね。
「また明日も来るね」
きっと意地っ張りな君は私が居ては泣けないだろうから。
そう言って、名残惜しいけれど君から離れると病室の扉を開けようと手をかける。
出て行こうとした瞬間。
背後からか細い声で「ごめん」と聞こえてきた。
思わず振り返ると、そこに居たのは迷子になった子供のように頼り無い顔をする君で。
私は君に何かを掛ける言葉を持ってはいない。
だからもう一度君に近寄りソッと君の手を取った。
骨と皮と薄い肉だけになってしまった冷たい手は、点滴によって固定されているから、下手に動かさないように両手で包み込む。
「私は君に拒絶されたからって君を嫌いになったりしないし、あり得ない。たとえ私の記憶が消えたって私は君が好きだよ」
君は肩を震わせて、点滴の刺さっていない腕で私の肩を抱いた。
「ごめん、ごめんっ。離してやれなくてごめん。好きなんだ!お前が、本当に……」
私の肩に額を当てる君は泣いていた。
死への恐怖よりもずっと、私が離れていくことに怯えてる。
そんな君が、私はこの世界の誰よりも好き。
『弱くて脆い、君が本当に大好き』
安心してね?
私は離れないから。
ずっと君の側に居るから。
だからいつか、前みたいに笑う君にも会えるよね?
私は空を見上げて君を想う。
そこにあったのは、空へと還って行く煙だけ。
全部ぜんぶ、覚えているよ。
きっとこれから何度、年月を経ても。
君を忘れることは、無いのだろう。
「また来たの?」
私を見ようともせずに、窓の外に視線を固定している君。
真夏だというのに君の纏う青色のパジャマは長袖。
そこから見える肌は透けるような、なんて生易しい表現ではなくて本当に透けているようで。
肉の薄くなった腕には蒼白い血管が浮き出ていた。
君はこの姿を見られたくないから冷たい言葉を私に投げるのだと知っている。
知っているけれど。
だからと言って君に会いに来ることをやめてあげるほど、私は出来た人間じゃなかったから。
だから君が苦しむと知っていて、君に会いに来る。
「ここに来る道にさ。向日葵が咲いてたよ。今度二人で見に行こう?」
「……っ、行けるわけないだろう!?」
久し振りに見た君の顔は苦しそうに歪んでいた。
今にも泣き出してしまいそうな君の叫んだ声は、君が元気だった頃よりも随分か細くなっていて。
こんな時、君が病気なのだと認識する。
けれど私は君の辛さを理解することが出来ないから、ただ微笑みを浮かべて君を見つめるだけ。
「……なんで、」
その言葉の先は紡がれることなく、君は下を向いてしまった。
私はソッと腕を伸ばして、触れるか触れないかのギリギリで君の髪に触れる。
君は気付かないのか抵抗はしない。
気付いていたら振り払われてしまう。
君はそういう人だからね。
「また明日も来るね」
きっと意地っ張りな君は私が居ては泣けないだろうから。
そう言って、名残惜しいけれど君から離れると病室の扉を開けようと手をかける。
出て行こうとした瞬間。
背後からか細い声で「ごめん」と聞こえてきた。
思わず振り返ると、そこに居たのは迷子になった子供のように頼り無い顔をする君で。
私は君に何かを掛ける言葉を持ってはいない。
だからもう一度君に近寄りソッと君の手を取った。
骨と皮と薄い肉だけになってしまった冷たい手は、点滴によって固定されているから、下手に動かさないように両手で包み込む。
「私は君に拒絶されたからって君を嫌いになったりしないし、あり得ない。たとえ私の記憶が消えたって私は君が好きだよ」
君は肩を震わせて、点滴の刺さっていない腕で私の肩を抱いた。
「ごめん、ごめんっ。離してやれなくてごめん。好きなんだ!お前が、本当に……」
私の肩に額を当てる君は泣いていた。
死への恐怖よりもずっと、私が離れていくことに怯えてる。
そんな君が、私はこの世界の誰よりも好き。
『弱くて脆い、君が本当に大好き』
安心してね?
私は離れないから。
ずっと君の側に居るから。
だからいつか、前みたいに笑う君にも会えるよね?
私は空を見上げて君を想う。
そこにあったのは、空へと還って行く煙だけ。
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