twst夢小説
カラン、とグラスの中で氷が揺れる。
アイスティーを作ったのは、少し前。グラスに注いで氷を入れた。
でもその氷もだいぶ溶けてしまっている。
さて、何故溶けているのか。
それは彼――フロイド・リーチ――が発した言葉からだ。
「小エビちゃんってさぁ、交尾したことあるの?」
「ぶはっ……、え、……はぁ……っ!?」
ちょうど飲み込んだアイスティーを寸でで吐き出さなかったわたしを褒めて欲しい。
トレイ先輩にいただいた苺のタルトが目の前にあるテーブルの上に鎮座していなければわたしは勢いよく吐き出していたかもしれない。
そのくらい衝撃的だったのだ。
「ええ、と……フロイド先輩? どうしてそんな話しになるんですか?」
「んー、だってさー。小エビちゃんはぁ、オレの番なのに他の雄から餌付けされてるし」
「……つまるところ、この物凄く美味しそうな苺のタルトがその質問の原因だと?」
「そういうこと」
なんてことないようにとんでもないことを相変わらず言うなぁ、と思いながらわたしは息を吐く。
「この前、フラミンゴの世話を手伝ったんです。そのお礼ですよ?」
「相手がそう思ってるとは限らねぇじゃん」
「いや……でも、わたしにはフロイド先輩が居ますから」
「……小エビちゃんには、本当にオレだけ?」
「そうですよ」
この話は終わりだとばかりに、フォークを片手にタルトを刺して、パクリと食べる。うん、やはりトレイ先輩のお菓子は美味しいなぁ。
うんうん頷きながら食べていればフロイド先輩は何かがまだ気に食わないのか、うーんと身体を傾けている。
一体全体なんだっていうのだ。
フロイド先輩とお付き合いをしているのは、私たちに関わりのある人は知っているようなことなのに。
今更そんなことを気にされても困るなぁ。
わたしは自慢じゃないが異性とそういった行為をした経験はない。でも、そういうのは好きな人とするものだとも思っている。世の中は知らないが、わたしはそう思っているわけで。
つまるところ何が言いたいかと言うと、今お付き合いしているフロイド先輩以外とそういう行為をする気は一切ないということなのだが。
「フロイド先輩は何が心配なんですか?」
「心配っていうか……」
言いあぐねいているフロイド先輩はああでもない、こうでもないと言わんばかりに唸っている。
何が言いたいのだろうか? まったくもって今回のフロイド先輩の言いたいことが分からない。いや、まあ。大体いつもフロイド先輩の言いたいことは分からないのだけれども。
いやぁ、本当になんで付き合っているんだろうね? と一瞬思わなかったわけではないし、アズール先輩やジェイド先輩にも「趣味が悪い」だの「なかなか興味深いですね」などと言われているが。
なんか思い出したら腹が立ってきたな。好きになったんだから仕方ないんだよ、としか言えないんだけども。
「フロイド先輩、わたしはね。あなたが好きなんですよ」
「……そうなの?」
「いえ、待ってください。そこからですか?」
「だってぇ、小エビちゃんオレに対してそういうこと言わないから……」
「ああ、なるほど……」
なるほど、なるほど。要はフロイド先輩は不安になっていたと。そういうことだろうか?
まったくもって、失礼極まりない。
「わたしのことをなんだと思っているんですか? 好きでもない人と付き合うような女だとでも思ってるんです?」
「ち、っげぇし……でも、本当に、小エビちゃんいつもなんも言ってくんねぇから……」
「こういう悩み、普通男女が逆な気もしないでもないですけれども……」
まあ、どちらでもそういう悩みを抱くというものか。
そもそも不安にさせたのはわたしの責任というものだし。
「フロイド先輩」
「なぁに?」
「好きですよ。わたし、あなたのことがちゃんと」
大好きなんですよ。
そういって、微笑めばフロイド先輩も安心したようにふにゃりと笑った。
めっちゃ可愛いな。この人。守りたい、この笑顔。結婚しよう。
そんな砂糖のように甘い言葉が心の中でぽろぽろと吐いては出てくるが、今はまだその時ではないので何も言わないでにこにこ笑っておくに留めておく。
もしやこういう言葉が足りないというのだろうか?
そうは言っても、わたしの心の中身を見せることは不可能だし、何より砂糖時々、苦い嫉妬みたいな感情まみれの中身を綺麗なフロイド先輩には見せたくない。
「不安は晴れましたか?」
「うん、大丈夫」
「なら良かったです」
「うん。でもさ、小エビちゃん」
「まだ何かありますか?」
アイスティーと共に入っていた氷は既に一体化しているほどには時間は経っている。
いい加減タルトをもっと味わいたいのだが、どうしたというのだろうか?
「一番大事なこと、まだ答えてもらってない」
「はあ、なんですか?」
「小エビちゃんはぁ、結局交尾したことあるの? ないの?」
「……そこ、そんなに重要ですかね?」
「ちなみにオレ以外に居るって答えたらぁ、」
「答えたら?」
興味本位で聞いてしまったのがいけないのだろう。
フロイド先輩はそのギザギザした鋭い歯をわざわざ見せるように、にんまりと笑う。
「今からヤり殺すだけだよ」
「えぇ……困る……」
「思ったより普通の反応だねぇ」
「それはまあ、お気付きだと思っているので」
「言葉にされないと不安なんだけどぉ」
「こういうの、口に出すの恥ずかしいのでやめませんか?」
「恥ずかしいくらい経験あるってこと?」
「あの、フロイド先輩。ホント、わたしで遊ぶのやめてくださいよ……」
「あは。やーだ」
「はあ、可愛く言われましても……」
「小エビちゃんにはこれが可愛く見えてるんだねぇ」
そりゃ、アズールとジェイドに「趣味悪い」って言われるわけだ。
「え、わたしはめちゃくちゃ趣味いいつもりですけど?」
「ふふ、そのままで居てね? 小エビちゃん」
フロイド先輩は相変わらずよく分からない上に、発言がちょっと怖い。なんなら語尾にハートマークもついている気がする。中身は真っ黒の。……全力で気のせいと言うことにしよう。そうしよう。
この学園ではある程度のスルースキルを求められる。それを今こそ発揮しろわたし。
そんなフロイド先輩でもいいと思ったのはわたしなのだから。スルーしていけ、わたし。
きっと気付かない方が幸せなこともこの世にはたくさんあるのだろう。
「フロイド先輩がそう望むなら、わたしはこのままのわたしで居ますよ」
――あなたがわたしという存在に飽きる、その日まで。
なんて、言わないけれども。
怯えているのはどちらだという話だ。
いつか来る別れに怯えているのは、わたしの方だと言うのに。
睫毛をゆっくりと伏せて、瞑る。
この瞼の中にあなたという存在を閉じ込めてしまえたならと。そんなことを考えてしまうくらいにはわたしはあなたと離れる未来に怯えているというのに。
(まったく、困った人だなぁ)
そう思いながら、またひと欠片タルトをパクリと口に放る。
ふんわりと甘酸っぱい苺の香りが口の中に広がっていくのを感じた。
***
小エビちゃんは何も分かっていない。
目の前でパクリパクリと苺のタルトを口に入れては幸せそうに微笑む小エビちゃん。
オレのことが大好きな小エビちゃん。
まあ、オレの方が小エビちゃんのこと好きだけどね。
その話はとりあえず置いておいて。
(ほんっと、分かってんのかなぁ……)
人魚は愛情深い。それこそひと昔前には想い人の為だけに自慢の声を対価に会いに行った人魚も居るくらいだ。
人間に焦がれ、人間を愛するのは人魚のサガか。
まあ、なんでもいい。
(オレはひとりで泡になるくらいなら、小エビちゃんを道連れにするくらいには想ってるっているのにねぇ?)
彼女は分かっていないのだ。人魚に愛されるということを。人魚の愛情深さを。その――貪欲さを。
「小エビちゃん」
「なんですか? フロイド先輩」
ああ、その声をオレ以外に聞かせないでと乞い願ったならば。
(小エビちゃんはどうするのかな?)
恐れる? 怯える? オレの前から去ろうとする?
(ぜんぶぜんぶ、許すつもりはないけどねぇ)
番になった以上、小エビちゃんは死ぬまでオレのモノなんだからさ。
にんまりと口角を上げたことに、タルトに夢中な小エビちゃんはきっと気付いてはいないのだろう。
まったく、人の気も知らないで。
「今度はオレがケーキ作ったげる」
「え、いいんですか?」
「うん。だからぁ、ちゃんと食べてね?」
「そんなの当たり前じゃないですか」
きょとんとした小エビちゃんが可愛くて、いっそ憎らしいほどにいとおしくて。
まったくもって、恋というものは恐ろしいものだ。
アイスティーを作ったのは、少し前。グラスに注いで氷を入れた。
でもその氷もだいぶ溶けてしまっている。
さて、何故溶けているのか。
それは彼――フロイド・リーチ――が発した言葉からだ。
「小エビちゃんってさぁ、交尾したことあるの?」
「ぶはっ……、え、……はぁ……っ!?」
ちょうど飲み込んだアイスティーを寸でで吐き出さなかったわたしを褒めて欲しい。
トレイ先輩にいただいた苺のタルトが目の前にあるテーブルの上に鎮座していなければわたしは勢いよく吐き出していたかもしれない。
そのくらい衝撃的だったのだ。
「ええ、と……フロイド先輩? どうしてそんな話しになるんですか?」
「んー、だってさー。小エビちゃんはぁ、オレの番なのに他の雄から餌付けされてるし」
「……つまるところ、この物凄く美味しそうな苺のタルトがその質問の原因だと?」
「そういうこと」
なんてことないようにとんでもないことを相変わらず言うなぁ、と思いながらわたしは息を吐く。
「この前、フラミンゴの世話を手伝ったんです。そのお礼ですよ?」
「相手がそう思ってるとは限らねぇじゃん」
「いや……でも、わたしにはフロイド先輩が居ますから」
「……小エビちゃんには、本当にオレだけ?」
「そうですよ」
この話は終わりだとばかりに、フォークを片手にタルトを刺して、パクリと食べる。うん、やはりトレイ先輩のお菓子は美味しいなぁ。
うんうん頷きながら食べていればフロイド先輩は何かがまだ気に食わないのか、うーんと身体を傾けている。
一体全体なんだっていうのだ。
フロイド先輩とお付き合いをしているのは、私たちに関わりのある人は知っているようなことなのに。
今更そんなことを気にされても困るなぁ。
わたしは自慢じゃないが異性とそういった行為をした経験はない。でも、そういうのは好きな人とするものだとも思っている。世の中は知らないが、わたしはそう思っているわけで。
つまるところ何が言いたいかと言うと、今お付き合いしているフロイド先輩以外とそういう行為をする気は一切ないということなのだが。
「フロイド先輩は何が心配なんですか?」
「心配っていうか……」
言いあぐねいているフロイド先輩はああでもない、こうでもないと言わんばかりに唸っている。
何が言いたいのだろうか? まったくもって今回のフロイド先輩の言いたいことが分からない。いや、まあ。大体いつもフロイド先輩の言いたいことは分からないのだけれども。
いやぁ、本当になんで付き合っているんだろうね? と一瞬思わなかったわけではないし、アズール先輩やジェイド先輩にも「趣味が悪い」だの「なかなか興味深いですね」などと言われているが。
なんか思い出したら腹が立ってきたな。好きになったんだから仕方ないんだよ、としか言えないんだけども。
「フロイド先輩、わたしはね。あなたが好きなんですよ」
「……そうなの?」
「いえ、待ってください。そこからですか?」
「だってぇ、小エビちゃんオレに対してそういうこと言わないから……」
「ああ、なるほど……」
なるほど、なるほど。要はフロイド先輩は不安になっていたと。そういうことだろうか?
まったくもって、失礼極まりない。
「わたしのことをなんだと思っているんですか? 好きでもない人と付き合うような女だとでも思ってるんです?」
「ち、っげぇし……でも、本当に、小エビちゃんいつもなんも言ってくんねぇから……」
「こういう悩み、普通男女が逆な気もしないでもないですけれども……」
まあ、どちらでもそういう悩みを抱くというものか。
そもそも不安にさせたのはわたしの責任というものだし。
「フロイド先輩」
「なぁに?」
「好きですよ。わたし、あなたのことがちゃんと」
大好きなんですよ。
そういって、微笑めばフロイド先輩も安心したようにふにゃりと笑った。
めっちゃ可愛いな。この人。守りたい、この笑顔。結婚しよう。
そんな砂糖のように甘い言葉が心の中でぽろぽろと吐いては出てくるが、今はまだその時ではないので何も言わないでにこにこ笑っておくに留めておく。
もしやこういう言葉が足りないというのだろうか?
そうは言っても、わたしの心の中身を見せることは不可能だし、何より砂糖時々、苦い嫉妬みたいな感情まみれの中身を綺麗なフロイド先輩には見せたくない。
「不安は晴れましたか?」
「うん、大丈夫」
「なら良かったです」
「うん。でもさ、小エビちゃん」
「まだ何かありますか?」
アイスティーと共に入っていた氷は既に一体化しているほどには時間は経っている。
いい加減タルトをもっと味わいたいのだが、どうしたというのだろうか?
「一番大事なこと、まだ答えてもらってない」
「はあ、なんですか?」
「小エビちゃんはぁ、結局交尾したことあるの? ないの?」
「……そこ、そんなに重要ですかね?」
「ちなみにオレ以外に居るって答えたらぁ、」
「答えたら?」
興味本位で聞いてしまったのがいけないのだろう。
フロイド先輩はそのギザギザした鋭い歯をわざわざ見せるように、にんまりと笑う。
「今からヤり殺すだけだよ」
「えぇ……困る……」
「思ったより普通の反応だねぇ」
「それはまあ、お気付きだと思っているので」
「言葉にされないと不安なんだけどぉ」
「こういうの、口に出すの恥ずかしいのでやめませんか?」
「恥ずかしいくらい経験あるってこと?」
「あの、フロイド先輩。ホント、わたしで遊ぶのやめてくださいよ……」
「あは。やーだ」
「はあ、可愛く言われましても……」
「小エビちゃんにはこれが可愛く見えてるんだねぇ」
そりゃ、アズールとジェイドに「趣味悪い」って言われるわけだ。
「え、わたしはめちゃくちゃ趣味いいつもりですけど?」
「ふふ、そのままで居てね? 小エビちゃん」
フロイド先輩は相変わらずよく分からない上に、発言がちょっと怖い。なんなら語尾にハートマークもついている気がする。中身は真っ黒の。……全力で気のせいと言うことにしよう。そうしよう。
この学園ではある程度のスルースキルを求められる。それを今こそ発揮しろわたし。
そんなフロイド先輩でもいいと思ったのはわたしなのだから。スルーしていけ、わたし。
きっと気付かない方が幸せなこともこの世にはたくさんあるのだろう。
「フロイド先輩がそう望むなら、わたしはこのままのわたしで居ますよ」
――あなたがわたしという存在に飽きる、その日まで。
なんて、言わないけれども。
怯えているのはどちらだという話だ。
いつか来る別れに怯えているのは、わたしの方だと言うのに。
睫毛をゆっくりと伏せて、瞑る。
この瞼の中にあなたという存在を閉じ込めてしまえたならと。そんなことを考えてしまうくらいにはわたしはあなたと離れる未来に怯えているというのに。
(まったく、困った人だなぁ)
そう思いながら、またひと欠片タルトをパクリと口に放る。
ふんわりと甘酸っぱい苺の香りが口の中に広がっていくのを感じた。
***
小エビちゃんは何も分かっていない。
目の前でパクリパクリと苺のタルトを口に入れては幸せそうに微笑む小エビちゃん。
オレのことが大好きな小エビちゃん。
まあ、オレの方が小エビちゃんのこと好きだけどね。
その話はとりあえず置いておいて。
(ほんっと、分かってんのかなぁ……)
人魚は愛情深い。それこそひと昔前には想い人の為だけに自慢の声を対価に会いに行った人魚も居るくらいだ。
人間に焦がれ、人間を愛するのは人魚のサガか。
まあ、なんでもいい。
(オレはひとりで泡になるくらいなら、小エビちゃんを道連れにするくらいには想ってるっているのにねぇ?)
彼女は分かっていないのだ。人魚に愛されるということを。人魚の愛情深さを。その――貪欲さを。
「小エビちゃん」
「なんですか? フロイド先輩」
ああ、その声をオレ以外に聞かせないでと乞い願ったならば。
(小エビちゃんはどうするのかな?)
恐れる? 怯える? オレの前から去ろうとする?
(ぜんぶぜんぶ、許すつもりはないけどねぇ)
番になった以上、小エビちゃんは死ぬまでオレのモノなんだからさ。
にんまりと口角を上げたことに、タルトに夢中な小エビちゃんはきっと気付いてはいないのだろう。
まったく、人の気も知らないで。
「今度はオレがケーキ作ったげる」
「え、いいんですか?」
「うん。だからぁ、ちゃんと食べてね?」
「そんなの当たり前じゃないですか」
きょとんとした小エビちゃんが可愛くて、いっそ憎らしいほどにいとおしくて。
まったくもって、恋というものは恐ろしいものだ。