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 いつかの夜に願ったの。
 あなたがどうか、幸せでありあすように、と。
 ねぇ? レオナさん。
 あなたは――幸せでしたか?

「貴女をこの部屋に手引きした人が居るのは分かっています。ですがどうかその剣を納めて。私たち家族の幸せを邪魔しないでくださいな」

 優しく言ったつもりであった。けれども目の前に居る赤髪の獣人族の女性には何も伝わらなかったらしい。

「あたくしが、あたくしこそが……レオナ様に相応しいんですのよ……!」
「……やめ、っ!」

 赤髪の女性はそう叫ぶと、剣を胸の前に持ちそうして突進するかのように走って来た。
 咄嗟に腹を庇うものの、時は無情というものか。間に合わなかった。この子を守りたかったのに。あの人を幸せにしたかったのに。

 胸を刺されたあと、腹を刺された。

 どうか、どうか、お願い。神様が居るのだとしたら、どうか。――この子を助けて。私はどうなっても構いません。だからどうか……。
 願って。刺されて。そうして居たらどんどんと視界が暗く狭まっていくのを感じた。
 視界が完全に黒に染まる前に見えたのは、赤黒く染まった我が子を抱き締める見知らぬ女の姿。

(レオナさん……ごめんなさい。あなたに一番に抱かせてあげたかったのに、ごめんなさい……)
 守れなくて、ごめんなさい。

 視界は黒く染まり、私の生はその日その時に終わりを告げた。
 もっとレオナさんに愛していると伝えたかった。
 我が子を抱いたレオナさんを見てみたかった。
 けれどもそれらは叶わないらしい。
 哀しい。悔しい。苦しい。
 貴方に、二度と会えなくなるのが、悲しくて。哀しくて。
 それでもね? レオナさん。
 どうかあなたには幸せになって欲しいの。
 ずっと、いつかの夜に願ったあの日から、もうずっと、そう願っているの。

 私はあなたが、――大好きだから。

 どうか、これからのあなたの人生に幸多からんことを。
 その隣に、私が居なくても。
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