twst夢小説

湖面に波紋も立てず、けれどもしかと小石は投げ込まれたのであった。

「ユウくん」
「あ、ラギー先輩……」

控え目に言っても落ち込んでいる様子の彼女を見付けて思わず声を掛けた。
彼女、このナイトレイブンカレッジで監督生という異色の名前を得ている子は、昨日「帰る手立てが見つかった!」喜んでいたばかりだというのに。

「どうしたんスか?帰れるってあんなに喜んでたのにそんな暗い顔して」
「……な、っです」
「うん?なんスか?」
「帰れなく、なったんです……」
「……何かあったんスか?」

彼女はとつとつと話してくれた。

「帰れる筈の鏡が、壊されたって……、ようやく帰れると思ったのに……」
「ユウくん……」

この世界で監督生がただ生きるのは難しいだろう。
一年、頑張って生きて来た彼女はきっと絶望に追い込まれただろう。

「ユウくん、卒業したら良ければオレのところに来ないッスか?あんまり裕福じゃないかもだけど、アンタ一くらい養えるッスよ」
「それじゃ、ラギー先輩のご迷惑じゃ……」
「いいんスよ。オレはユウくんのこと、好きだから」
「は?え?幻聴?」
「いや、本心」
「自分じゃ、ラギー先輩には釣り合わないと思うんですけど」
「じゃあ、誰なら釣り合うの?」

グッと堪えるような顔をする監督生に、オレは静かに笑った。

「帰れないのは、きっと、アンタにとったらとても辛いことッスよね。でも、オレとしては棚ぼたなんスわ」

凡庸な見た目で誰をも魅了するアンタのこと、手に入れられる日を、ずっと待ってた。

「幸せになれ、とは言わないけど。でも幸せにする」
「……今は、まだ、ちょっと混乱してて、なんと答えていいやらなんですが」

でも、そうですね。と疲れた顔に監督生は言う。

「ラギー先輩のお言葉に、甘えたい自分が居るのも確かです」
「素直に甘えて良いんスよ。オレは大歓迎だから」
「……ありがとうございます。ラギー先輩」

静かに涙を流す監督生に近付いて、その涙を拭って、ソッと包み込むように抱き締めた。監督生はオレの胸に顏を埋めて泣いていた。
そんな彼女を見つめるオレの顔は、さぞ悪人面なのだろう。
彼女の帰る道を潰したのはオレなんだから。
その身、その心はさぞ困惑し、絶望に落ちたことだろう。
でも仕方ないッスよね。

(オレはハイエナ、獲物が弱るのを待つのがサガなんスから)

ハイエナに目を付けられたことを、いつか後悔するかも知れない。
でも、その時はその時。彼女は既にオレの腹の中なんだから。
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