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さよならを告げる声はあまりに震えていて、きっと本当は別れたくなんてないのだと内心苦笑した。
目の前に居るそのヒトは「ふぅん?」と首を傾げながらターコイズブルーの髪を弄っている。そのヒトを表す左右違う色を持つその瞳は柔らかく弧を描き、私の姿をその瞳の中に閉じ込める。
「それは小エビちゃんの意思なの?」
「そ、れは……」
ドキリと心臓の音が大きくなる。元々激しい爆音を打ち鳴らしていた心臓だ。この程度で臆するな、と唇を噛んだ。
――それがいけなかったのだろう。
「小エビちゃん。もう一回聞くねぇ?」
さよならってナニ?
「それって小エビちゃんはつまり、……オレと別れたいってこと?」
「そ、そうです……」
「ふぅん?」
そこでそのヒト、フロイド先輩は私をその瞳の中に映したままに口角を上げる。
「それってどうして?」
「ど、どうして、って……」
「んー、つまり。小エビちゃんはただオレと別れたいの? それともオレが嫌になってオレ以外と付き合いたいから別れたいの?」
その言葉にギュッと手のひらを握る。
さよならとは言ったが、私は決してフロイド先輩と別れたいわけではない。なんならもっともっとフロイド先輩のことを知っていきたい。知って、どんどん好きになっていきたい。嫌いなところも、少し苦手だなってところもひっくるめてフロイド・リーチを愛し続けたい。
そう思っているくらいには、私はフロイド先輩が好きだ。大好きだ。
大好きだからこそ、このまま付き合っていてはダメなのだ。
黙ってしまった私を見て、フロイド先輩は呆れるようにはあ、と溜め息を吐く。それには少しだけ面倒だとでも言うかのような色を含められている溜め息でもあった。
「もういいや。小エビちゃん」
その言葉にびくりと身体が震える。
聞きたくなかった。そんな言葉。自分で言っておきながら、フロイド先輩の口から聞きたくはなかった。
フロイド先輩は形良い唇をゆっくりと開ける。きっと放たれる言葉は私にとっての死刑宣告と同じ言葉。
聞きたくない。聞きたくないけれども、すべては私が招いたことで。
バクバクという心臓の音と、背中に伝う嫌な汗。
気紛れで付き合えた時でさえ感じなかった心臓の高鳴り方だ。
あの時はただ、幸せでいっぱいだったから。
本当にこの心というには我儘だなぁ。
「あのさぁ、」
フロイド先輩は私に一歩近付く。ここで逃げてしまえば追ってくるだろうと思う、後退りたい気持ちを必死に押し留めた。
一歩、また一歩と先輩は近付いてくる。
きっと、こうやって先輩は私のことを追い詰めて楽しんでいるのだ。
そうでなければ、その口角は上がらないでしょう?
「小エビちゃんさぁ」
ぴたりと私の目の前で止まる。その長い体躯を折り曲げ、私の耳元に形良い唇を寄せると、静かに、けれどもハッキリと告げた。
「オレのこと、嫌いになった?」
「……え、」
バッと先輩を見れば、そこにはにんまりとした口角はそのままに、左右色の違う瞳は不安の色を少しだけ浮かべていた。
先輩は、このヒトはどうして「さよなら」なんて唐突に言ったのか、ずっと不安に思っていたのだろうか? フロイド先輩の中に、私への恋情なんて一欠けらもないというのに。
とはいえそれも当然か、とすぐに切り替える。
普段好き好き言いまくっている人間が、唐突に、しかも突拍子もなく、さよならなんて言葉を放ったのだから。
先輩もきっと怪しむことだろう。きっと挙動も可笑しかっただろうし。いやまあ、いつも挙動は可笑しいんだけどさ。
先輩のことが好きで好きでたまらないと、ずっと言動で表し続けていた私が、突然その先輩に向かって「さよなら」なんて言ったのだから。
そりゃあいくら気紛れで付き合ってくれているとはいえ、そんな先輩でも変だと訝しむことだろう。
(そんな些細なことに気が付いてくれる先輩、やっぱり好きだ……!)
内心そう叫んでいれば、先輩は私の言葉を待ってくれている。
というかこれはアレだ。こんなことになった原因を話すまで絶対に逃がさないぞの構えだ。私には分かる。
何せ私はフロイド先輩検定一級を持っているからね。……まあ、実際にそんな検定はないけど。要は気持ちの持ちようだ。だって私はフロイド先輩のことが心の底から大好きだからね。
そう思っても、何を言っても、結局のところフロイド先輩には何も言えないのだが。
この口を開いてしまえばきっと私は先輩を好きだ好きだとまた言ってしまう。先輩はきっとそれを鬱陶しがる。知っているからこそ、何も言えないのだ。
「なんも言わねぇの?」
ギュッと唇を噛みながら、少しだけフロイド先輩を見上げるような形を取る。
そこには不貞腐れた表情を浮かべるフロイド先輩が居る。私が好きになった先輩が、そこに居る。
――覚悟は決めた。フロイド先輩に嫌われる、その覚悟を。
「フロイド先輩、私……っ」
勇気を振り絞って先輩を見上げた瞬間、フロイド先輩とバッチリと視線が交差した。
今まであまりしっかりと合わせないようにしていた視線が交差したその瞬間、この身が、魂が震えたのが分かった。
このヒトを心の底から求めているのだと、そう理解した。
「小エビちゃん?」
フリーズした私を見て、フロイド先輩は不思議そうに私を見る。
私は固まったまま、フロイド先輩を見る。
整った綺麗な顔はまるで神様に完璧に設計せれた彫刻のよう。海に愛されたターコイズブルーの髪も、きらきらとした瞳も。きっと何もかもが神様に愛されている人なのだろう。それら何もかもが愛おしく感じるのは当然の摂理だ。
心臓の音がバクバクと早鐘を打つ。どんどんと早くなっていくその音は鼓膜すらも破りそうなほどに今は大きい。まるで身体中が楽器にでもなったかのようだ。
先輩、フロイド先輩。こんなにも好きなのに、大好きなのに。
(……どうして私はこのヒトに触れられないのかな?)
私がフロイド先輩に別れを切り出した理由はふたつ。
――フロイド・リーチに触れた瞬間、痛みを伴うから。
もっとも、私だけが痛みを伴うのならば別に良かった。
そんなもの我慢すればいいだけだ。言わなければバレないし。きっと、そこまで先輩も私に興味はないだろう。
でもどうやらこれはそういう類ではないらしく、フロイド先輩までもが痛みを伴ってしまうようだ。
気紛れの恋人関係だからこそ、触れ合うことは少ない。けれども気紛れのように触れられることがある。それは髪であったり、頬であったり、手であったり。様々だけれども。
折角少しずつフロイド先輩が私に触れてくれるようになったというのに。
(それもこれも、あの占い師のせいだ)
フロイド先輩に我儘を言い、無理やり引っ張り出してデートをしていた。
そんな時、不意に占い師の格好をした如何にも怪しいですという雰囲気を纏ったその人に声を掛けられた。
その人は突然声を掛けてきたと思えば、深く被ったフードの中から静かにその言葉を放つ。
曰く、『あなた達には試練が待ち受けている』と。『その試練には痛みが伴うだろう』とも付け加えられた。
その占い師の言葉にフロイド先輩は嫌そうに顔を歪めて私の手を引いた。
その時は感じなかった。フロイド先輩に繋がれた手のあたたかさはなんの痛みも伴わなかった。むしろ嬉しさと喜びすら感じていたくらいだ。
けれどもデートを終え、いざ寮に帰ろうとしたその瞬間。この時を待ち望んでいたかのようにそれは訪れた。
あの後、離されてしまった手のひらを我儘を言って再び繋いだ。
その瞬間、バチリ、という感電したような軽い痛みが互いの間に走ったのは。
フロイド先輩は「静電気?」と首を傾げていたけれども、私はどうしてだか昼間に出会った占い師の姿が脳裏に浮かんだ。
あの占い師は深くフードを被っていたから、男か女かも分からない。それに加えて幼かったような気もするし、年老いた老婆のようだとも感じた。まるで何も思い出せない。あの時に出会った姿すらも朧気だ。
どうして触れ合えば痛みが走るのかは分からない。
でも、これで良かったのかも知れないとも思った。
本当はさよならなんて言いたくなかった。
だって一瞬たりともそんな時が訪れて欲しいだなんて思ったことがなかったから。
例え一週間後に元の世界に帰る身だとしても、フロイド先輩にまた出会える手段を探す決意をするくらいには、フロイド先輩を想っている。……つもりだ。
それなのに触れ合うことでフロイド先輩に痛みを与えてしまう。そんなの私が許せないし、そんなことが続けばきっとフロイド先輩は嫌になって私から離れて行ってしまうのだろう。
そういうものなのだ。私とフロイド先輩の付き合いというのは。
その程度の仲であり、私がわざわざ絡まなければ決して交わることのない縁なのだ。
どうしてフロイド先輩がこんなにも別れに嫌がっているのかは分からない。
きっと、逃げようとしている餌を追う習性のようなものなのだろう。
私のせいで自由に泳げないのなら、今こそ離さなくては。
このヒトには広い海の方が似合うから。
気紛れとはいえ、私ひとりだけが手に入れていいヒトではなかったのだ。
「フロイド先輩」
今度はすんなりと言えたその名前。きっとこれも呼び納めになるのだろう。
「……なぁに?」
少しの間のあと、フロイド先輩は視線を合わせて私の言葉を待つ。
その瞳を、姿を、忘れないようにしよう。
私という存在がこの世界から消えてしまっても。どうか先輩は幸せになって欲しいから。
「あなたのことが大好きです」
――だから、別れましょう。
きっと、それが最善の方法で。お互いが傷付かない為には何よりも必要な行動なのだろうから。
だから、別れましょう。
そう言ったのに、どうしてフロイド先輩は傷付いたような顔をするのだろうか?
私は何かを間違えてしまったのだろうか。
もう触れ合うことすら出来ないから、今にも泣き出してしまいそうなフロイド先輩を慰めることすら出来ないのに。
私からのさよならなんて。
先輩にとったら他愛無い言葉でしょう?
だからどうか、悲しそうな顔をしないでください。
勘違いしてしまいそうになる。
フロイド先輩は私のことを好きな気持ちはないのに。
あるのだろうかと、勘違いしてしまいたくなるから。
だからさよならにしましょう? フロイド先輩。
目の前に居るそのヒトは「ふぅん?」と首を傾げながらターコイズブルーの髪を弄っている。そのヒトを表す左右違う色を持つその瞳は柔らかく弧を描き、私の姿をその瞳の中に閉じ込める。
「それは小エビちゃんの意思なの?」
「そ、れは……」
ドキリと心臓の音が大きくなる。元々激しい爆音を打ち鳴らしていた心臓だ。この程度で臆するな、と唇を噛んだ。
――それがいけなかったのだろう。
「小エビちゃん。もう一回聞くねぇ?」
さよならってナニ?
「それって小エビちゃんはつまり、……オレと別れたいってこと?」
「そ、そうです……」
「ふぅん?」
そこでそのヒト、フロイド先輩は私をその瞳の中に映したままに口角を上げる。
「それってどうして?」
「ど、どうして、って……」
「んー、つまり。小エビちゃんはただオレと別れたいの? それともオレが嫌になってオレ以外と付き合いたいから別れたいの?」
その言葉にギュッと手のひらを握る。
さよならとは言ったが、私は決してフロイド先輩と別れたいわけではない。なんならもっともっとフロイド先輩のことを知っていきたい。知って、どんどん好きになっていきたい。嫌いなところも、少し苦手だなってところもひっくるめてフロイド・リーチを愛し続けたい。
そう思っているくらいには、私はフロイド先輩が好きだ。大好きだ。
大好きだからこそ、このまま付き合っていてはダメなのだ。
黙ってしまった私を見て、フロイド先輩は呆れるようにはあ、と溜め息を吐く。それには少しだけ面倒だとでも言うかのような色を含められている溜め息でもあった。
「もういいや。小エビちゃん」
その言葉にびくりと身体が震える。
聞きたくなかった。そんな言葉。自分で言っておきながら、フロイド先輩の口から聞きたくはなかった。
フロイド先輩は形良い唇をゆっくりと開ける。きっと放たれる言葉は私にとっての死刑宣告と同じ言葉。
聞きたくない。聞きたくないけれども、すべては私が招いたことで。
バクバクという心臓の音と、背中に伝う嫌な汗。
気紛れで付き合えた時でさえ感じなかった心臓の高鳴り方だ。
あの時はただ、幸せでいっぱいだったから。
本当にこの心というには我儘だなぁ。
「あのさぁ、」
フロイド先輩は私に一歩近付く。ここで逃げてしまえば追ってくるだろうと思う、後退りたい気持ちを必死に押し留めた。
一歩、また一歩と先輩は近付いてくる。
きっと、こうやって先輩は私のことを追い詰めて楽しんでいるのだ。
そうでなければ、その口角は上がらないでしょう?
「小エビちゃんさぁ」
ぴたりと私の目の前で止まる。その長い体躯を折り曲げ、私の耳元に形良い唇を寄せると、静かに、けれどもハッキリと告げた。
「オレのこと、嫌いになった?」
「……え、」
バッと先輩を見れば、そこにはにんまりとした口角はそのままに、左右色の違う瞳は不安の色を少しだけ浮かべていた。
先輩は、このヒトはどうして「さよなら」なんて唐突に言ったのか、ずっと不安に思っていたのだろうか? フロイド先輩の中に、私への恋情なんて一欠けらもないというのに。
とはいえそれも当然か、とすぐに切り替える。
普段好き好き言いまくっている人間が、唐突に、しかも突拍子もなく、さよならなんて言葉を放ったのだから。
先輩もきっと怪しむことだろう。きっと挙動も可笑しかっただろうし。いやまあ、いつも挙動は可笑しいんだけどさ。
先輩のことが好きで好きでたまらないと、ずっと言動で表し続けていた私が、突然その先輩に向かって「さよなら」なんて言ったのだから。
そりゃあいくら気紛れで付き合ってくれているとはいえ、そんな先輩でも変だと訝しむことだろう。
(そんな些細なことに気が付いてくれる先輩、やっぱり好きだ……!)
内心そう叫んでいれば、先輩は私の言葉を待ってくれている。
というかこれはアレだ。こんなことになった原因を話すまで絶対に逃がさないぞの構えだ。私には分かる。
何せ私はフロイド先輩検定一級を持っているからね。……まあ、実際にそんな検定はないけど。要は気持ちの持ちようだ。だって私はフロイド先輩のことが心の底から大好きだからね。
そう思っても、何を言っても、結局のところフロイド先輩には何も言えないのだが。
この口を開いてしまえばきっと私は先輩を好きだ好きだとまた言ってしまう。先輩はきっとそれを鬱陶しがる。知っているからこそ、何も言えないのだ。
「なんも言わねぇの?」
ギュッと唇を噛みながら、少しだけフロイド先輩を見上げるような形を取る。
そこには不貞腐れた表情を浮かべるフロイド先輩が居る。私が好きになった先輩が、そこに居る。
――覚悟は決めた。フロイド先輩に嫌われる、その覚悟を。
「フロイド先輩、私……っ」
勇気を振り絞って先輩を見上げた瞬間、フロイド先輩とバッチリと視線が交差した。
今まであまりしっかりと合わせないようにしていた視線が交差したその瞬間、この身が、魂が震えたのが分かった。
このヒトを心の底から求めているのだと、そう理解した。
「小エビちゃん?」
フリーズした私を見て、フロイド先輩は不思議そうに私を見る。
私は固まったまま、フロイド先輩を見る。
整った綺麗な顔はまるで神様に完璧に設計せれた彫刻のよう。海に愛されたターコイズブルーの髪も、きらきらとした瞳も。きっと何もかもが神様に愛されている人なのだろう。それら何もかもが愛おしく感じるのは当然の摂理だ。
心臓の音がバクバクと早鐘を打つ。どんどんと早くなっていくその音は鼓膜すらも破りそうなほどに今は大きい。まるで身体中が楽器にでもなったかのようだ。
先輩、フロイド先輩。こんなにも好きなのに、大好きなのに。
(……どうして私はこのヒトに触れられないのかな?)
私がフロイド先輩に別れを切り出した理由はふたつ。
――フロイド・リーチに触れた瞬間、痛みを伴うから。
もっとも、私だけが痛みを伴うのならば別に良かった。
そんなもの我慢すればいいだけだ。言わなければバレないし。きっと、そこまで先輩も私に興味はないだろう。
でもどうやらこれはそういう類ではないらしく、フロイド先輩までもが痛みを伴ってしまうようだ。
気紛れの恋人関係だからこそ、触れ合うことは少ない。けれども気紛れのように触れられることがある。それは髪であったり、頬であったり、手であったり。様々だけれども。
折角少しずつフロイド先輩が私に触れてくれるようになったというのに。
(それもこれも、あの占い師のせいだ)
フロイド先輩に我儘を言い、無理やり引っ張り出してデートをしていた。
そんな時、不意に占い師の格好をした如何にも怪しいですという雰囲気を纏ったその人に声を掛けられた。
その人は突然声を掛けてきたと思えば、深く被ったフードの中から静かにその言葉を放つ。
曰く、『あなた達には試練が待ち受けている』と。『その試練には痛みが伴うだろう』とも付け加えられた。
その占い師の言葉にフロイド先輩は嫌そうに顔を歪めて私の手を引いた。
その時は感じなかった。フロイド先輩に繋がれた手のあたたかさはなんの痛みも伴わなかった。むしろ嬉しさと喜びすら感じていたくらいだ。
けれどもデートを終え、いざ寮に帰ろうとしたその瞬間。この時を待ち望んでいたかのようにそれは訪れた。
あの後、離されてしまった手のひらを我儘を言って再び繋いだ。
その瞬間、バチリ、という感電したような軽い痛みが互いの間に走ったのは。
フロイド先輩は「静電気?」と首を傾げていたけれども、私はどうしてだか昼間に出会った占い師の姿が脳裏に浮かんだ。
あの占い師は深くフードを被っていたから、男か女かも分からない。それに加えて幼かったような気もするし、年老いた老婆のようだとも感じた。まるで何も思い出せない。あの時に出会った姿すらも朧気だ。
どうして触れ合えば痛みが走るのかは分からない。
でも、これで良かったのかも知れないとも思った。
本当はさよならなんて言いたくなかった。
だって一瞬たりともそんな時が訪れて欲しいだなんて思ったことがなかったから。
例え一週間後に元の世界に帰る身だとしても、フロイド先輩にまた出会える手段を探す決意をするくらいには、フロイド先輩を想っている。……つもりだ。
それなのに触れ合うことでフロイド先輩に痛みを与えてしまう。そんなの私が許せないし、そんなことが続けばきっとフロイド先輩は嫌になって私から離れて行ってしまうのだろう。
そういうものなのだ。私とフロイド先輩の付き合いというのは。
その程度の仲であり、私がわざわざ絡まなければ決して交わることのない縁なのだ。
どうしてフロイド先輩がこんなにも別れに嫌がっているのかは分からない。
きっと、逃げようとしている餌を追う習性のようなものなのだろう。
私のせいで自由に泳げないのなら、今こそ離さなくては。
このヒトには広い海の方が似合うから。
気紛れとはいえ、私ひとりだけが手に入れていいヒトではなかったのだ。
「フロイド先輩」
今度はすんなりと言えたその名前。きっとこれも呼び納めになるのだろう。
「……なぁに?」
少しの間のあと、フロイド先輩は視線を合わせて私の言葉を待つ。
その瞳を、姿を、忘れないようにしよう。
私という存在がこの世界から消えてしまっても。どうか先輩は幸せになって欲しいから。
「あなたのことが大好きです」
――だから、別れましょう。
きっと、それが最善の方法で。お互いが傷付かない為には何よりも必要な行動なのだろうから。
だから、別れましょう。
そう言ったのに、どうしてフロイド先輩は傷付いたような顔をするのだろうか?
私は何かを間違えてしまったのだろうか。
もう触れ合うことすら出来ないから、今にも泣き出してしまいそうなフロイド先輩を慰めることすら出来ないのに。
私からのさよならなんて。
先輩にとったら他愛無い言葉でしょう?
だからどうか、悲しそうな顔をしないでください。
勘違いしてしまいそうになる。
フロイド先輩は私のことを好きな気持ちはないのに。
あるのだろうかと、勘違いしてしまいたくなるから。
だからさよならにしましょう? フロイド先輩。
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