まほやく
最期の吐息は風となり、遠く離れたあなたの元へと届くでしょうか?
雪原のような銀色の髪。まるで海のような青い瞳。
それらは今も健在ですか?
恋しいです。あなたと過ごした日々の数々が。みんなと過ごせた日々が。
とても、恋しいです。
「賢者様。ああ、ようやくお逢い出来た……」
頬に温かな雫が落ちる。私はそっと目を開けた。
「あなたは……?」
「お忘れですか?私のことを」
「もう、歳だから目も見えなくて、あなたが誰なのか私には分からないんです。ごめんなさいね」
ポツリ、と何か聞きなれない言葉をその人は吐いた。
どこかで聞いたことがあるような?ないような?そんな言葉を。いや、アレは確か……魔法を使う時の呪文のような?
随分前に見えなくなった視界が唐突に明瞭になる。驚いてぱちくりと数度瞬きをすれば、その人はそこに居た。
「……あなた、は」
「お忘れですか?賢者様」
少しだけむくれたような、けれども何処か嬉しそうな顔。
あの日別れた時となんら変わりない、あの時の姿のままの彼。
「アーサー……」
「はい。賢者様」
「私はもう、」
「私にとっての賢者様は、あなただけです」
これは老い先短い私の都合の良い夢だろうか?
「さあ、賢者様。お手を」
「こんなしわくちゃな手を取ったって楽しくないでしょうに」
「いいえ、そんなことはありません。あなたの存在全てが、私には尊いものなのです」
「尊いって、口が上手くなりましたね。アーサーったら」
差し出された手に手を重ね、ようと思ったけれども私の体はやはり限界だったようだ。腕が上がらず、ベットからピクリとも動かない。
「アーサーは、どうしてこの世界に?」
誤魔化すために発した言葉は、けれどもアーサーには通じなかったようだ。
そっとベットにだらりと垂れた手を優しく握られた。
そうすると次第にうとうととしてくる。
ああ、せっかくアーサーとまた会えたのに。それともやっぱりこれは夢だったのだろうか?
「……眠いのですか?賢者様」
「はい、少し……」
「……眠ってしまって大丈夫ですよ。朝になったら私が起こしますから」
「朝まで、居てくれるんですか?」
夢と現の狭間で、そんな言葉を発していた。アーサーは優しく微笑んで、そうして言った。
「はい、私が寝ずの番を致しましょう」
「それは、安心ですね……」
眠気がいよいよ限界値だ。私は少しずつ闇の中へ落ちていく感覚を覚えた。
「──おやすみなさい、賢者様」
ぽたり、と。温かな何かが私の頬を掠めた。
それが最期。私という人間の終わり。夢の終わり。
最期の吐息は風となり、遠く離れたあなたの元へと届くでしょうか?
雪原のような銀色の髪。まるで海のような青い瞳。
それらは今も健在ですか?
恋しいです。あなたと過ごした日々の数々が。みんなと過ごせた日々が。
とても、恋しいです。
「賢者様。ああ、ようやくお逢い出来た……」
頬に温かな雫が落ちる。私はそっと目を開けた。
「あなたは……?」
「お忘れですか?私のことを」
「もう、歳だから目も見えなくて、あなたが誰なのか私には分からないんです。ごめんなさいね」
ポツリ、と何か聞きなれない言葉をその人は吐いた。
どこかで聞いたことがあるような?ないような?そんな言葉を。いや、アレは確か……魔法を使う時の呪文のような?
随分前に見えなくなった視界が唐突に明瞭になる。驚いてぱちくりと数度瞬きをすれば、その人はそこに居た。
「……あなた、は」
「お忘れですか?賢者様」
少しだけむくれたような、けれども何処か嬉しそうな顔。
あの日別れた時となんら変わりない、あの時の姿のままの彼。
「アーサー……」
「はい。賢者様」
「私はもう、」
「私にとっての賢者様は、あなただけです」
これは老い先短い私の都合の良い夢だろうか?
「さあ、賢者様。お手を」
「こんなしわくちゃな手を取ったって楽しくないでしょうに」
「いいえ、そんなことはありません。あなたの存在全てが、私には尊いものなのです」
「尊いって、口が上手くなりましたね。アーサーったら」
差し出された手に手を重ね、ようと思ったけれども私の体はやはり限界だったようだ。腕が上がらず、ベットからピクリとも動かない。
「アーサーは、どうしてこの世界に?」
誤魔化すために発した言葉は、けれどもアーサーには通じなかったようだ。
そっとベットにだらりと垂れた手を優しく握られた。
そうすると次第にうとうととしてくる。
ああ、せっかくアーサーとまた会えたのに。それともやっぱりこれは夢だったのだろうか?
「……眠いのですか?賢者様」
「はい、少し……」
「……眠ってしまって大丈夫ですよ。朝になったら私が起こしますから」
「朝まで、居てくれるんですか?」
夢と現の狭間で、そんな言葉を発していた。アーサーは優しく微笑んで、そうして言った。
「はい、私が寝ずの番を致しましょう」
「それは、安心ですね……」
眠気がいよいよ限界値だ。私は少しずつ闇の中へ落ちていく感覚を覚えた。
「──おやすみなさい、賢者様」
ぽたり、と。温かな何かが私の頬を掠めた。
それが最期。私という人間の終わり。夢の終わり。
最期の吐息は風となり、遠く離れたあなたの元へと届くでしょうか?