まほやく
「アーサー、忙しいのに呼びつけてすみません」
「いえ。そんな。どうかしましたか?賢者様」
柔らかな表情を向け、私の呼び出しに応じたアーサーは、そっと傍に寄りそうと、まるで生まれたての雛にでも触れるように私の手を取った。
恋仲になってから、幾日経つだろう?
日は浅いと言うのに、アーサーは触れたがりな気がする。
「賢者様?」
「アーサーは、どうして私を選んでくれたんですか?」
「え?」
ずっと気になっていたことを聞いた。
彼は中央の国の王子で、この国を導く者で、賢者の魔法使いとはいえど、私だけが独占していいような存在ではない。
「ねぇ、どうしてですか?」
我ながら面倒な質問をしているな、と思わないわけでもないけれども、ちゃんと聞いておかなければならない。
そうしないと、堪らなく不安になるのだ。
いつか私は彼を置いて逝ってしまう。アーサーはいつか他の女性を妻に添え、国王となるだろう。
だからこれは、そう。余談のような恋なのだ。
「何か、答えられないんですか?……私のこと、本当は好きでもなんでもないから」
「ちがっ!違います!そう言うわけでは……!」
「なら、どうして?」
どうして何も言ってくれないの?どうして私ばかり好きなのだろう。堪らなく彼に心を奪われている自分が遣る瀬無くなる。
「アーサー、私は……」
私は、こんな辛い想いをする為にあなたと恋人になったわけではない。
いつだって元通りになれるのだ。
役目を終えた私はどうなるのか分からないけれども、賢者としての役目を終えたら私とアーサーの繋がりは消える。
それくらいなら、いっそ。
自分から切ってしまおうか。一度繋がったこの繋がりを。自分の口で、行動で。
プツリと糸を切るように。簡単なことでしょう?
なのに出来ないのは……。
「どうして、アーサーが泣きそうな顔をするんですか?」
「賢者様が、私のことを信じてくださらないからです」
「信じるも、何も……」
いつかは離れる身で、どこまで信じろと言うのだ。
「賢者様。私はあなたが好きです。愛しています。あなたのことを想うと胸が張り裂けそうになるし、あなたが他の者を見ているだけでその視界を塞いでしまいたくなる」
どうか私に、あなたに対してそのような無体をさせないでください。
「もうずっと、嫉妬に狂っているなど知られたくはなかったのです」
「……うそ、」
「嘘なと吐いても、私にもあなたにもメリットはないでしょう」
「アーサーは、私のこと、……好きなんですか?」
「好きなどと。それ以上です。愛していなければ、それ相応の覚悟を持たなければ、あなたの隣に立つ資格がない」
例えばこれが私にとって都合の良い夢だとして、こんなにも真摯な眼差しで言われて、想いを告げられて、誰がこれ以上嘘だと言えるだろうか。
「私も、あなたの事が好きです。その、愛しています。ずっと、私はアーサーを想っています。……何があっても」
「賢者様……」
どこかで予防線を張ってしまう私は卑怯なのだろう。
けれども、アーサーはそれ以上は何も言わなかった。
何も言わない代わりに、触れた私の手のひらに手のひらを重ねて、指を絡めた。
「私も、何があっても賢者様を愛し続けます」
絡めた指をそのままに、アーサーは私の手を自身の顔に近づける。形良い唇はまるで羽が撫でるように私の薬指に触れた。
「賢者様。どうかこの場所は空けておいてくださいね」
「え、」
「今、私が予約しましたので」
「……まったく。どこでそんな言葉を覚えてくるんですか」
嘆願するように言うものだから、やれやれと呆れたようにして見せたけれども、アーサーのその言葉が嬉しくて。心躍る程に高鳴る心臓をなんとか抑えながら、平静を装うのに必死だった。
「ところで賢者様。何故私を呼んだのですか?」
「っう!それは……」
「何か私に隠し事ですか」
少しだけムッとしたような顔に、私は観念したように口にした。
「……アーサーと、少しだけでも傍に居たかったもので……」
「……」
無言になったアーサーに、やはり引かれたよなぁ。と忙しい彼の身を思いながら謝ろうと口を開けば。
「れ、……し、です」
「え?」
「……嬉しいです。賢者様も私と同じ思いを持ってくださっていたことが。本当に。胸が締め付けられるほどに、嬉しい」
「そ、そう、ですか……」
「はい!」
一先ず迷惑でなかったことだけは良かった。
「幾らでも呼び付けてください。すぐに飛んで参りますので」
「それは、ありがとうございます……」
「ふふ、賢者様」
「なんですか?アーサー」
「愛しています」
真っ直ぐに私を見つめ、真っ直ぐな瞳で言う彼の言葉に裏も表もないのだろう。
だから私も最大限の好意を示す為に答えた。
「私もです、アーサー」
「いえ。そんな。どうかしましたか?賢者様」
柔らかな表情を向け、私の呼び出しに応じたアーサーは、そっと傍に寄りそうと、まるで生まれたての雛にでも触れるように私の手を取った。
恋仲になってから、幾日経つだろう?
日は浅いと言うのに、アーサーは触れたがりな気がする。
「賢者様?」
「アーサーは、どうして私を選んでくれたんですか?」
「え?」
ずっと気になっていたことを聞いた。
彼は中央の国の王子で、この国を導く者で、賢者の魔法使いとはいえど、私だけが独占していいような存在ではない。
「ねぇ、どうしてですか?」
我ながら面倒な質問をしているな、と思わないわけでもないけれども、ちゃんと聞いておかなければならない。
そうしないと、堪らなく不安になるのだ。
いつか私は彼を置いて逝ってしまう。アーサーはいつか他の女性を妻に添え、国王となるだろう。
だからこれは、そう。余談のような恋なのだ。
「何か、答えられないんですか?……私のこと、本当は好きでもなんでもないから」
「ちがっ!違います!そう言うわけでは……!」
「なら、どうして?」
どうして何も言ってくれないの?どうして私ばかり好きなのだろう。堪らなく彼に心を奪われている自分が遣る瀬無くなる。
「アーサー、私は……」
私は、こんな辛い想いをする為にあなたと恋人になったわけではない。
いつだって元通りになれるのだ。
役目を終えた私はどうなるのか分からないけれども、賢者としての役目を終えたら私とアーサーの繋がりは消える。
それくらいなら、いっそ。
自分から切ってしまおうか。一度繋がったこの繋がりを。自分の口で、行動で。
プツリと糸を切るように。簡単なことでしょう?
なのに出来ないのは……。
「どうして、アーサーが泣きそうな顔をするんですか?」
「賢者様が、私のことを信じてくださらないからです」
「信じるも、何も……」
いつかは離れる身で、どこまで信じろと言うのだ。
「賢者様。私はあなたが好きです。愛しています。あなたのことを想うと胸が張り裂けそうになるし、あなたが他の者を見ているだけでその視界を塞いでしまいたくなる」
どうか私に、あなたに対してそのような無体をさせないでください。
「もうずっと、嫉妬に狂っているなど知られたくはなかったのです」
「……うそ、」
「嘘なと吐いても、私にもあなたにもメリットはないでしょう」
「アーサーは、私のこと、……好きなんですか?」
「好きなどと。それ以上です。愛していなければ、それ相応の覚悟を持たなければ、あなたの隣に立つ資格がない」
例えばこれが私にとって都合の良い夢だとして、こんなにも真摯な眼差しで言われて、想いを告げられて、誰がこれ以上嘘だと言えるだろうか。
「私も、あなたの事が好きです。その、愛しています。ずっと、私はアーサーを想っています。……何があっても」
「賢者様……」
どこかで予防線を張ってしまう私は卑怯なのだろう。
けれども、アーサーはそれ以上は何も言わなかった。
何も言わない代わりに、触れた私の手のひらに手のひらを重ねて、指を絡めた。
「私も、何があっても賢者様を愛し続けます」
絡めた指をそのままに、アーサーは私の手を自身の顔に近づける。形良い唇はまるで羽が撫でるように私の薬指に触れた。
「賢者様。どうかこの場所は空けておいてくださいね」
「え、」
「今、私が予約しましたので」
「……まったく。どこでそんな言葉を覚えてくるんですか」
嘆願するように言うものだから、やれやれと呆れたようにして見せたけれども、アーサーのその言葉が嬉しくて。心躍る程に高鳴る心臓をなんとか抑えながら、平静を装うのに必死だった。
「ところで賢者様。何故私を呼んだのですか?」
「っう!それは……」
「何か私に隠し事ですか」
少しだけムッとしたような顔に、私は観念したように口にした。
「……アーサーと、少しだけでも傍に居たかったもので……」
「……」
無言になったアーサーに、やはり引かれたよなぁ。と忙しい彼の身を思いながら謝ろうと口を開けば。
「れ、……し、です」
「え?」
「……嬉しいです。賢者様も私と同じ思いを持ってくださっていたことが。本当に。胸が締め付けられるほどに、嬉しい」
「そ、そう、ですか……」
「はい!」
一先ず迷惑でなかったことだけは良かった。
「幾らでも呼び付けてください。すぐに飛んで参りますので」
「それは、ありがとうございます……」
「ふふ、賢者様」
「なんですか?アーサー」
「愛しています」
真っ直ぐに私を見つめ、真っ直ぐな瞳で言う彼の言葉に裏も表もないのだろう。
だから私も最大限の好意を示す為に答えた。
「私もです、アーサー」