黒バス
黒子っちと喧嘩した。
切っ掛けは些細なものだった。
ただ普段会えない不安感や素っ気ない黒子っちの態度がどうにも目に付いて。
気付いたら、
『もういいっス』
そんな冷たい言葉を吐き捨てていた。
そうして頭に血が上っていた俺はそのまま黒子っちを置き去りにして家へと帰って来てしまったのだ。
――それが約一週間前の出来事。
そして今。
俺は壮絶に後悔している。
(黒子っちからの連絡が……ない)
絶望の全てを背負い込んだような顔をしながら枕に顔を埋める。
普段は命より大切にしろと事務所から重々言われているのだが、今は顔に傷が付こうが仕事が無くなろうが気にしない。というよりも気にする余裕なんて何処にもない。
(あああああ俺の馬鹿!なんで黒子っちにあんなこと言っちゃったんだろう!もう何日黒子っちの顔を見てない?てか声すら聞いてないしメールだってしてない…普段なら週に一度くらいはメールくれるのに。やっぱり怒ってるんスかね……)
明確な黒子っち不足と嫌われたかも知れないという思考に今にも死にそうだ。
グスンと黄瀬は鼻を鳴らす。
そりゃあ確かに俺も悪かったっスよ?
でも俺だけが悪いわけじゃなくて黒子っちだって……。
そこまで考えて「ぅー」と小さく唸る。
違う。悪いのは俺だ。
俺が勝手に嫉妬して不安になっただけで、黒子っちはむしろ俺の心配をしてくれていた。
なのにあんな言葉を吐き捨ててしまった。
(「もういい」なんて別れる前の恋人同士の常套句じゃないっスかぁ…)
そんなの嫌だ。本音の訳が無いし頼まれたって別れてやるもんかと今でさえ思っている。
ずっとずっと大好きで、漸く中学の頃からの片想いに終止符を打てて幸せの絶頂である筈なのに、何が悲しくて別れなければいけないと言うのだ。
だけど、だけどもしも。
黒子っちが本気で別れたいなんて言ったら俺はどうするのだろう?
喚くのか、泣くのか、怒るのか。
恐らく全部だろうなと思ってしまった自分の女々しさに「ははっ」と乾いた笑いを溢して、ゴロンと横になった。
うじうじと悩むくらいならサッサと会いに行けばきっと早いし、黄瀬の考え過ぎだと黒子ならば一刀してくれるのだろう。
けれど半端に時間を置いてしまったせいで、黄瀬は気軽に会いに行くだなんて出来なくなってしまっていた。……怖い、から。
もしも会いに行って、この前の喧嘩(にしては一方的だった気もするが)を無かったみたいにされてしまったら。きっとそれが黒子の優しさからだとしても、黄瀬は自分がそのせいで不安になる事が分かっていた。
『俺のことなんてどうだっていいんスか?』
黒子にそんな態度を取られたら思わずそんな言葉を言ってしまいそうだ。
それだけは避けたい。これ以上格好悪いところを見せてそのせいで嫌われでもしたら目も当てられない。
「……って、もう嫌われてるかもしんないんスけど」
ははっと笑って、キュッと心臓が締め付けられた。
自分で言っといてダメージ受けるとか馬鹿か俺は。
◇◆◇
「お疲れ様です黄瀬くん」
……ははっ。ついに俺、黒子っち不足で幻覚まで見えるようになったんスかね?
久し振りに黒子っちが見れたんだから幻覚でもなんでもいいや。
ああ黒子っち相変わらず可愛いなぁ。
「黄瀬くん、戻ってきて下さい。言っときますけど幻覚じゃないです。現実です」
「え!なんで俺の思った事が分かるんスか!?」
「なんでって。思いっきり声に出してましたけど」
黒子っちの言葉にマジかー……と恥ずかしさに頭を抱えたくなった。
……ん。てか現実?
「黒子っちがなんで海常に居るんスか!?」
「ああ帰って来ましたか。お久し振りです黄瀬くん。ここに来たのは君に会う為です」
「……へ?え、ええ!俺に会いにって、え?なんで……っ」
今まで俺が会いに行くのはあっても、黒子っちが会いに来たことは無かったのに……。
そんな黄瀬の疑問に答えるように黒子は口を開いた。
「君が会いに来ないから来たんです」
そう、なんてことないように口にする。
「君はいつも迷惑なほど会いに来るのにここ最近はメールすら来なくて。この前のことが原因なのかと僕なりに考えました」
「だから会いに来ました」
ピン、と背筋を伸ばして俺を真っ直ぐと見据える黒子っち。
俺は黒子っちの言葉に泣きそうになった。けれどもそれ以上に嬉しくて、にやけてしまいそうな顔を隠す為に口を掌で覆った。
あの黒子っちが。
俺に会いにわざわざ神奈川まで来てくれた。
部活終わりだろうこんな遅い時間に。それだけで今までの不安なんて吹っ飛んでしまいそうだ。
ねえ、黄瀬くん。
黒子っちが唇を動かす。
「君は何か勘違いをしているんじゃないですか?」
「?」
「不安なのは嫉妬するのは、自分だけだと」
「だってそれは」
本当のことでしょ?
そう言うと黒子っちは呆れた顔でじとりと睨んできた。
「僕だって不安になりますし嫉妬だってするんですよ?」
「そんな嘘言わなくてもいいっスよ」
「嘘じゃありません。というか僕は嘘や冗談の類が苦手です」
「でも、」
でも、だって。
今までそんな様子を欠片も見せてくれたことはないじゃないか。
イマイチ黒子の言葉を信用出来ずに居ると。黒子は、はあ、と溜め息を吐いて形の良い唇を開いた。
「――離れて居る間に周りに居る女の子に心動かすかも知れない。やっぱり女の子の方が良いって言い出すんじゃないか。君とバスケが出来る海常の皆さんに嫉妬する。いつ、別れようって言われるか。いつ、飽きられるか」
いつだって僕はそんな不安を抱えています。
黒子の言葉に黄瀬はそのトパーズのような瞳を見開いていく。
そんな黄瀬の様子には目もくれず、黒子はこの際だと言わんばかりに今まで口にしなかった言葉を紡いでいく。
「僕はあまり感情を表立って露にするのが得意ではないので、君を不安にさせていたと思いますし、必要なら謝ります。でも僕は諦めが悪いのでたとえ君に別れようと言われても素直に頷ける自信がありません」
「ちょ、!待って黒子っち!」
知らなかった色々な情報を頭に叩き込むように容れられて、あまり出来は宜しくない頭がパンク寸前だ。
前髪を掻き上げて、頭の中で情報の整理をする。
黒子っちは俺の周りに居る俺をモデルとしか見ないような女に不安になると言った。
俺が黒子っちより女の方が良いと言われることが怖いと言った。
俺とバスケが出来るセンパイ達に嫉妬すると言った。
それらは全て黒子っちの考え過ぎで、俺は黒子っち以外が見えていないくらい黒子っちに夢中だから他なんてあり得ない。
それに俺だって誠凛の人達や俺がなりたくて堪らなかった黒子っちの光になれた火神に嫉妬している。
そこまで考えて、ああ同じだと思い至った。俺と黒子っちは同じ様なことで不安になったり嫉妬したりしているんだ。
そのことに若干の運命的なことを感じないでもないけど、それ以前に。
俺と黒子っちが同じことで不安になっているのだとしたら。
それはつまり、
「……もしかして俺、黒子っちに超愛されてる?」
俺と黒子っちの想いが同じだと言うことじゃないのか?
突然の黒子のデレ大解放に混乱しながらもそう問いかければ、黒子は「何を当然の事を聞いてやがんだこの野郎は」と言うような胡乱気な目をしながらも頷いて、肯定の言葉をくれた。
「当たり前です。好きで付き合っているんですから」
――っああ、どうしようか本当に。
男前だとは常々思っていた恋人はやはり超一級の男前で。あまりの嬉しさやら黒子っち格好いいやら可愛いやらの感情がない交ぜになって。
思わず「抱いてっ」と叫びながら抱き着いてしまった。
もちろん黒子からは「何公道のど真ん中でんなこと言ってやがるんですか!!この駄犬!!」と怒られイグナイトをお見舞いされたけれど。
その後に腹を抱えた俺を心配そうな労ってくれたのも事実で。
幸せ過ぎで痛みなんてふっ飛んでしまった。
切っ掛けは些細なものだった。
ただ普段会えない不安感や素っ気ない黒子っちの態度がどうにも目に付いて。
気付いたら、
『もういいっス』
そんな冷たい言葉を吐き捨てていた。
そうして頭に血が上っていた俺はそのまま黒子っちを置き去りにして家へと帰って来てしまったのだ。
――それが約一週間前の出来事。
そして今。
俺は壮絶に後悔している。
(黒子っちからの連絡が……ない)
絶望の全てを背負い込んだような顔をしながら枕に顔を埋める。
普段は命より大切にしろと事務所から重々言われているのだが、今は顔に傷が付こうが仕事が無くなろうが気にしない。というよりも気にする余裕なんて何処にもない。
(あああああ俺の馬鹿!なんで黒子っちにあんなこと言っちゃったんだろう!もう何日黒子っちの顔を見てない?てか声すら聞いてないしメールだってしてない…普段なら週に一度くらいはメールくれるのに。やっぱり怒ってるんスかね……)
明確な黒子っち不足と嫌われたかも知れないという思考に今にも死にそうだ。
グスンと黄瀬は鼻を鳴らす。
そりゃあ確かに俺も悪かったっスよ?
でも俺だけが悪いわけじゃなくて黒子っちだって……。
そこまで考えて「ぅー」と小さく唸る。
違う。悪いのは俺だ。
俺が勝手に嫉妬して不安になっただけで、黒子っちはむしろ俺の心配をしてくれていた。
なのにあんな言葉を吐き捨ててしまった。
(「もういい」なんて別れる前の恋人同士の常套句じゃないっスかぁ…)
そんなの嫌だ。本音の訳が無いし頼まれたって別れてやるもんかと今でさえ思っている。
ずっとずっと大好きで、漸く中学の頃からの片想いに終止符を打てて幸せの絶頂である筈なのに、何が悲しくて別れなければいけないと言うのだ。
だけど、だけどもしも。
黒子っちが本気で別れたいなんて言ったら俺はどうするのだろう?
喚くのか、泣くのか、怒るのか。
恐らく全部だろうなと思ってしまった自分の女々しさに「ははっ」と乾いた笑いを溢して、ゴロンと横になった。
うじうじと悩むくらいならサッサと会いに行けばきっと早いし、黄瀬の考え過ぎだと黒子ならば一刀してくれるのだろう。
けれど半端に時間を置いてしまったせいで、黄瀬は気軽に会いに行くだなんて出来なくなってしまっていた。……怖い、から。
もしも会いに行って、この前の喧嘩(にしては一方的だった気もするが)を無かったみたいにされてしまったら。きっとそれが黒子の優しさからだとしても、黄瀬は自分がそのせいで不安になる事が分かっていた。
『俺のことなんてどうだっていいんスか?』
黒子にそんな態度を取られたら思わずそんな言葉を言ってしまいそうだ。
それだけは避けたい。これ以上格好悪いところを見せてそのせいで嫌われでもしたら目も当てられない。
「……って、もう嫌われてるかもしんないんスけど」
ははっと笑って、キュッと心臓が締め付けられた。
自分で言っといてダメージ受けるとか馬鹿か俺は。
◇◆◇
「お疲れ様です黄瀬くん」
……ははっ。ついに俺、黒子っち不足で幻覚まで見えるようになったんスかね?
久し振りに黒子っちが見れたんだから幻覚でもなんでもいいや。
ああ黒子っち相変わらず可愛いなぁ。
「黄瀬くん、戻ってきて下さい。言っときますけど幻覚じゃないです。現実です」
「え!なんで俺の思った事が分かるんスか!?」
「なんでって。思いっきり声に出してましたけど」
黒子っちの言葉にマジかー……と恥ずかしさに頭を抱えたくなった。
……ん。てか現実?
「黒子っちがなんで海常に居るんスか!?」
「ああ帰って来ましたか。お久し振りです黄瀬くん。ここに来たのは君に会う為です」
「……へ?え、ええ!俺に会いにって、え?なんで……っ」
今まで俺が会いに行くのはあっても、黒子っちが会いに来たことは無かったのに……。
そんな黄瀬の疑問に答えるように黒子は口を開いた。
「君が会いに来ないから来たんです」
そう、なんてことないように口にする。
「君はいつも迷惑なほど会いに来るのにここ最近はメールすら来なくて。この前のことが原因なのかと僕なりに考えました」
「だから会いに来ました」
ピン、と背筋を伸ばして俺を真っ直ぐと見据える黒子っち。
俺は黒子っちの言葉に泣きそうになった。けれどもそれ以上に嬉しくて、にやけてしまいそうな顔を隠す為に口を掌で覆った。
あの黒子っちが。
俺に会いにわざわざ神奈川まで来てくれた。
部活終わりだろうこんな遅い時間に。それだけで今までの不安なんて吹っ飛んでしまいそうだ。
ねえ、黄瀬くん。
黒子っちが唇を動かす。
「君は何か勘違いをしているんじゃないですか?」
「?」
「不安なのは嫉妬するのは、自分だけだと」
「だってそれは」
本当のことでしょ?
そう言うと黒子っちは呆れた顔でじとりと睨んできた。
「僕だって不安になりますし嫉妬だってするんですよ?」
「そんな嘘言わなくてもいいっスよ」
「嘘じゃありません。というか僕は嘘や冗談の類が苦手です」
「でも、」
でも、だって。
今までそんな様子を欠片も見せてくれたことはないじゃないか。
イマイチ黒子の言葉を信用出来ずに居ると。黒子は、はあ、と溜め息を吐いて形の良い唇を開いた。
「――離れて居る間に周りに居る女の子に心動かすかも知れない。やっぱり女の子の方が良いって言い出すんじゃないか。君とバスケが出来る海常の皆さんに嫉妬する。いつ、別れようって言われるか。いつ、飽きられるか」
いつだって僕はそんな不安を抱えています。
黒子の言葉に黄瀬はそのトパーズのような瞳を見開いていく。
そんな黄瀬の様子には目もくれず、黒子はこの際だと言わんばかりに今まで口にしなかった言葉を紡いでいく。
「僕はあまり感情を表立って露にするのが得意ではないので、君を不安にさせていたと思いますし、必要なら謝ります。でも僕は諦めが悪いのでたとえ君に別れようと言われても素直に頷ける自信がありません」
「ちょ、!待って黒子っち!」
知らなかった色々な情報を頭に叩き込むように容れられて、あまり出来は宜しくない頭がパンク寸前だ。
前髪を掻き上げて、頭の中で情報の整理をする。
黒子っちは俺の周りに居る俺をモデルとしか見ないような女に不安になると言った。
俺が黒子っちより女の方が良いと言われることが怖いと言った。
俺とバスケが出来るセンパイ達に嫉妬すると言った。
それらは全て黒子っちの考え過ぎで、俺は黒子っち以外が見えていないくらい黒子っちに夢中だから他なんてあり得ない。
それに俺だって誠凛の人達や俺がなりたくて堪らなかった黒子っちの光になれた火神に嫉妬している。
そこまで考えて、ああ同じだと思い至った。俺と黒子っちは同じ様なことで不安になったり嫉妬したりしているんだ。
そのことに若干の運命的なことを感じないでもないけど、それ以前に。
俺と黒子っちが同じことで不安になっているのだとしたら。
それはつまり、
「……もしかして俺、黒子っちに超愛されてる?」
俺と黒子っちの想いが同じだと言うことじゃないのか?
突然の黒子のデレ大解放に混乱しながらもそう問いかければ、黒子は「何を当然の事を聞いてやがんだこの野郎は」と言うような胡乱気な目をしながらも頷いて、肯定の言葉をくれた。
「当たり前です。好きで付き合っているんですから」
――っああ、どうしようか本当に。
男前だとは常々思っていた恋人はやはり超一級の男前で。あまりの嬉しさやら黒子っち格好いいやら可愛いやらの感情がない交ぜになって。
思わず「抱いてっ」と叫びながら抱き着いてしまった。
もちろん黒子からは「何公道のど真ん中でんなこと言ってやがるんですか!!この駄犬!!」と怒られイグナイトをお見舞いされたけれど。
その後に腹を抱えた俺を心配そうな労ってくれたのも事実で。
幸せ過ぎで痛みなんてふっ飛んでしまった。
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