黒バス
誰を思っているの?
誰の事を考えているの?
俺の事を思ってよ。
俺の事を考えてよ。
俺だけを見てよ。
俺はね、ずっとずっと見てるんスよ?
黒子っちだけが好きなんス。
どうして分かってくれないんスか?
どうして俺を好きになってくれないんスか?
こんなにも黒子っちが好きなのに。
こんなにも黒子っちを愛しているのに。
ねえ?どうして?
火神っちが居るから?それとも青峰っち?
黒子っちにとっては大事な光だもんね。
だけどさ。そんなの俺には関係ないんス。
俺は黒子っちが好きで、黒子っちだけが好きで。
「――ねえ、だから。俺の事を好きになってよ、黒子っち」
涙混じりの告白は、狂気染みていて。その眼はほの暗く光っている。
けれど不思議と怖いと感じなかったのは、その眼の奥に僕に対しての深すぎる愛情を見て取れたからか。
誰しも、自分に対して向けられる好意ならばそれがどんな種類でも悪意を向ける事は出来ないだろう。
それに彼は僕に対して何か暴力を行ったわけではない。
ただ『好き』だと告げているだけだ。
けれど、
「黄瀬くん、僕は黄瀬くんの気持ちにはお答えできません」
「……っなんで!男同士だからッスか!?」
「いえ、僕はそういったことには偏見はありません」
「じゃあっ」
偏見はない。
けれど、
「僕は君の事をそういう風に見た事がありません。なので、君の気持ちには軽々しく答える事は出来ません」
「そんなのっ!俺と付き合ってから好きになってくれればいいじゃないッスか!」
「それで好きにならなかったら?」
「……え?」
「君を好きにならなかったら、傷つくのは君じゃないんですか?」
「そ、んなの」
「好きになるまで付き合う?」
「……っ」
ピクリと黄瀬くんの肩が揺れたのを見て、そのつもりだった事が分かった。
むしろそう言われると思っていたからこそ、先に断ったのだ。
「それでも、僕が黄瀬くんを好きにならないかもしれない」
「……」
少しの沈黙の後。黄瀬くんは押し殺したような低い声で「じゃあ、」と言った。
「じゃあ、どうしたら俺の事、好きになってくれるんスか……?」
迷子の子供のように、どうしたらいいのか分からないと言わんばかりの顔で、今にも泣きそうに言う黄瀬くん。
それに胸がきゅうっと締め付けられるような感覚を覚えた。
「――君は、本当に諦めませんね?」
「諦めが悪い子が好きだから、俺も似たんスかね?」
「……それでも、君の気持ちには答えられませんよ」
傷ついた顔をする黄瀬くん。
僕は視線を外さないようにまっすぐと見つめて「でも、」と続けた。
「僕は君の事を何も知りません。だからこれから君を知っていこうと思います。だから、答えはそれまで待っていてくれませんか?」
黄瀬くんは僕の言葉を聞くと、顔に喜色を滲ませてブンブンと首を振る。
幻覚のように彼の頭とお尻の辺りに大型犬のもふもふが見えた気がしたが、多分気のせいだ。
「うんっ!うん!良いッス!これから俺の事を知っていってください」
「はい、黄瀬くん」
黄瀬くんの言葉にニコリと微笑むと、黄瀬くんは感極まったのか抱き付いてきた。
けれどいつものような、友人同士が戯れるような抱き締め方ではない。
壊れ物に触るような、とでも言えば良いのか。
そんな風に優しく、けれどしっかりと抱き締められた。
首筋に黄瀬くんの吐息を感じる。
バクバクと高鳴っているのはどちらの心音か。
「黒子っちに嫌われたらどうしようかと思ってたんスよ〜」
気の抜けた黄瀬くんの声にふふ。と笑う。
「僕が君を嫌うなんて、あり得ませんよ」
「でも好きになってもくれないんスよね?」
「はい、すみません」
「謝らないで欲しいッス!俺が頑張ればいいだけの問題ッスから」向かい合うように隙間を作られ、目を合わせるように少しだけ膝を屈める黄瀬くん。
僕の両手を祈るように持ちながら、見つめ合う。
その眼差しはどこまでも真摯で、先程と違い強い意志の宿った琥珀のような瞳は見つめ合っているだけで吸い込まれそうだ。
キラキラと迷いそのものを吹っ切ったような黄瀬くんの表情を眩しいものでも見るように目を細めて。
そうして思う。
(頑張って貰わないと困りますよ)
黄瀬くん。君は言いましたよね?
僕が誰を思って、誰を見て、誰が好きなのか。
そんな簡単な事も分からないんですか?
そんなお馬鹿な黄瀬くんも好きですけど。
僕にとって火神くんと青峰くんは確かに大事な光です。
けれどそれは、バスケに関してのこと。君と比べられるかと言われれば、僕は迷わず君を取る程に君を大切に思っているんです。
知らなかったでしょう?
まあ、僕も決して君に気付かせないように尽力していたのですが。
僕はね?君が僕なんかに興味すら抱いていなかったであろう時から。黄瀬くんの事が好きなんですから。
もちろん、性的な意味で。
けれど君と僕のファーストコンタクトがあまりにも悪かったのを、君が気にしているようだから。
僕は対して気にもしていないその事を、たまに話題に出す。
君を傷つける名目で。
君の中の僕に対しての恋心と、過去に行ってしまった罪悪感に苛まれながら、僕だけの事を思っている。
そんな時間は一秒でも長い方がいいに決まっているから。それが、僕が黄瀬くんの気持ちに答えなかった理由。
(黄瀬くんの気持ちと僕の気持ち。それが釣り合わなければ意味がない)
僕にもっともっと溺れて、僕が居なければ息も出来ないくらいに。
僕が居なければ、不安で狂ってしまうくらいに。
まるで比翼の鳥のように、互いが居なければ死んでしまうような。
そんな破滅しかない人生を二人で歩んでいく為に。
君にとっての幸せが僕に好かれる事だとしたならば、僕にとっての幸せは正しくそれ。
君は自分の事を歪んでいると思っているのかもしれません。
でも本当に歪んでいるというのは僕みたいな人間の事を言うんですよ。
ねえ、黄瀬くん。
僕の罠に嵌まったとも知らずにこれからゆっくり絡め取られていく哀れな黄瀬くん。今はただ僕に好かれる為に何をすべきかと頭を悩ませている。可愛い可愛い黄瀬くん。
ほの暗く微笑む。
それは先程黄瀬くんが見せた暗さよりもずっと濁って、澱んでいる。汚い色だと自覚はある。
けれど僕は笑った。
(ご愁傷様ですね。黄瀬くん)
僕みたいな人間に好かれてしまって。
でも、逃がしてあげる事なんて出来ませんから。
だから覚悟していて下さいね。
僕と一緒に、破滅に堕ちる覚悟を。
(僕は君を愛しています。心から、君にすべてを捧げても構わないと思う程に)
誰の事を考えているの?
俺の事を思ってよ。
俺の事を考えてよ。
俺だけを見てよ。
俺はね、ずっとずっと見てるんスよ?
黒子っちだけが好きなんス。
どうして分かってくれないんスか?
どうして俺を好きになってくれないんスか?
こんなにも黒子っちが好きなのに。
こんなにも黒子っちを愛しているのに。
ねえ?どうして?
火神っちが居るから?それとも青峰っち?
黒子っちにとっては大事な光だもんね。
だけどさ。そんなの俺には関係ないんス。
俺は黒子っちが好きで、黒子っちだけが好きで。
「――ねえ、だから。俺の事を好きになってよ、黒子っち」
涙混じりの告白は、狂気染みていて。その眼はほの暗く光っている。
けれど不思議と怖いと感じなかったのは、その眼の奥に僕に対しての深すぎる愛情を見て取れたからか。
誰しも、自分に対して向けられる好意ならばそれがどんな種類でも悪意を向ける事は出来ないだろう。
それに彼は僕に対して何か暴力を行ったわけではない。
ただ『好き』だと告げているだけだ。
けれど、
「黄瀬くん、僕は黄瀬くんの気持ちにはお答えできません」
「……っなんで!男同士だからッスか!?」
「いえ、僕はそういったことには偏見はありません」
「じゃあっ」
偏見はない。
けれど、
「僕は君の事をそういう風に見た事がありません。なので、君の気持ちには軽々しく答える事は出来ません」
「そんなのっ!俺と付き合ってから好きになってくれればいいじゃないッスか!」
「それで好きにならなかったら?」
「……え?」
「君を好きにならなかったら、傷つくのは君じゃないんですか?」
「そ、んなの」
「好きになるまで付き合う?」
「……っ」
ピクリと黄瀬くんの肩が揺れたのを見て、そのつもりだった事が分かった。
むしろそう言われると思っていたからこそ、先に断ったのだ。
「それでも、僕が黄瀬くんを好きにならないかもしれない」
「……」
少しの沈黙の後。黄瀬くんは押し殺したような低い声で「じゃあ、」と言った。
「じゃあ、どうしたら俺の事、好きになってくれるんスか……?」
迷子の子供のように、どうしたらいいのか分からないと言わんばかりの顔で、今にも泣きそうに言う黄瀬くん。
それに胸がきゅうっと締め付けられるような感覚を覚えた。
「――君は、本当に諦めませんね?」
「諦めが悪い子が好きだから、俺も似たんスかね?」
「……それでも、君の気持ちには答えられませんよ」
傷ついた顔をする黄瀬くん。
僕は視線を外さないようにまっすぐと見つめて「でも、」と続けた。
「僕は君の事を何も知りません。だからこれから君を知っていこうと思います。だから、答えはそれまで待っていてくれませんか?」
黄瀬くんは僕の言葉を聞くと、顔に喜色を滲ませてブンブンと首を振る。
幻覚のように彼の頭とお尻の辺りに大型犬のもふもふが見えた気がしたが、多分気のせいだ。
「うんっ!うん!良いッス!これから俺の事を知っていってください」
「はい、黄瀬くん」
黄瀬くんの言葉にニコリと微笑むと、黄瀬くんは感極まったのか抱き付いてきた。
けれどいつものような、友人同士が戯れるような抱き締め方ではない。
壊れ物に触るような、とでも言えば良いのか。
そんな風に優しく、けれどしっかりと抱き締められた。
首筋に黄瀬くんの吐息を感じる。
バクバクと高鳴っているのはどちらの心音か。
「黒子っちに嫌われたらどうしようかと思ってたんスよ〜」
気の抜けた黄瀬くんの声にふふ。と笑う。
「僕が君を嫌うなんて、あり得ませんよ」
「でも好きになってもくれないんスよね?」
「はい、すみません」
「謝らないで欲しいッス!俺が頑張ればいいだけの問題ッスから」向かい合うように隙間を作られ、目を合わせるように少しだけ膝を屈める黄瀬くん。
僕の両手を祈るように持ちながら、見つめ合う。
その眼差しはどこまでも真摯で、先程と違い強い意志の宿った琥珀のような瞳は見つめ合っているだけで吸い込まれそうだ。
キラキラと迷いそのものを吹っ切ったような黄瀬くんの表情を眩しいものでも見るように目を細めて。
そうして思う。
(頑張って貰わないと困りますよ)
黄瀬くん。君は言いましたよね?
僕が誰を思って、誰を見て、誰が好きなのか。
そんな簡単な事も分からないんですか?
そんなお馬鹿な黄瀬くんも好きですけど。
僕にとって火神くんと青峰くんは確かに大事な光です。
けれどそれは、バスケに関してのこと。君と比べられるかと言われれば、僕は迷わず君を取る程に君を大切に思っているんです。
知らなかったでしょう?
まあ、僕も決して君に気付かせないように尽力していたのですが。
僕はね?君が僕なんかに興味すら抱いていなかったであろう時から。黄瀬くんの事が好きなんですから。
もちろん、性的な意味で。
けれど君と僕のファーストコンタクトがあまりにも悪かったのを、君が気にしているようだから。
僕は対して気にもしていないその事を、たまに話題に出す。
君を傷つける名目で。
君の中の僕に対しての恋心と、過去に行ってしまった罪悪感に苛まれながら、僕だけの事を思っている。
そんな時間は一秒でも長い方がいいに決まっているから。それが、僕が黄瀬くんの気持ちに答えなかった理由。
(黄瀬くんの気持ちと僕の気持ち。それが釣り合わなければ意味がない)
僕にもっともっと溺れて、僕が居なければ息も出来ないくらいに。
僕が居なければ、不安で狂ってしまうくらいに。
まるで比翼の鳥のように、互いが居なければ死んでしまうような。
そんな破滅しかない人生を二人で歩んでいく為に。
君にとっての幸せが僕に好かれる事だとしたならば、僕にとっての幸せは正しくそれ。
君は自分の事を歪んでいると思っているのかもしれません。
でも本当に歪んでいるというのは僕みたいな人間の事を言うんですよ。
ねえ、黄瀬くん。
僕の罠に嵌まったとも知らずにこれからゆっくり絡め取られていく哀れな黄瀬くん。今はただ僕に好かれる為に何をすべきかと頭を悩ませている。可愛い可愛い黄瀬くん。
ほの暗く微笑む。
それは先程黄瀬くんが見せた暗さよりもずっと濁って、澱んでいる。汚い色だと自覚はある。
けれど僕は笑った。
(ご愁傷様ですね。黄瀬くん)
僕みたいな人間に好かれてしまって。
でも、逃がしてあげる事なんて出来ませんから。
だから覚悟していて下さいね。
僕と一緒に、破滅に堕ちる覚悟を。
(僕は君を愛しています。心から、君にすべてを捧げても構わないと思う程に)
4/14ページ