不幸体質と霊感少女
「神様仏様紅羽様! どうかオレを助けてくださいぃぃぃぃ!」
そう叫びながらオレは今現在、全力疾走していた。
何故って? 背後からうっかり忍び寄ってきたなんか良く分からないけれども真っ黒でデロデロしたナニかが人体の法則を無視して這いつくばりながらオレを追いかけてくるからだ。
「ナニこれ悪夢!? 夢なら早く覚めてくれぇぇぇ!」
喉の奥から血の味がするほどには叫んだかも知れない。
けれどもオレを助けてくれるモノは現れず。
ああ、さすがのオレももうすぐ死ぬのか……。なんて、全力疾走しながら世を儚んでいたらクスクスという笑い声が隣で響いた。ええ、もう。真隣と言っても過言ではない近さで。
「いやぁ、広也さんの憑かれ方、やばくないですか?」
「紅羽ちゃん! 笑ってないで! どうにかしてぇ!」
「そんな乙女でも聞きたくない言葉を聞かされるわたしの気持ちにもなってくださいよ」
はあ、と溜め息を吐きながらオレの隣を散歩するかのように走っているとはまったく思えない優雅さを醸し出すのは見た目は絶世の美女、紅羽ちゃん。中身は、おっとこれ以上言ったら助けて貰えない。
「あー、何か不穏なこと考えてますね?」
「何も! 考えてません! だから助けて紅羽ちゃん!」
「なっさけないですねぇ。普段はイケメンのくせに中身ヘタレとか数多の女の子に知られたら呆れられますよー?」
「いいもん! 紅羽ちゃんは呆れ果てて慣れてるだろうから!」
「はいはい」
そう言いながら紅羽ちゃんはブレザーのポケットから人型の依り代を取り出した。
そうしてソレを背後で全力疾走に今まさに追いついてオレを喰ってやろうとほくそ笑んだであろう良く分からない怪物にさながら野球の投手並みの剛速球で投げつけた。
『ギャァァァァァァァァァァァァ』
捻り潰されたかのような悲鳴が聞こえてきてオレは思わず耳を塞ぐ。
いや、実際に捻り潰されたモノとか視たことはあっても、見たことはないから分からないけれども。
アレ? これって見たことになるのかな? なんて現実逃避すのはいつものことだ。
ちらりと目を開けた先に居た紅羽ちゃんは優雅に佇んでいる。その口元には薄く笑みを浮かべていた。めっちゃ余裕である。さすが紅羽ちゃん。
「それで? 広也さんはあの神堕ちした邪神紛いのナニかと何処でエンカウントしたんですか?」
「え、っと……」
明後日の方向を向きながらオレは言い訳を考えている。
けれどもその声は渋く重厚感溢れる声に阻まれた。
『逢引きしておったおなごが『ああなった』のよ』
「ほうほう。大和様がそう仰られるならばそうなのですね」
「お、オレはただ単に授業の内容が分からないからって言われて! それで……っ」
まるで浮気の場面でも見られたかのような言い訳ではあるが、別段オレと紅羽ちゃんはそう言った仲ではない。
だからナニを想われてもいいと思う。でももう助けてくれなくなるのは嫌だ。
なんて、そんな自分勝手な思いで言い訳をするのだ。
銀糸の髪を揺らしながら金色の瞳でオレを面白おかしそうに見つめる大和様の視線は今は無視だ無視。
そもそも何故、神社から離れられない彼の神が居るんだ。
「まあまあ。小難しいことは考えないで大丈夫ですよ。広也さんのいつもの『不幸体質』が出ただけですから」
「やっぱりこの体質……どうにかならない?」
「なるっちゃあなるんじゃないですかね?」
――その命を落とせば。
そう笑いながら言う紅羽ちゃんは鬼だ鬼。
「鬼は人間を助けたりなんてしませんよ」
「嘘だァ……」
「本当です」
でもオレは知っている。普通の鬼は人間を助けなくても、オレのことを助けてくれたことを。
やっぱりイケメンで得したなぁ。と思う瞬間だなぁ。
「何かまた良からぬことを考えていますね」
「そんなことないよ! あ、そうだ。紅羽ちゃんありがとう!」
「いえいえ。通り道だったので」
「え? でも紅羽ちゃんの家、逆方面……」
「ああ。今日は百鬼夜行の日でして。此処が所謂通り道なんですよね」
「……つまり?」
「今夜は鬼や妖怪が出まくりますよ」
「紅羽ちゃん」
オレはいつになく真剣な声を出した。
「なんですか? 広也さん」
「オレと手を繋いで帰ってください!」
そう言って綺麗にお辞儀をした。角度的には九十度を目指して。
「まあ、いいですよ」
ふふ、と笑った紅羽ちゃんは、その金色の猫目を柔和にやわらげた。
背後の大和様が面白くなさそうにムスッとしていたが、無視だ無視。
これは『不幸体質』のオレ、設楽広也と。
『霊感チート』な美少女。神山紅羽ちゃんの、ちょっと可笑しな日常である。
そう叫びながらオレは今現在、全力疾走していた。
何故って? 背後からうっかり忍び寄ってきたなんか良く分からないけれども真っ黒でデロデロしたナニかが人体の法則を無視して這いつくばりながらオレを追いかけてくるからだ。
「ナニこれ悪夢!? 夢なら早く覚めてくれぇぇぇ!」
喉の奥から血の味がするほどには叫んだかも知れない。
けれどもオレを助けてくれるモノは現れず。
ああ、さすがのオレももうすぐ死ぬのか……。なんて、全力疾走しながら世を儚んでいたらクスクスという笑い声が隣で響いた。ええ、もう。真隣と言っても過言ではない近さで。
「いやぁ、広也さんの憑かれ方、やばくないですか?」
「紅羽ちゃん! 笑ってないで! どうにかしてぇ!」
「そんな乙女でも聞きたくない言葉を聞かされるわたしの気持ちにもなってくださいよ」
はあ、と溜め息を吐きながらオレの隣を散歩するかのように走っているとはまったく思えない優雅さを醸し出すのは見た目は絶世の美女、紅羽ちゃん。中身は、おっとこれ以上言ったら助けて貰えない。
「あー、何か不穏なこと考えてますね?」
「何も! 考えてません! だから助けて紅羽ちゃん!」
「なっさけないですねぇ。普段はイケメンのくせに中身ヘタレとか数多の女の子に知られたら呆れられますよー?」
「いいもん! 紅羽ちゃんは呆れ果てて慣れてるだろうから!」
「はいはい」
そう言いながら紅羽ちゃんはブレザーのポケットから人型の依り代を取り出した。
そうしてソレを背後で全力疾走に今まさに追いついてオレを喰ってやろうとほくそ笑んだであろう良く分からない怪物にさながら野球の投手並みの剛速球で投げつけた。
『ギャァァァァァァァァァァァァ』
捻り潰されたかのような悲鳴が聞こえてきてオレは思わず耳を塞ぐ。
いや、実際に捻り潰されたモノとか視たことはあっても、見たことはないから分からないけれども。
アレ? これって見たことになるのかな? なんて現実逃避すのはいつものことだ。
ちらりと目を開けた先に居た紅羽ちゃんは優雅に佇んでいる。その口元には薄く笑みを浮かべていた。めっちゃ余裕である。さすが紅羽ちゃん。
「それで? 広也さんはあの神堕ちした邪神紛いのナニかと何処でエンカウントしたんですか?」
「え、っと……」
明後日の方向を向きながらオレは言い訳を考えている。
けれどもその声は渋く重厚感溢れる声に阻まれた。
『逢引きしておったおなごが『ああなった』のよ』
「ほうほう。大和様がそう仰られるならばそうなのですね」
「お、オレはただ単に授業の内容が分からないからって言われて! それで……っ」
まるで浮気の場面でも見られたかのような言い訳ではあるが、別段オレと紅羽ちゃんはそう言った仲ではない。
だからナニを想われてもいいと思う。でももう助けてくれなくなるのは嫌だ。
なんて、そんな自分勝手な思いで言い訳をするのだ。
銀糸の髪を揺らしながら金色の瞳でオレを面白おかしそうに見つめる大和様の視線は今は無視だ無視。
そもそも何故、神社から離れられない彼の神が居るんだ。
「まあまあ。小難しいことは考えないで大丈夫ですよ。広也さんのいつもの『不幸体質』が出ただけですから」
「やっぱりこの体質……どうにかならない?」
「なるっちゃあなるんじゃないですかね?」
――その命を落とせば。
そう笑いながら言う紅羽ちゃんは鬼だ鬼。
「鬼は人間を助けたりなんてしませんよ」
「嘘だァ……」
「本当です」
でもオレは知っている。普通の鬼は人間を助けなくても、オレのことを助けてくれたことを。
やっぱりイケメンで得したなぁ。と思う瞬間だなぁ。
「何かまた良からぬことを考えていますね」
「そんなことないよ! あ、そうだ。紅羽ちゃんありがとう!」
「いえいえ。通り道だったので」
「え? でも紅羽ちゃんの家、逆方面……」
「ああ。今日は百鬼夜行の日でして。此処が所謂通り道なんですよね」
「……つまり?」
「今夜は鬼や妖怪が出まくりますよ」
「紅羽ちゃん」
オレはいつになく真剣な声を出した。
「なんですか? 広也さん」
「オレと手を繋いで帰ってください!」
そう言って綺麗にお辞儀をした。角度的には九十度を目指して。
「まあ、いいですよ」
ふふ、と笑った紅羽ちゃんは、その金色の猫目を柔和にやわらげた。
背後の大和様が面白くなさそうにムスッとしていたが、無視だ無視。
これは『不幸体質』のオレ、設楽広也と。
『霊感チート』な美少女。神山紅羽ちゃんの、ちょっと可笑しな日常である。
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