一周年リクエスト企画(過去サイト)
>>『はる』様より
◆◇◆
五つ年下の恋人はどうやら私に依存しているようだ。
私の携帯を自分の物のように扱い、私の交遊関係を把握したがったり。
「今日は誰と会ったの?誰と喋ったの?」
なんて問い詰められ、例え知り合いでも男と喋っただなんて馬鹿正直に答えた日には目も当てられない。
――まあ、その目も当てられない事を、今日ついうっかりやらかしちゃったんだけどね。
「なんでどうしてオレ以外の男と話す必要があるの意味分かんないお前にはオレだけが居ればいいのオレだけでいいのそれがどうしてお前には分かんないの?オレの愛し方が足りないの?もっと愛せば分かってくれるの?」
今日、久しぶりに大学卒業以来会わなかった旧友と仕事帰りにバッタリと会い、懐かしさからかついつい話が盛り上がってしまったのが事の始まり。
近くの喫茶店にでも行こうかー、なんて相手を誘い、そこでもまた話が盛り上がる。
あいつ絶対禿げてたよなぁ、なんて分かり易いカツラを被っていた教師の話から始まり、あの地味で大人しかった芳野が最近結婚したらしいぜ、なんて噂話まで。
とにかく大学を卒業してから就職活動で忙しかった為に会わなかった間のお互いが知らなかった情報を交換し、共有するかのような、一見下らなくも見えるけれど久しぶりに会った友人がするには充分な会話を散々した。
それはもう喉がカラカラになって何度もコーヒーをお代わりしてしまったくらいには、した。
しばらくして時間もいい頃合いになって、そろそろお開きにするか、また会おうねー、なんて会話で喫茶店で別れた。
私は久しぶりに旧友と会えた高揚感から鼻歌を歌いながら家に帰る。
――が、玄関の鍵を開けた瞬間、何故か居た恋人に引き倒されのし掛かられてから、今この状況に至る訳だ。
合鍵は渡してあるから恋人が私の家に居ても何ら可笑しくはないんだけどね。
それでも連絡は欲しかったなー、とそんな事をのんびりと思う。
恋人はそんな私の様子を気に止める事もなく瞳から光を消し、無表情で「どうしたら伝わるのどうしたら分かるの」何て言葉をブツブツと繰り返している。
「うん。分かったから落ち着こうか」
「分かってない!」
「うん。ごめん。確かに分かんないわぁ。というか私なんで押し倒されてんのー?せめて部屋着に着替えさせてくんない?」
仕事終わりで押し倒されてしまったから未だスーツのまま。
下手に汚したくはないので部屋着に着替えさせてくれとお願いすれば、恋人はお綺麗な顔を大層不機嫌そうに歪める。
「離したら逃げるだろ!」
「逃げないってか、アンタから逃げる必要がないでしょーが」
「それでもイヤだっ。離したら春はアイツの所に行っちゃうんだろ?そんなの許さない許さない許さない許さない許さない」
「いやいや、アイツって誰さね」
おっと。どうやら恋人は自分の世界に行ってしまったようだ。
部屋着に着替えたいだけなのに、何故か逃げる逃げないの話になってしまった。
許さない、と繰り返す恋人に苦笑いを浮かべながら、宥めようと震える背中に腕を回すと子供をあやすようにポンポンと叩いて、言葉を促す。
恋人は暗い色をした虚ろな瞳で私を見つめながら、震える唇を動かした。
「……っ、見たんだ。春がオレの知らない男が仲良さそうに話してるのを……!誰だよアイツ!今日男と会うなんてオレは聞いてない……っ!」
「……あー」
友人と喋っている所を偶然見たのだろう。
恋人の方が浮気を疑われるような見掛けをしているけれど、見掛けによらず一途で、そして嫉妬深い恋人は時折こんな風に暴走する事があったりする。
それはもう慣れたし気にもしないから、どうでもいい。
「まあ、確かに仲良く話してはいたよー?」
私の言葉にギリッと唇を噛む恋人を構わず、言葉を続ける。
「あの人は大学の時の友人だよ。今まで疚しい気持ちになった事もないし、もちろんアンタが疑ってるような浮気もしてない。ホントに今日久しぶりに会ったんだよー」
「当たり前だろ。春にエロイこと考えて触る野郎はぶっ殺す」
「うん。私はアンタに犯罪者になって欲しくないから、そんなことしないよー」
てかさー。
「私はアンタのことちゃんと好きだし愛してる訳なのよ?それこそアンタが高校卒業して大学も卒業して就職したら結婚してもいいかなー、って思うくらいにはねー」
まだ漠然とした夢だけれど、私もそれくらいの覚悟で付き合ってるの。
それでもまだ疑う?
何かあったんじゃないかって不安になる?
優しく聞こえるように心掛けながらそう言えば、恋人の闇の中みたいに暗い瞳に段々と光が浮かび上がってきた。
少し呆けたような顔をしていた恋人は、突然今にも泣き出しそうに顔を歪め、「……だ、って」と口にする。
「だって?」
「……はる、は、こんなオレをいつか嫌いになるだろ…?こんな、お前のこと縛り付けて直ぐ不安になって我を忘れて暴走するような男、嫌だろ?」
「確かに嫌だねぇ」
「――っ!」
「……って、言ったらどうするのー?別れる?」
「わ、かれない。別れる訳ない。そんなこと許さない!春が別れるなんて言ったらオレ春に何するか分かんないよ?閉じ込めて誰にも会わせないように外の世界から遮断して孕ましてオレのガキ産ませてオレだけしか頼る相手が居ない状況にしてから依存させるから」
「そっかぁ、奇遇だねぇ」
一度区切り、恋人の目を見ながら笑みを溢す。
どちらかと言うとインドアな私にとっては、外界から遮断されたとしてそう困ることもないだろう。
まあ、私を繋ぎ止める為だけの理由で子供を作る気なら私は子供を作らない方向で考えるけど。
欲しかったんだけどなー。まあ、しょうがないかぁ。
「私もアンタと別れる気はないんだよー?」
アンタのことが大好きだからねー。
リビングの床と恋人の間に挟まれた形で転がったままの状態でそう言えば、今まで立て膝を付いた状態で押し倒していた恋人が、まるで私を押し潰すようにのし掛かってきた。
衝撃からか思わず、ぐえっ、と蛙が潰れたような声を上げてしまう。
(ナニコレめっちゃ苦しいんですけどー)
これ絶対全体重掛かってますよね?と思わず聞きたくなる。
実際は喋ろうにも身体に掛かっている恋人の体重が重すぎて喋ることも容易ではないから出来ないのだけれど。
「オレも春とずっと一緒に居たい。春が居ないと息の仕方も分からないんだ。だからもし春が本気で別れたいなんて言ったらオレ、春を殺すよ?そんでオレも死ぬ。春を一人になんてしたくないし春が居ないと生きてる意味なんてないんだから当然だけど」
私が苦しんでいる間にも、ベラベラと口を動かす恋人。身体がピッタリとくっついている今の状況では恋人の顔は見えないからどんな表情をしているのか分からない。
けれども声の調子から、不機嫌なわけではなく、むしろ喜んでいるような雰囲気を感じた。
物騒なセリフだし、嬉々として語るような内容ではない気がするけどねぇ。
何て、他人事のように内心で呟く。
(……でも何でかなぁ?)
そんな物騒極まりない言葉の筈なのに嬉しくて堪らない。
私が側に居なければ息もまともに出来ない。
私が離れるくらいなら、私を殺す。
そんなほの暗く狂気すら感じる言葉が、私には最高の愛の言葉に聞こえた。
ふ、と笑い、少し離れろと服を引っ張る。
恋人は嫌そうな雰囲気を纏いながら、渋々と離れた。
久しぶりに肺を圧迫するものが無くなった為か、けほっ、と少し噎せた。
それが落ち着いてから、私は微笑みを浮かべながら恋人に向かって言った。
「もしアンタが安心するなら、私は殺されたって構わないよー」
だからさ、そんな無意味なことを一々気にしなくていいんだよ。
「私はアンタのモノだし、アンタも私のモノなんだから」
ね?っと微笑めば、ようやく安心したのかコクンと首を縦に振る恋人。
その様子を見て、今日はもう大丈夫そうだなぁ、と私も一息吐いた。
五つ年下の恋人はどうやら私に依存しているようだ。
私を束縛して、自分だけを私の視界に入れて欲しいのだそうだ。
私が居なければ呼吸の仕方すら分からないんだと辛そうに。
私が居なければ生きている意味が分からないんだと悲しそうに。
きっと誰をもが恋人の事を狂っていると言うのだろう。
けれど本当に狂っているのは――
「私、なんだろうなー」
ふふ、と口角を吊り上げると、「何か言った?」と聞いてきた恋人対して「ううん。何も?」と返し、私をキツくキツく抱き締める恋人の背中に腕を回して私も負けないくらいの力を込めて抱き締め返した。
◆◇◆
五つ年下の恋人はどうやら私に依存しているようだ。
私の携帯を自分の物のように扱い、私の交遊関係を把握したがったり。
「今日は誰と会ったの?誰と喋ったの?」
なんて問い詰められ、例え知り合いでも男と喋っただなんて馬鹿正直に答えた日には目も当てられない。
――まあ、その目も当てられない事を、今日ついうっかりやらかしちゃったんだけどね。
「なんでどうしてオレ以外の男と話す必要があるの意味分かんないお前にはオレだけが居ればいいのオレだけでいいのそれがどうしてお前には分かんないの?オレの愛し方が足りないの?もっと愛せば分かってくれるの?」
今日、久しぶりに大学卒業以来会わなかった旧友と仕事帰りにバッタリと会い、懐かしさからかついつい話が盛り上がってしまったのが事の始まり。
近くの喫茶店にでも行こうかー、なんて相手を誘い、そこでもまた話が盛り上がる。
あいつ絶対禿げてたよなぁ、なんて分かり易いカツラを被っていた教師の話から始まり、あの地味で大人しかった芳野が最近結婚したらしいぜ、なんて噂話まで。
とにかく大学を卒業してから就職活動で忙しかった為に会わなかった間のお互いが知らなかった情報を交換し、共有するかのような、一見下らなくも見えるけれど久しぶりに会った友人がするには充分な会話を散々した。
それはもう喉がカラカラになって何度もコーヒーをお代わりしてしまったくらいには、した。
しばらくして時間もいい頃合いになって、そろそろお開きにするか、また会おうねー、なんて会話で喫茶店で別れた。
私は久しぶりに旧友と会えた高揚感から鼻歌を歌いながら家に帰る。
――が、玄関の鍵を開けた瞬間、何故か居た恋人に引き倒されのし掛かられてから、今この状況に至る訳だ。
合鍵は渡してあるから恋人が私の家に居ても何ら可笑しくはないんだけどね。
それでも連絡は欲しかったなー、とそんな事をのんびりと思う。
恋人はそんな私の様子を気に止める事もなく瞳から光を消し、無表情で「どうしたら伝わるのどうしたら分かるの」何て言葉をブツブツと繰り返している。
「うん。分かったから落ち着こうか」
「分かってない!」
「うん。ごめん。確かに分かんないわぁ。というか私なんで押し倒されてんのー?せめて部屋着に着替えさせてくんない?」
仕事終わりで押し倒されてしまったから未だスーツのまま。
下手に汚したくはないので部屋着に着替えさせてくれとお願いすれば、恋人はお綺麗な顔を大層不機嫌そうに歪める。
「離したら逃げるだろ!」
「逃げないってか、アンタから逃げる必要がないでしょーが」
「それでもイヤだっ。離したら春はアイツの所に行っちゃうんだろ?そんなの許さない許さない許さない許さない許さない」
「いやいや、アイツって誰さね」
おっと。どうやら恋人は自分の世界に行ってしまったようだ。
部屋着に着替えたいだけなのに、何故か逃げる逃げないの話になってしまった。
許さない、と繰り返す恋人に苦笑いを浮かべながら、宥めようと震える背中に腕を回すと子供をあやすようにポンポンと叩いて、言葉を促す。
恋人は暗い色をした虚ろな瞳で私を見つめながら、震える唇を動かした。
「……っ、見たんだ。春がオレの知らない男が仲良さそうに話してるのを……!誰だよアイツ!今日男と会うなんてオレは聞いてない……っ!」
「……あー」
友人と喋っている所を偶然見たのだろう。
恋人の方が浮気を疑われるような見掛けをしているけれど、見掛けによらず一途で、そして嫉妬深い恋人は時折こんな風に暴走する事があったりする。
それはもう慣れたし気にもしないから、どうでもいい。
「まあ、確かに仲良く話してはいたよー?」
私の言葉にギリッと唇を噛む恋人を構わず、言葉を続ける。
「あの人は大学の時の友人だよ。今まで疚しい気持ちになった事もないし、もちろんアンタが疑ってるような浮気もしてない。ホントに今日久しぶりに会ったんだよー」
「当たり前だろ。春にエロイこと考えて触る野郎はぶっ殺す」
「うん。私はアンタに犯罪者になって欲しくないから、そんなことしないよー」
てかさー。
「私はアンタのことちゃんと好きだし愛してる訳なのよ?それこそアンタが高校卒業して大学も卒業して就職したら結婚してもいいかなー、って思うくらいにはねー」
まだ漠然とした夢だけれど、私もそれくらいの覚悟で付き合ってるの。
それでもまだ疑う?
何かあったんじゃないかって不安になる?
優しく聞こえるように心掛けながらそう言えば、恋人の闇の中みたいに暗い瞳に段々と光が浮かび上がってきた。
少し呆けたような顔をしていた恋人は、突然今にも泣き出しそうに顔を歪め、「……だ、って」と口にする。
「だって?」
「……はる、は、こんなオレをいつか嫌いになるだろ…?こんな、お前のこと縛り付けて直ぐ不安になって我を忘れて暴走するような男、嫌だろ?」
「確かに嫌だねぇ」
「――っ!」
「……って、言ったらどうするのー?別れる?」
「わ、かれない。別れる訳ない。そんなこと許さない!春が別れるなんて言ったらオレ春に何するか分かんないよ?閉じ込めて誰にも会わせないように外の世界から遮断して孕ましてオレのガキ産ませてオレだけしか頼る相手が居ない状況にしてから依存させるから」
「そっかぁ、奇遇だねぇ」
一度区切り、恋人の目を見ながら笑みを溢す。
どちらかと言うとインドアな私にとっては、外界から遮断されたとしてそう困ることもないだろう。
まあ、私を繋ぎ止める為だけの理由で子供を作る気なら私は子供を作らない方向で考えるけど。
欲しかったんだけどなー。まあ、しょうがないかぁ。
「私もアンタと別れる気はないんだよー?」
アンタのことが大好きだからねー。
リビングの床と恋人の間に挟まれた形で転がったままの状態でそう言えば、今まで立て膝を付いた状態で押し倒していた恋人が、まるで私を押し潰すようにのし掛かってきた。
衝撃からか思わず、ぐえっ、と蛙が潰れたような声を上げてしまう。
(ナニコレめっちゃ苦しいんですけどー)
これ絶対全体重掛かってますよね?と思わず聞きたくなる。
実際は喋ろうにも身体に掛かっている恋人の体重が重すぎて喋ることも容易ではないから出来ないのだけれど。
「オレも春とずっと一緒に居たい。春が居ないと息の仕方も分からないんだ。だからもし春が本気で別れたいなんて言ったらオレ、春を殺すよ?そんでオレも死ぬ。春を一人になんてしたくないし春が居ないと生きてる意味なんてないんだから当然だけど」
私が苦しんでいる間にも、ベラベラと口を動かす恋人。身体がピッタリとくっついている今の状況では恋人の顔は見えないからどんな表情をしているのか分からない。
けれども声の調子から、不機嫌なわけではなく、むしろ喜んでいるような雰囲気を感じた。
物騒なセリフだし、嬉々として語るような内容ではない気がするけどねぇ。
何て、他人事のように内心で呟く。
(……でも何でかなぁ?)
そんな物騒極まりない言葉の筈なのに嬉しくて堪らない。
私が側に居なければ息もまともに出来ない。
私が離れるくらいなら、私を殺す。
そんなほの暗く狂気すら感じる言葉が、私には最高の愛の言葉に聞こえた。
ふ、と笑い、少し離れろと服を引っ張る。
恋人は嫌そうな雰囲気を纏いながら、渋々と離れた。
久しぶりに肺を圧迫するものが無くなった為か、けほっ、と少し噎せた。
それが落ち着いてから、私は微笑みを浮かべながら恋人に向かって言った。
「もしアンタが安心するなら、私は殺されたって構わないよー」
だからさ、そんな無意味なことを一々気にしなくていいんだよ。
「私はアンタのモノだし、アンタも私のモノなんだから」
ね?っと微笑めば、ようやく安心したのかコクンと首を縦に振る恋人。
その様子を見て、今日はもう大丈夫そうだなぁ、と私も一息吐いた。
五つ年下の恋人はどうやら私に依存しているようだ。
私を束縛して、自分だけを私の視界に入れて欲しいのだそうだ。
私が居なければ呼吸の仕方すら分からないんだと辛そうに。
私が居なければ生きている意味が分からないんだと悲しそうに。
きっと誰をもが恋人の事を狂っていると言うのだろう。
けれど本当に狂っているのは――
「私、なんだろうなー」
ふふ、と口角を吊り上げると、「何か言った?」と聞いてきた恋人対して「ううん。何も?」と返し、私をキツくキツく抱き締める恋人の背中に腕を回して私も負けないくらいの力を込めて抱き締め返した。