一周年リクエスト企画(過去サイト)
>>『鈴実』様より
◆◇◆
手には調理実習で作ったマフィン。
さてこれを恋人にあげようかと思うけれども、どうしようかとも悩む。
あげなければあげないで拗ねる恋人は、けれど素直に受け取ってくれる事もないだろう。
ううん、と唸って綺麗に包装した(と言っても透明な袋にシンプルなピンクのリボンを巻いただけ)マフィンを胸に抱える。
「一応聞いて、机の上にでも置いておこうかな」
声を掛けなかったら掛けなかったで拗ねるのだ。
逸そ素直になればいいのにと思わないわけではないけれど、そんな恋人も大好きなのだからタチが悪いのはむしろ私なのかもしれない。
「今日はどんな反応されるかな~」
ふふ、と笑みを零して、恋人の居る教室に足を向けた。
「はいどうぞー」
「……んだよ」
「今日の調理実習で作ったマフィンだよ~」
「んなもん見りゃ分かんだよ。なんで俺に渡すのかが分かんねぇの」
「ん~、食べて欲しいから?」
「ハッ、そういうのは食えるもん作れるようになってから言え。この前のヤツも食っていい味しなかったし」
うんうん。食べてくれたんだね~と、にへり頬を緩ませる。
この前の調理実習の時に作ったクッキーはいつも通り恋人の口に入ったようだ。
ちなみに食っていい味しない、というのは恋人なりの褒め言葉で「美味しかった」と同義なのだと私は知っている。
知っているからそんな「やっちまった」なんて顔しなくてもいいのに。
本当に素直じゃないというか、不器用さんというか。
なんだか可愛いなぁと目尻を下げると眉根を寄せて不機嫌そうな顔をする恋人。
「何にへにへ笑ってんだよ、気持ちわりぃ」
「ふふ、ごめんね」
「だから笑うなっての」
クソッと吐き捨てた恋人は、ひったくるように私の手の中にあったマフィンを奪う。
「……お前の作ったもんなんて不味くて食えたもんじゃねぇけど、しょうがねぇから貰ってやるよ」
おお、今日は素直な日なんだねぇ。
鞄の中に入れておけば食べてくれるのは分かっているけれど、やっぱり目の前で直接受け取ってくれるのは嬉しいものだ。
元々にやけていた顔が更に綻べば、恋人は眉間に皺を増やした。
普通に見れば怖い顔なのだろれけど、それが照れ隠しだと知っている私には何ら怖くない。
(照れ屋さんだから、恥ずかしくて堪らないんだろうなー)
度量が広いのか、ただ単に愛故なのか分からない解釈をする彼女。
そんな彼女の胸中に全く気付かない恋人はほんの少し目尻に朱を走らせると早口に捲し立てた。
「し、仕方なくだからな!別に食いたくもねぇ」
「うんうん。勿体ないから貰ってくれるんだよねぇ、ありがとう」
「……っ別に」
ふいっと顔を背けてしまった恋人に、嬉しいなぁとまるで追い討ちを掛けるように呟く。
するとついうっかり「お前の方が可愛いだろっ」と吐き捨てた恋人はその事に気付いた瞬間、顔を一瞬で真っ赤に染め上げて陸上部顔負けの走りを見せて教室を飛び出して行ってしまった。
「ほぉんと、可愛いなぁ」
置いてけぼりにされてしまった彼女は、そんなことを一切気にせず。
ふふ、と笑みを零しながら今頃羞恥に蹲っているだろう恋人に向けて、ぽつりと呟いた。
◆◇◆
手には調理実習で作ったマフィン。
さてこれを恋人にあげようかと思うけれども、どうしようかとも悩む。
あげなければあげないで拗ねる恋人は、けれど素直に受け取ってくれる事もないだろう。
ううん、と唸って綺麗に包装した(と言っても透明な袋にシンプルなピンクのリボンを巻いただけ)マフィンを胸に抱える。
「一応聞いて、机の上にでも置いておこうかな」
声を掛けなかったら掛けなかったで拗ねるのだ。
逸そ素直になればいいのにと思わないわけではないけれど、そんな恋人も大好きなのだからタチが悪いのはむしろ私なのかもしれない。
「今日はどんな反応されるかな~」
ふふ、と笑みを零して、恋人の居る教室に足を向けた。
「はいどうぞー」
「……んだよ」
「今日の調理実習で作ったマフィンだよ~」
「んなもん見りゃ分かんだよ。なんで俺に渡すのかが分かんねぇの」
「ん~、食べて欲しいから?」
「ハッ、そういうのは食えるもん作れるようになってから言え。この前のヤツも食っていい味しなかったし」
うんうん。食べてくれたんだね~と、にへり頬を緩ませる。
この前の調理実習の時に作ったクッキーはいつも通り恋人の口に入ったようだ。
ちなみに食っていい味しない、というのは恋人なりの褒め言葉で「美味しかった」と同義なのだと私は知っている。
知っているからそんな「やっちまった」なんて顔しなくてもいいのに。
本当に素直じゃないというか、不器用さんというか。
なんだか可愛いなぁと目尻を下げると眉根を寄せて不機嫌そうな顔をする恋人。
「何にへにへ笑ってんだよ、気持ちわりぃ」
「ふふ、ごめんね」
「だから笑うなっての」
クソッと吐き捨てた恋人は、ひったくるように私の手の中にあったマフィンを奪う。
「……お前の作ったもんなんて不味くて食えたもんじゃねぇけど、しょうがねぇから貰ってやるよ」
おお、今日は素直な日なんだねぇ。
鞄の中に入れておけば食べてくれるのは分かっているけれど、やっぱり目の前で直接受け取ってくれるのは嬉しいものだ。
元々にやけていた顔が更に綻べば、恋人は眉間に皺を増やした。
普通に見れば怖い顔なのだろれけど、それが照れ隠しだと知っている私には何ら怖くない。
(照れ屋さんだから、恥ずかしくて堪らないんだろうなー)
度量が広いのか、ただ単に愛故なのか分からない解釈をする彼女。
そんな彼女の胸中に全く気付かない恋人はほんの少し目尻に朱を走らせると早口に捲し立てた。
「し、仕方なくだからな!別に食いたくもねぇ」
「うんうん。勿体ないから貰ってくれるんだよねぇ、ありがとう」
「……っ別に」
ふいっと顔を背けてしまった恋人に、嬉しいなぁとまるで追い討ちを掛けるように呟く。
するとついうっかり「お前の方が可愛いだろっ」と吐き捨てた恋人はその事に気付いた瞬間、顔を一瞬で真っ赤に染め上げて陸上部顔負けの走りを見せて教室を飛び出して行ってしまった。
「ほぉんと、可愛いなぁ」
置いてけぼりにされてしまった彼女は、そんなことを一切気にせず。
ふふ、と笑みを零しながら今頃羞恥に蹲っているだろう恋人に向けて、ぽつりと呟いた。