二周年リクエスト企画(過去サイト)
>>『美優』様より
◆◇◆
「何度言えば気が済むのかなぁ?」
通っている高校の校門から出てすぐに、青筋を浮かべた恋人の手によって
車に連れ込まれ、そのまま拉致られた。
車内は全くの無言。
いや、何かを気軽に話せるような雰囲気ではなかったので自重とでもいうのか。
とにかく、この嫉妬深い恋人は今度は何に怒っているんだと制服のスカートを握り締めながら私は黙ることに務めた。
「――だからって黙ってたのは別に、こんなことになるつもりだったからなわけじゃないんですけどー」
「ねえ美優。俺、怒ってるんだよね」
「無視ですか。そうですか」
「ねえ、どういうことなのかな」
「いきなり言われても、一体何に怒ってるんですか」
イライラとした様子で整えられていた髪を手で崩す恋人は、普段の余裕というものをなくしているようだ。
はて、いつもは余裕綽々としているこの恋人がそれを崩すようなことを、私は果たしてしただろうか。
考えていても、答えは出ない。
だからといって、聞いて答えてくれるような雰囲気でもない。
さて、どうしたものか。
「ねえ、美優。聞いてる?」
「聞いてますよー」
むしろ貴方が私の言葉を聞いていないじゃないですか、なんて普段は口に出来るような言葉を言える空気ではないし、そんな私の唇を笑顔で摘まんでくるような雰囲気でもない。
いやぁ、雰囲気って大切だなぁ。
そんなことを考えていれば、恋人はもう一度強く「ねぇ」と呼びかけてきた。
「俺、結構怒ってるんだけど」
「はあ。だからって足枷はないんじゃないかなって思うんですけど」
というか、何でこんなもんあるんですか。
そういう性癖なんですか?
今の重っくるしい空気でなかったのなら言いたかった。
凄く気になった。
恋人の性癖がそんな歪んだものだったらこれからどう対応していったら良いのか考えなくてはならないし。
けれど今の空気はベッドの上で膝を抱える私にそれを許さないようだ。
「俺は再三言ってるよね」
まるで幼子に言い聞かせるように優しい声音を発する恋人に、私はうん?と首を傾げた。
「覚えてないの」
あ、怒りが増した気がする。
「美優はそういうところあるよね。俺の言葉を覚えてないの?俺は一言一句美優のことなら覚えてるのに?」
――そんなの、フェアじゃぁないよねぇ?
(……わぁお。笑顔なのにこめかみに青筋が……)
そんなに怒らせるようなことをしただろうかと本日何度目かの疑問に眉を顰める。
「俺、言ったよね」
「だから、何をですか」
足枷以上のことはないだろと腹を括って聞いてみたら、はあ、と呆れたような溜め息を吐かれた。
それはそんなに呆れるような事柄なんですか。
「俺以外の男と二人きりにならないでって」
「ああ、いつも言ってますよねぇ」
最初は「俺以外の男と関わらないで」だったのを、現実的に考えてクラスメートの男子と関わらないのは無理だと抗議し、譲歩して貰った(と、いうのも変な話だが)約束した。
まあ、譲歩されるまでこのことで何度言い争ったか分からないのもあり記憶にも根深いし。
「それで美優は俺以外の男と、外で何をしてたの」
「……はい?」
「週末。つまりは昨日。俺の知らない男と二人でカフェに居た。――何してたの」
「昨日……」
昨日は、確か、
「デートしてましたけど」
「はあ!?」
唐突に大きな声を出した恋人にびくりと肩を震わせる。
「っ急に大きな声出さないでくださいよ……」
「デートって、どういうこと?」
「また無視ですか。別にいいですけど」
「俺が居るのに?俺以外の男と?……はは。美優は俺を怒らせたいの?」
もう怒ってるじゃないですかー、なんて言い出せる雰囲気なわけ以下略って感じだね。
吐き出しそうな溜め息を飲み込みつつ、考える。
一体何だというのだ。
私は何か可笑しなことを言っただろうか。
そこまで考えて、ハッとした。
「あの、」
「ね、美優?俺が昨日、どれだけ嫉妬したか分かる?どれだけ苦しかったか知ってる?」
「いえ、あの、」
「口答えも弁明も要らない。美優は大人しく俺の気が晴れるまで俺の家で過ごして。もちろん、外にも出してあげないよ。そのままの状態で居て貰うから、そのつもりでいてね」
「いや、だからですね」
「はあ、なに」
ああ、ようやく話を聞いて貰えるようだ。
私は深呼吸を一度してから、恋人の顔をしっかりと見て、
「あれ、妹の彼氏です」
「……は?そんな嘘に騙されると思ってるの?」
「本当ですよ。妹にプレゼント書いたいけど何買っていいかわからないから付き合ってくれって頼まれて、無碍にできなかったんです」
昨日のことを思い出して、デートだと口にしたのは弟に言うような、そんな感覚だったのだ。
けれども重すぎるくらい嫉妬深い恋人の前でそれを口にするにはあまりにも軽率だったと反省する。
「……どうして連絡して教えてくれなかったの」
「最近お忙しそうだったので、気が引けて」
「……これからはどんなことでも報告して」
「全部ですか?」
「全部」
即答で返された言葉に、はあ、と頷く。
全部か。それはまた、面倒な。
「俺は、確かに嫉妬深い。自覚はあるよ?雁字搦めに縛り付けたい。美優の頭の中、俺でいっぱいにして俺以外考えられないくらいにしたい」
ずっとそう思ってる。
「でも、事情があるなら、何でもかんでもダメ出しするほど俺の懐は狭くないよ」
「……はい、ごめんなさい」
絶対嘘だと思いながらも謝っておく。
この場がこれで収まるのならば、謝罪の一つや二つは軽いものだ。
でもようやく納得してくれたと、ホッと息を吐き出して、身体を丸めた。
その際に触れた金属に、そういえばと思い出す。
「誤解も解けたようですし、これ、取ってくれませんか?」
「え?どうして」
「いえ、むしろそれがどうしてという感じなのですが…」
「俺を嫉妬させた罰って大切だよね」
「……へ?」
「さっき言った通りだよ。俺の気が済むまで美優には俺の部屋に居て貰うから」
恋人の言葉に、思考が固まる。
けれどすぐに復活して、異議申し立てをした。
「いやいやいや。私学校あるんですけど」
「俺が毎日送り迎えするよ」
「親になんて言うつもりですか」
「上手く言っておくから気にしなくていい」
「いや、すみません。気にしますから」
「ねえ、美優。俺、まだ怒ってないわけじゃないんだよ?」
その言葉の冷たさに、びくりと身体が跳ねた。
(怖い怖い怖い!口は笑ってるのに目が全然笑ってない!)
「俺を不安にさせたんだから、俺のお願いくらい聞いてくれるよねぇ?」
『お願い』って『命令』と同じ意味だったっけとか思いながらも、私は薄らと笑いながら「……はい、」と頷く以外の道が用意されていなかった。
◆◇◆
「何度言えば気が済むのかなぁ?」
通っている高校の校門から出てすぐに、青筋を浮かべた恋人の手によって
車に連れ込まれ、そのまま拉致られた。
車内は全くの無言。
いや、何かを気軽に話せるような雰囲気ではなかったので自重とでもいうのか。
とにかく、この嫉妬深い恋人は今度は何に怒っているんだと制服のスカートを握り締めながら私は黙ることに務めた。
「――だからって黙ってたのは別に、こんなことになるつもりだったからなわけじゃないんですけどー」
「ねえ美優。俺、怒ってるんだよね」
「無視ですか。そうですか」
「ねえ、どういうことなのかな」
「いきなり言われても、一体何に怒ってるんですか」
イライラとした様子で整えられていた髪を手で崩す恋人は、普段の余裕というものをなくしているようだ。
はて、いつもは余裕綽々としているこの恋人がそれを崩すようなことを、私は果たしてしただろうか。
考えていても、答えは出ない。
だからといって、聞いて答えてくれるような雰囲気でもない。
さて、どうしたものか。
「ねえ、美優。聞いてる?」
「聞いてますよー」
むしろ貴方が私の言葉を聞いていないじゃないですか、なんて普段は口に出来るような言葉を言える空気ではないし、そんな私の唇を笑顔で摘まんでくるような雰囲気でもない。
いやぁ、雰囲気って大切だなぁ。
そんなことを考えていれば、恋人はもう一度強く「ねぇ」と呼びかけてきた。
「俺、結構怒ってるんだけど」
「はあ。だからって足枷はないんじゃないかなって思うんですけど」
というか、何でこんなもんあるんですか。
そういう性癖なんですか?
今の重っくるしい空気でなかったのなら言いたかった。
凄く気になった。
恋人の性癖がそんな歪んだものだったらこれからどう対応していったら良いのか考えなくてはならないし。
けれど今の空気はベッドの上で膝を抱える私にそれを許さないようだ。
「俺は再三言ってるよね」
まるで幼子に言い聞かせるように優しい声音を発する恋人に、私はうん?と首を傾げた。
「覚えてないの」
あ、怒りが増した気がする。
「美優はそういうところあるよね。俺の言葉を覚えてないの?俺は一言一句美優のことなら覚えてるのに?」
――そんなの、フェアじゃぁないよねぇ?
(……わぁお。笑顔なのにこめかみに青筋が……)
そんなに怒らせるようなことをしただろうかと本日何度目かの疑問に眉を顰める。
「俺、言ったよね」
「だから、何をですか」
足枷以上のことはないだろと腹を括って聞いてみたら、はあ、と呆れたような溜め息を吐かれた。
それはそんなに呆れるような事柄なんですか。
「俺以外の男と二人きりにならないでって」
「ああ、いつも言ってますよねぇ」
最初は「俺以外の男と関わらないで」だったのを、現実的に考えてクラスメートの男子と関わらないのは無理だと抗議し、譲歩して貰った(と、いうのも変な話だが)約束した。
まあ、譲歩されるまでこのことで何度言い争ったか分からないのもあり記憶にも根深いし。
「それで美優は俺以外の男と、外で何をしてたの」
「……はい?」
「週末。つまりは昨日。俺の知らない男と二人でカフェに居た。――何してたの」
「昨日……」
昨日は、確か、
「デートしてましたけど」
「はあ!?」
唐突に大きな声を出した恋人にびくりと肩を震わせる。
「っ急に大きな声出さないでくださいよ……」
「デートって、どういうこと?」
「また無視ですか。別にいいですけど」
「俺が居るのに?俺以外の男と?……はは。美優は俺を怒らせたいの?」
もう怒ってるじゃないですかー、なんて言い出せる雰囲気なわけ以下略って感じだね。
吐き出しそうな溜め息を飲み込みつつ、考える。
一体何だというのだ。
私は何か可笑しなことを言っただろうか。
そこまで考えて、ハッとした。
「あの、」
「ね、美優?俺が昨日、どれだけ嫉妬したか分かる?どれだけ苦しかったか知ってる?」
「いえ、あの、」
「口答えも弁明も要らない。美優は大人しく俺の気が晴れるまで俺の家で過ごして。もちろん、外にも出してあげないよ。そのままの状態で居て貰うから、そのつもりでいてね」
「いや、だからですね」
「はあ、なに」
ああ、ようやく話を聞いて貰えるようだ。
私は深呼吸を一度してから、恋人の顔をしっかりと見て、
「あれ、妹の彼氏です」
「……は?そんな嘘に騙されると思ってるの?」
「本当ですよ。妹にプレゼント書いたいけど何買っていいかわからないから付き合ってくれって頼まれて、無碍にできなかったんです」
昨日のことを思い出して、デートだと口にしたのは弟に言うような、そんな感覚だったのだ。
けれども重すぎるくらい嫉妬深い恋人の前でそれを口にするにはあまりにも軽率だったと反省する。
「……どうして連絡して教えてくれなかったの」
「最近お忙しそうだったので、気が引けて」
「……これからはどんなことでも報告して」
「全部ですか?」
「全部」
即答で返された言葉に、はあ、と頷く。
全部か。それはまた、面倒な。
「俺は、確かに嫉妬深い。自覚はあるよ?雁字搦めに縛り付けたい。美優の頭の中、俺でいっぱいにして俺以外考えられないくらいにしたい」
ずっとそう思ってる。
「でも、事情があるなら、何でもかんでもダメ出しするほど俺の懐は狭くないよ」
「……はい、ごめんなさい」
絶対嘘だと思いながらも謝っておく。
この場がこれで収まるのならば、謝罪の一つや二つは軽いものだ。
でもようやく納得してくれたと、ホッと息を吐き出して、身体を丸めた。
その際に触れた金属に、そういえばと思い出す。
「誤解も解けたようですし、これ、取ってくれませんか?」
「え?どうして」
「いえ、むしろそれがどうしてという感じなのですが…」
「俺を嫉妬させた罰って大切だよね」
「……へ?」
「さっき言った通りだよ。俺の気が済むまで美優には俺の部屋に居て貰うから」
恋人の言葉に、思考が固まる。
けれどすぐに復活して、異議申し立てをした。
「いやいやいや。私学校あるんですけど」
「俺が毎日送り迎えするよ」
「親になんて言うつもりですか」
「上手く言っておくから気にしなくていい」
「いや、すみません。気にしますから」
「ねえ、美優。俺、まだ怒ってないわけじゃないんだよ?」
その言葉の冷たさに、びくりと身体が跳ねた。
(怖い怖い怖い!口は笑ってるのに目が全然笑ってない!)
「俺を不安にさせたんだから、俺のお願いくらい聞いてくれるよねぇ?」
『お願い』って『命令』と同じ意味だったっけとか思いながらも、私は薄らと笑いながら「……はい、」と頷く以外の道が用意されていなかった。