二周年リクエスト企画(過去サイト)
>>『行』様より
◆◇◆
「おいブス。何やってんだよ」
「あ、ユキくん」
教室の掃除をしていたら幼馴染のユキくんに声を掛けられた。
私は掃除の手を休めてユキくんを見上げる。
小さな頃はあまり変わらなかった身長差も中学三年生にもなれば変わるというもので、今では見上げないとユキくんの顔を見られない。
「ブスがこっち見んな」
「ご、ごめんね?私みたいなブスに見られるの嫌だったよね?」
「わかってんなら見んなブス」
「ごめんなさい……」
手を胸の辺りで縮こませて箒をぎゅっと握りしめる。
ユキくんは何が気に入らなかったのか、チッと舌打ちをして、何やってんだよともう一度同じことを訊かれた。
「掃除を、」
「はあ?一人でかよ?ほかのやつは?」
「みんな用事があるからって言って、」
「ハッ。押し付けられたってわけか」
「そんなことないよ。私みたいに何も出来ない愚図ができることなんて掃除くらいだし、それに本当にみんな用事があったんだろうし」
「お前ほんと馬鹿だよな。……はあ。貸せ」
「え?」
「それ、箒貸せって言ってんの」
「ど、どうして?」
「手伝ってやるから貸せって言ってんだよ!」
「……え、どうして?ユキくんはクラスも違うし、私の教室の掃除を手伝うだなんてことしなくていいんだよ?これくらい一人でもできるし、私の為にユキくんの手を煩わせる必要はないと、」
「いいから貸せブス。あと勘違いすんな。誰がブスの為に手を貸してやるって言ってんだよ。俺が早く帰りたいからに決まってんだろ」
そう面倒くさそうに言うユキくんに申し訳なさが募る。
過保護な両親がユキくんに私の登下校に付き合ってくれるように頼んらしいけれど、そんなこと無視してしまっていいのに。
そう思って「ユキくん一人で帰ってもいいんだよ……?」と呟けば、溜め息。
怒らせてしまっただろうか。
どうしよう。私みたいな愚図でとろい人間の為にユキくんの貴重な時間を削らせてしまっただけでなく、あまつさえ不愉快にさせてしまっている。
(あああ生きててごめんなさいいいい!)
手に持った箒を握りしめながらおろおろとしていれば、ユキくんにその箒を取られた。
「早く帰りたいって言っただろ。ほら、掃除するからお前は新しい箒持って来いよ」
「う、うん。ありがとう。私なんかの為に」
「だから、お前の為じゃねえって言ってんだろ。頭も悪いブスとか最悪だな」
ああ、そういえばさっきも同じやり取りをしたというのに。
私ったらユキくんが言うように本当に最悪だ。
もうユキくんと同じ空間で呼吸していることさえ申し訳ない。
どうしてこんな私にもユキくんは優しいのだろう。
きっとユキくんの生来の優しさからだろうなぁ。
小さな頃から口は少し悪かったけど困ってたらなんだかんだ助けてくれたし……それって小さな頃からユキくんに迷惑かけっぱなしってことだよね!?うわぁ、申し訳ない。死んでお詫びしたいくらい申し訳ない。
「ごめんなさい」
だから何にもならないのは分かっているけれども謝ってしまった。
私みたいなのに謝られても不快なだけだよね!知ってる!
案の定ユキくんは眉を顰めて、はあ、と溜め息を吐いた。
「何に謝られてるのかわかんないんだけど」
「うん。ごめんなさい」
「だから、……もういい。さっさと掃除するぞ」
「……はい」
そう言って黙々と掃除を始めたユキくんに倣って私も掃除をする。
元はと言えば私が引き受けたことなのに、ユキくんを巻き込むなんて。
ああ、どうしていつもいつもユキくんに助けられる状況になってしまうんだろう。
もっとしっかりしなくてはと思うのに、なかなかどうしてうまくいかない。
はあ、と溜め息を吐いて床のゴミを掃いていればユキくんが話しかけてきた。
「お前ってさ、嫌じゃねぇの。こんな扱いされてさ。つか言えよ。何の為の幼馴染だと思ってんだよ」
「え?」
思いもよらなかったユキくんの言葉に、思わず呆けた声を上げてユキくんを見やる。
ユキくんはぶっすぅとむくれた顔をしながらこちらを見ていた。
「ぶーす」
「え?え、うん」
「馬鹿なんだから頼ることくらい覚えたらどうなんだよ」
「ユキくん」
……つまりはどういうことなのか馬鹿な私にわかるように教えてくれやしないだろうか……。
照れてるように見えるけど気のせいだろうし、そもそもどこに照れる要素があったんだろう。
いやだな。ユキくんが言うように本当に馬鹿みたいじゃないか。いや、馬鹿なんだろうな。ユキくんの方が断然頭良いし。
「……お前、意味わかってないだろ」
「ご、ごめんね?」
「……別にいいけど」
これからも俺が好き勝手やるだけだしな。
そう呟いたユキくんは私を見て、いつもの怒ったような顔に戻ると「さっさと終わらせて帰んぞブス」と言ってまた掃除に戻ってしまった。
いやはや、本当に理解が出来ない。
ユキくんのことを理解できないのはいつものことだし、私如きに理解なんてされたくないだろうけども。
掃除を終えて、下校途中。
ユキくんはいつものように私の前を歩きながら話かけてきた。
「お前ってほんと馬鹿だよな」
「う、うん。そうだね」
「否定しろよ」
「本当のことだし」
「勉強はできないし、顔はブスだし、良いとこないな」
「そ、うだね」
ユキくんの言葉が地味に心に刺さりながらも事実だからと受け止める。
だから、ユキくんがまだ何かを言っていたことに気付かなかった。
「だから馬鹿だっていうんだよ。ブスにブスだって言うわけねーだろ」
「ユキくん?何か言った?」
「言ってねぇよぶーす」
◆◇◆
「おいブス。何やってんだよ」
「あ、ユキくん」
教室の掃除をしていたら幼馴染のユキくんに声を掛けられた。
私は掃除の手を休めてユキくんを見上げる。
小さな頃はあまり変わらなかった身長差も中学三年生にもなれば変わるというもので、今では見上げないとユキくんの顔を見られない。
「ブスがこっち見んな」
「ご、ごめんね?私みたいなブスに見られるの嫌だったよね?」
「わかってんなら見んなブス」
「ごめんなさい……」
手を胸の辺りで縮こませて箒をぎゅっと握りしめる。
ユキくんは何が気に入らなかったのか、チッと舌打ちをして、何やってんだよともう一度同じことを訊かれた。
「掃除を、」
「はあ?一人でかよ?ほかのやつは?」
「みんな用事があるからって言って、」
「ハッ。押し付けられたってわけか」
「そんなことないよ。私みたいに何も出来ない愚図ができることなんて掃除くらいだし、それに本当にみんな用事があったんだろうし」
「お前ほんと馬鹿だよな。……はあ。貸せ」
「え?」
「それ、箒貸せって言ってんの」
「ど、どうして?」
「手伝ってやるから貸せって言ってんだよ!」
「……え、どうして?ユキくんはクラスも違うし、私の教室の掃除を手伝うだなんてことしなくていいんだよ?これくらい一人でもできるし、私の為にユキくんの手を煩わせる必要はないと、」
「いいから貸せブス。あと勘違いすんな。誰がブスの為に手を貸してやるって言ってんだよ。俺が早く帰りたいからに決まってんだろ」
そう面倒くさそうに言うユキくんに申し訳なさが募る。
過保護な両親がユキくんに私の登下校に付き合ってくれるように頼んらしいけれど、そんなこと無視してしまっていいのに。
そう思って「ユキくん一人で帰ってもいいんだよ……?」と呟けば、溜め息。
怒らせてしまっただろうか。
どうしよう。私みたいな愚図でとろい人間の為にユキくんの貴重な時間を削らせてしまっただけでなく、あまつさえ不愉快にさせてしまっている。
(あああ生きててごめんなさいいいい!)
手に持った箒を握りしめながらおろおろとしていれば、ユキくんにその箒を取られた。
「早く帰りたいって言っただろ。ほら、掃除するからお前は新しい箒持って来いよ」
「う、うん。ありがとう。私なんかの為に」
「だから、お前の為じゃねえって言ってんだろ。頭も悪いブスとか最悪だな」
ああ、そういえばさっきも同じやり取りをしたというのに。
私ったらユキくんが言うように本当に最悪だ。
もうユキくんと同じ空間で呼吸していることさえ申し訳ない。
どうしてこんな私にもユキくんは優しいのだろう。
きっとユキくんの生来の優しさからだろうなぁ。
小さな頃から口は少し悪かったけど困ってたらなんだかんだ助けてくれたし……それって小さな頃からユキくんに迷惑かけっぱなしってことだよね!?うわぁ、申し訳ない。死んでお詫びしたいくらい申し訳ない。
「ごめんなさい」
だから何にもならないのは分かっているけれども謝ってしまった。
私みたいなのに謝られても不快なだけだよね!知ってる!
案の定ユキくんは眉を顰めて、はあ、と溜め息を吐いた。
「何に謝られてるのかわかんないんだけど」
「うん。ごめんなさい」
「だから、……もういい。さっさと掃除するぞ」
「……はい」
そう言って黙々と掃除を始めたユキくんに倣って私も掃除をする。
元はと言えば私が引き受けたことなのに、ユキくんを巻き込むなんて。
ああ、どうしていつもいつもユキくんに助けられる状況になってしまうんだろう。
もっとしっかりしなくてはと思うのに、なかなかどうしてうまくいかない。
はあ、と溜め息を吐いて床のゴミを掃いていればユキくんが話しかけてきた。
「お前ってさ、嫌じゃねぇの。こんな扱いされてさ。つか言えよ。何の為の幼馴染だと思ってんだよ」
「え?」
思いもよらなかったユキくんの言葉に、思わず呆けた声を上げてユキくんを見やる。
ユキくんはぶっすぅとむくれた顔をしながらこちらを見ていた。
「ぶーす」
「え?え、うん」
「馬鹿なんだから頼ることくらい覚えたらどうなんだよ」
「ユキくん」
……つまりはどういうことなのか馬鹿な私にわかるように教えてくれやしないだろうか……。
照れてるように見えるけど気のせいだろうし、そもそもどこに照れる要素があったんだろう。
いやだな。ユキくんが言うように本当に馬鹿みたいじゃないか。いや、馬鹿なんだろうな。ユキくんの方が断然頭良いし。
「……お前、意味わかってないだろ」
「ご、ごめんね?」
「……別にいいけど」
これからも俺が好き勝手やるだけだしな。
そう呟いたユキくんは私を見て、いつもの怒ったような顔に戻ると「さっさと終わらせて帰んぞブス」と言ってまた掃除に戻ってしまった。
いやはや、本当に理解が出来ない。
ユキくんのことを理解できないのはいつものことだし、私如きに理解なんてされたくないだろうけども。
掃除を終えて、下校途中。
ユキくんはいつものように私の前を歩きながら話かけてきた。
「お前ってほんと馬鹿だよな」
「う、うん。そうだね」
「否定しろよ」
「本当のことだし」
「勉強はできないし、顔はブスだし、良いとこないな」
「そ、うだね」
ユキくんの言葉が地味に心に刺さりながらも事実だからと受け止める。
だから、ユキくんがまだ何かを言っていたことに気付かなかった。
「だから馬鹿だっていうんだよ。ブスにブスだって言うわけねーだろ」
「ユキくん?何か言った?」
「言ってねぇよぶーす」