二周年リクエスト企画(過去サイト)

>『ひなた』様より


◆◇◆


何回も、何回も。繰り返される浮気に、とうとう私の堪忍袋は破裂した。

「そういうことで別れたいんだけど」

バンッと恋人の部屋を勢いよく開ければそこには二人仲良く裸で横たわる男女の姿。
何をしていたのかなんて、そんなことは聞かなくても分かる。

「あ、あんた誰よっ」

少し焦ったような女の声に「アンタの横に居る馬鹿男の彼女よ」と返す。
こんな現場に会うのはこれで何度目だろうか。
いい加減飽きて欲しいと思う。

「わ、かれるとか。お前、何言ってんの?」

「アンタが何言ってんの?ていうかまずは自分の姿見てみたら?仮にも彼女の前でとんでもない格好晒してるわよ」

真っ裸とは正にこれかと言いたくなるくらい。
腰から下がシーツに隠れているのがまだ幸いか。
こんな真昼間から恋人が私の知らない他人に使った愚息なんて見たくもない。
指摘したことに、けれど恋人である筈のコイツは何ら反省の色が見えない顔をして「あー……」と声を上げながら髪を掻く。

「彼女ぉ?アンタが?」

ハッと鼻で嗤う声が聞こえた。
どうやら馬鹿の相手をしていた今回の相手は、馬鹿に恋人が居ることを知らなかったようだ。
が、何故か好戦的な目で見られた。
当然だろう。
隣で目を逸らして私にどう言い訳をしようかと考えている男は、誰の目から見ても格好いい。
外見だけで言えば、そこらの芸能人よりも良いだろう。
そんな男の恋人がそこそこ見れるような、言ってしまえば平凡な女だと知れば外見に自信があって誘った女は馬鹿にもするだろうさ。

(ああ、めんどくさい)

内心で思う。
こういう事が今までに一回もなかったことがないと言えば、それは嘘になる。
何度もあった。その度に恋人である馬鹿は私を選んでくれていた。
それが嬉しくなかったわけではない。
悲しくて、どうしようもなくて。
それでも好きだったから。
信じようと何度も何度も思った。

けれども今回は違う。

「俺が好きなのは、お前だけだし、コイツはただの遊びだから」

「なっ!?どういうこと!?あたしのこと遊びなんてあたし知らない!こんな女のほうが良いっていうの!?」

勝ち誇っていた顔が一変して真っ赤に染まった。
怒っているのだと一見しただけで分かるその顔に、私はだからさ、と言いたくなった。

「私はさっき、『別れよう』って言ったよね?その言葉はアンタの色欲しか詰まっていない脳にはインプットされなかったのかな?」

「だから、別れるなんて認めねぇって言ってんだよ」

「そんな言葉を私は認めない」

というかさ。

「なんで自分の意思が通ると思ってるの?アンタ自分が何してんのか自覚ある?」

「こんな女に嫉妬してんのかよ。さっきも言ったけど、コイツはただの遊びだから」

「……遊びなら何してもいいとか思ってるアンタの思考が理解出来ないわ」

そのせいで私がどれだけ傷ついたと思ってるのか分かって言っているのだろうか。
いや、まあ。もうそんなことはどうだっていいのだけれど。
……いや、本当は良くはないけれど、絶賛傷付いていないわけでは無いけれど、いいということにしておこう。

「浮気されてる身にもなって欲しいな」

「だから、」

「遊びは浮気じゃないって?何それ何理論?」

私はね?

「アンタが好きだよ?本当に好きだったよ?」

馬鹿みたいに浮気ばかりするような男だけれど。
それでも全く大事にされなかった訳ではない。
むしろとても優しくて。
浮気はするくせに、それ以外はどんな約束事よりも私を優先してくれた。
だけどさ。

「もう、つらいのよ」

アンタから知らない女の匂いがするのも。
アンタの部屋に見知らぬ女の小物が置いてあるのも。
アンタが、私をちゃんと好きで居てくれていることにも。
ぜんぶ。ぜんぶ。つらいから。

「だから別れよう?」

「……認めねぇって、俺言ったよな」

「うん。でも、それを私は認めないとも言ったよね?」

「……浮気が嫌なら、もうしねぇ」

「うん。その言葉、何度目かしら?」

そう言って、無理やり笑った。
何度も聞いたよ。
そのセリフ。
何度も信じたよ。
その約束。

……でも、

「一回も守られなかったよね?今だって、守られてない。これでどうしてアンタを信じられるっていうのか、教えて欲しいくらいだよ」

ねぇ、もうやめようよ。
こんなくだらない問答は。
もう疲れたよ。
アンタの吐く嘘に付き合うのは。

「アンタも、この馬鹿に本気なら少しは覚悟しといた方がいいよ」

今までの成り行きを見ていたというか、完全に外野と化していた女にそう言えば。
男と私の顔を交互に見て、男の顔を引っぱたいてから服を着始める。
ああ、案外頭のいい女だったのかも知れないな、なんてそんなことを場違いにも思ってしまった。

「……今まで何も言わなかったじゃねぇか」

打たれた頬を押さえながら呟かれた言葉を鼻で嗤う。

「何言ってんの?言ってたじゃない」

もう浮気はやめてって。

「それでも浮気をし続けたのはアンタなんだよ」

恋人であった男にそう言えば、苦い顔をした。
どうやら色欲以外の記憶スペースがこの男にはあったらしい。

でも、この話はもう終わりだ。


「――さよなら」


もう全部終わりなのだと暗に告げて。
私はお守りのようにずっと握っていたこの部屋の合鍵を恋人であった男に投げ付けた。
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