二周年リクエスト企画(過去サイト)

>>『美空』様より


◆◇◆


うちのクラスには名物ともなっているカップルが居る。
そりゃもう何処に居てもベタベタベタベタ。
飽きないのか!とツッコミたくなるくらい離れない。
所謂バカップルだな。
畜生リア充めが!彼女居ない歴=年齢の俺に対しての暴力か!主に視界の!


……まあ、俺のことはいいんだよ。
同情するなら彼女になってくれるくらいのことする覚悟でしてくれ頼むから。


そんなことより。
視界の暴力たるリア充カップルが、何故か俺の背後に居る。
いや、居たくている訳じゃないだろう。
何せ席順的な問題だ。
何ら可笑しくはない。
例え二年間連続で一番後ろの隣同士であったとしても、そこは神様の粋な計らい的な何かだろう。
そんな粋なことしてくれる神様なら俺にも彼女くらい作ってくださいよ。
いや、これホントマジな話なんで。お願いしますって。

そんなことを願っていれば、奴らの会話が聞こえてきた。
盗み聞きだって?
聞こえちまうんだからしょうがないだろ。
何たって奴らの前の席なんだから。

「美空は可愛いね。ほんと世界で一番可愛い」

「いっくんもとてもカッコいいですよ。世界で誰より大好きです」

「美空にそう言われると照れるな」

「私はいっくんに対してだけは本当のことしか言いませんよ」

「うん。知ってるよ。俺も美空には絶対に嘘は吐かない」

はいはいはいはいっ!!
ご馳走様ですね全く!
俺の背後がピンクな空気だよくっそまじリア充爆発しろ!!

隕石でも降ってきて背後の二人に直撃でもしないかなと考えていれば、あれ?と思わず首を捻りたくなるような会話が聞こえてきた。

「ああ、そういえば前に美空に告白してきた男子居たよね?」

「ああ、本橋くんですか?勿論お断りしていますよ?」

「……美空。そんな奴の名前をイチイチ覚えていなくていいんだよ?」

いっくんとやらの声が低くなった。
背筋がゾクリとするような声だったが背後からの声だからだろう。そうに決まっている。
けれど美空ちゃんは、ころころと鈴が鳴るような笑い声を零した。

「わかってますよいっくん。ちょっといっくんを妬かせたくなっただけです。私の世界にはいっくんしか居ませんし、必要ありませんから」

「なんだ。もう。そういう可愛いこと言わないの。危うく人を一人消さなくちゃいけないかと思っちゃったじゃないか」

誰だか分からないけど本橋逃げろ!超逃げろ!
顔は見えないから分かるがいっくんとやらの声が全く笑ってねぇぞ!
……というか。ウチのクラスにもそういや本橋って居たような。そういや最近見てな……、……ああ、駄目だ。これ詮索したら俺も終わるパターンだわ。

「ふふ。いっくんはほんとに私のことが好きなんですね」

そんな物騒なセリフを「好き」の一言で笑って済ますアンタがすげぇよ!

「当たり前だよ。好きなんて言葉で言い表すことが出来ないくらい、美空を愛しているんだから。美空は?俺のことどれくらい好き?」

美空ちゃんは、「そうですねぇ」なんて呑気に考えている。
もう、ね。
発言は物騒だけどこんな会話してみてぇよ。


そんなことを俺が思っていた次の瞬間。


「世界中の人間の命といっくんの命、どちらかを選べと言われたら迷わずいっくんを選ぶくらいでしょうか」


にこやかな笑顔(見えないから多分だが)で答えた美空ちゃんの言葉に心の底から「ハァァァ!?」と叫んだ。
そんな意味わかんねぇ状況を例え話にもってくる意図も分からんが、言葉端から何やら不穏で、底冷えするような怖さを感じた。
まるでそれが当然であるかのように美空ちゃんはそう言ってみせたのだから。

「美空にそんなに愛されてるなんて俺は幸せ者だね」

…………ああ、うん。
きっとお前ならそう答えるんじゃないかなって思ってた。余裕で分かってた。

「いっくんが幸せなら私も幸せです。いっくんを不幸にする者を私は赦しません。私が全力を以て排除しますから何なりと仰ってくださいね?」

ナニソレ超怖い。
そんな俺の動揺なんて当たり前だが気にもせず、いっくんは答える。

「美空の手をわざわざ煩わせるような屑は美空が気づく前に俺が排除しちゃうからいいんだよ。でも、美空の気持ちが凄く嬉しい」

「いっくんが嬉しいなら、私は良いのですが……」

いいのかい!という俺の心のツッコミは当然のように無視される。
美空ちゃんは「でも、」と言葉を続けた。

「いっくんばかり私の為に動いてくれますし、たまにはいっくんの為になることを私だってしたいです」

「美空……」

いい彼女じゃないか。
……なんて、思いませんよ?ええ。
今までの会話を聞いていて思えるわけもないだろう。
だって『いっくんの為になること』ってそれはつまり、いっくんに群がる女子生徒的な何かをどうにかしたいとかだろうし。
顔面偏差値が高くて彼女が可愛くて、しかも彼女しか見えてないくらいラブラブとか何なの?
いや、この二人の関係を聞くに羨ましいとかそんな感情は全くと言って良いほど浮かんでこないけど。

「そんなに美空に思われてるなんて、幸せだな。本当に、幸せ」

嬉しさを噛み締めるように零された声に紛れて、小さく「だからって美空に手を出そうとした野郎を赦すなんてしないんだけどね?」と呟かれたのを聞いてしまった俺は一体どうすれば。
出来ることなんて精々、美空ちゃんに手を出そうとした輩に手を合わせてやるくらいか。
生きろよ。と、無駄に格好良く言ってみたり。
まだ何か言っていたが、俺の意識はとうとう二人の会話を聞くことを断念した。


もうただのバカップルで片付けちまえばいいじゃねぇか。
それで俺の平和な学生生活は続くなら安いものだ。
だが願わくば、先生。早く席替えしてください。





「あ、そうでした。今日もいっくんのお家にお邪魔しても良いですか?」

「もちろん。そのつもりだよ。汚い手で触られた場所を俺が綺麗に消毒してあげるからね。ああ、制服も新しいものに変えようね?あんな汚い屑に触られたんだから」

「いっくんがそう言うなら、そうします。だからいっくんの消毒もさせてくださいね?先程女子生徒に触られていましたものね?」

「美空からそう言って貰えるなんて嬉しいな。いつもなら恥ずかしがるくせに」

「だって、べったり貼り付いてむかついたんですもの。いっくんは私のモノですのに」

「そうだね。俺は美空のモノだ。そして美空は俺のモノ」

俺達以外は全てが外側。
俺には美空が全てだし、美空の全ては俺だけでいい。

「今日も沢山愛し合おうね、美空」

「ふふ。いっくんに愛されるのは大好きですので望むところです」
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