一周年リクエスト企画(過去サイト)
>>『カップケーキ』様より
◆◇◆
イケメンで何でも出来る恋人、なんて、マンガの中の世界だけだと思っていた。
そんな人間が居るわけないと思っていた。
けれど現実というのは可笑しなモノで、そんな人物も居るものなのだ。
まあ、それがまさか自分の恋人になるだなんて思いもしなかったけれど。
平凡な私に対して完璧な恋人とは、なんとも嫌がらせのような話じゃないかと卑屈になったりする。
愛されていることは分かるのだけれど、イマイチ実感が湧かないのも原因の一つかも知れない。次元が違いすぎるのだ。
だからなのか、女子からのやっかみもかなりあって。
先輩を好きな女子からは特にイジメめいた事をされることもある。まあそれは先輩が何とかしてくれたから今は沈静化しているのだけれど。
いつ復活するのかと怖いモノもある。
そんな生活に嫌気が差したのも理由の一つだろう。
けれど何よりも先輩の側に相応しくないと自分で思ってしまったから。
私は先輩と距離を置いてみることにした。
そうしたらまあ、不振がられますよね?
けれどそれを強引に交わしながら少しずつ、少しずつ、先輩が「しょうがないね?」と諦めてくれるまで粘って。
距離を置いた。
そうしたら先輩は段々と何も言わなくなってきた。
私が離れたがっていると気付いたのかな?と思ったり。
先輩と別れたいのかと聞かれると、正直分からない。
ただあのまま側に居たら、劣等感が募り過ぎていつか先輩を嫌いになってしまいそうで。
だから距離を置いているのだと、結局は自分に言い訳をして。
この行動を正当化しようとしているのだ。
何て浅ましい、と自分を卑下する。
私は性格も前向きとは言えないから、先輩が「好きだ」と言ってくれるだけじゃ自信にはならないのだ。
――今思えば、それだけで自信になるような自分だったら良かったのになと思うよ。
「ねぇ、どうして最近僕を避けるの?僕のことが嫌いになったの?そんなわけないよね、だって早紀は僕のこと好きだもんね。そんなこと疑ってないんだよ?でも最近の早紀は僕の事を良く避けるから不安になったんだ。ねえ、早紀。僕の事を嫌いになったわけじゃないよね。早紀に嫌われたら生きていけないよ」
ねえ!何とか言ってよ、早紀!
そうノンストップで言った先輩に、「いや、何とか言う暇さえ与えてはくれなかったじゃないですか」と言いたかった。
けれど何となくそれを言ったなら先輩がもっと酷い状態になるような気がしたから、それは飲み込んで、興奮状態にある先輩を落ちつかせようと口を開いた。
「先輩、落ちついて下さい。私別に先輩と別れたいわけじゃありませんから」
「……別れたかったの?」
「あ、」
先輩の言う通り、今の言い方ではまるで別れたがっているとも取れるじゃないか。
先輩は私のしまったと全面に押し出された声を聞いて、顔を泣きそうに歪める。
「別れたいってどういうこと!?やっぱり僕が嫌いになったの!?」
「いや、そんなことはないですから!落ちついて下さいって!」
本当はその通りなのだけれど。
私は先輩の辛そうな顔を見たくて、咄嗟に嘘を吐く。
そんな私を他所に、先輩はポツリと呟いた。
「いつも、」
「先輩?」
「いつも、早紀に嫌われないように皆が望む『理想の僕』を演じてた。……でも、そんな僕でさえ嫌われるなら、もうどうしたらいいか分からないよ……」
どうしたら早紀は僕を好きで居てくれるの……?
ボロボロと蛇口を捻ったように後から後から涙を溢し始めた先輩は、縋るように私の制服の裾を掴む。
そんな、今にも壊れてしまうんじゃないかというような先輩を見て、心が一ミリも動かされないとか。
きっと無理だ。出来っこない。
「先輩。私、先輩と別れたいって思ってました」
「……っ!」
目を見開いて息を飲んだ先輩に、「でも、」と続ける。
「先輩が無理して自分を作っているなら、もう作らないでください。そうしたら私、まだ先輩と付き合って居られるから」
自分で言っていて何様だと思う。
先輩も「え、」と戸惑いの声を上げているし。
けれど言ってしまえと一度だけ息を吐くと、私はずっと思っていたことを先輩に告げた。
「私、平凡じゃないですか」
「っそんなこと!早紀は可愛いよ!」
「ありがとうございます。そう言ってくれるのは先輩だけです。……で、話を戻すと。私は平凡なんですよ。だから完璧な先輩に、言ってしまうとかなり劣等感を持ってまして、自分が惨めに感じてしまって、正直先輩の隣に立つのが嫌でした」
そう言うと、先輩は驚きからか涙も引っ込んだらしい。呆然としている。
そんな顔でも格好いいんだから、嫌になるなぁ、もう。
「好きです、先輩」
不安にさせてごめんなさい。
「こんな平凡で卑屈な女で良ければ、これからも一緒に居てくれませんか?」
「……ぁ、も、ちろん。もちろん!僕も早紀が好きだよ!ずっと一緒に居たい!……でも、早紀はいいの?」
「はい?何がでしょう」
「……分かったと思うけど、僕かなりしつこいよ?嫌にならない?」
不安そうな顔で見つめてくる先輩に、私はニコリと微笑んだ。
確かに別れたくないと暴走した先輩には驚いた。
けれど、うん。
「大丈夫です。むしろ、嬉しいんで」
そう言えば先輩は、また泣きそうな顔をして、私を思いっきり抱き締めた。
◆◇◆
イケメンで何でも出来る恋人、なんて、マンガの中の世界だけだと思っていた。
そんな人間が居るわけないと思っていた。
けれど現実というのは可笑しなモノで、そんな人物も居るものなのだ。
まあ、それがまさか自分の恋人になるだなんて思いもしなかったけれど。
平凡な私に対して完璧な恋人とは、なんとも嫌がらせのような話じゃないかと卑屈になったりする。
愛されていることは分かるのだけれど、イマイチ実感が湧かないのも原因の一つかも知れない。次元が違いすぎるのだ。
だからなのか、女子からのやっかみもかなりあって。
先輩を好きな女子からは特にイジメめいた事をされることもある。まあそれは先輩が何とかしてくれたから今は沈静化しているのだけれど。
いつ復活するのかと怖いモノもある。
そんな生活に嫌気が差したのも理由の一つだろう。
けれど何よりも先輩の側に相応しくないと自分で思ってしまったから。
私は先輩と距離を置いてみることにした。
そうしたらまあ、不振がられますよね?
けれどそれを強引に交わしながら少しずつ、少しずつ、先輩が「しょうがないね?」と諦めてくれるまで粘って。
距離を置いた。
そうしたら先輩は段々と何も言わなくなってきた。
私が離れたがっていると気付いたのかな?と思ったり。
先輩と別れたいのかと聞かれると、正直分からない。
ただあのまま側に居たら、劣等感が募り過ぎていつか先輩を嫌いになってしまいそうで。
だから距離を置いているのだと、結局は自分に言い訳をして。
この行動を正当化しようとしているのだ。
何て浅ましい、と自分を卑下する。
私は性格も前向きとは言えないから、先輩が「好きだ」と言ってくれるだけじゃ自信にはならないのだ。
――今思えば、それだけで自信になるような自分だったら良かったのになと思うよ。
「ねぇ、どうして最近僕を避けるの?僕のことが嫌いになったの?そんなわけないよね、だって早紀は僕のこと好きだもんね。そんなこと疑ってないんだよ?でも最近の早紀は僕の事を良く避けるから不安になったんだ。ねえ、早紀。僕の事を嫌いになったわけじゃないよね。早紀に嫌われたら生きていけないよ」
ねえ!何とか言ってよ、早紀!
そうノンストップで言った先輩に、「いや、何とか言う暇さえ与えてはくれなかったじゃないですか」と言いたかった。
けれど何となくそれを言ったなら先輩がもっと酷い状態になるような気がしたから、それは飲み込んで、興奮状態にある先輩を落ちつかせようと口を開いた。
「先輩、落ちついて下さい。私別に先輩と別れたいわけじゃありませんから」
「……別れたかったの?」
「あ、」
先輩の言う通り、今の言い方ではまるで別れたがっているとも取れるじゃないか。
先輩は私のしまったと全面に押し出された声を聞いて、顔を泣きそうに歪める。
「別れたいってどういうこと!?やっぱり僕が嫌いになったの!?」
「いや、そんなことはないですから!落ちついて下さいって!」
本当はその通りなのだけれど。
私は先輩の辛そうな顔を見たくて、咄嗟に嘘を吐く。
そんな私を他所に、先輩はポツリと呟いた。
「いつも、」
「先輩?」
「いつも、早紀に嫌われないように皆が望む『理想の僕』を演じてた。……でも、そんな僕でさえ嫌われるなら、もうどうしたらいいか分からないよ……」
どうしたら早紀は僕を好きで居てくれるの……?
ボロボロと蛇口を捻ったように後から後から涙を溢し始めた先輩は、縋るように私の制服の裾を掴む。
そんな、今にも壊れてしまうんじゃないかというような先輩を見て、心が一ミリも動かされないとか。
きっと無理だ。出来っこない。
「先輩。私、先輩と別れたいって思ってました」
「……っ!」
目を見開いて息を飲んだ先輩に、「でも、」と続ける。
「先輩が無理して自分を作っているなら、もう作らないでください。そうしたら私、まだ先輩と付き合って居られるから」
自分で言っていて何様だと思う。
先輩も「え、」と戸惑いの声を上げているし。
けれど言ってしまえと一度だけ息を吐くと、私はずっと思っていたことを先輩に告げた。
「私、平凡じゃないですか」
「っそんなこと!早紀は可愛いよ!」
「ありがとうございます。そう言ってくれるのは先輩だけです。……で、話を戻すと。私は平凡なんですよ。だから完璧な先輩に、言ってしまうとかなり劣等感を持ってまして、自分が惨めに感じてしまって、正直先輩の隣に立つのが嫌でした」
そう言うと、先輩は驚きからか涙も引っ込んだらしい。呆然としている。
そんな顔でも格好いいんだから、嫌になるなぁ、もう。
「好きです、先輩」
不安にさせてごめんなさい。
「こんな平凡で卑屈な女で良ければ、これからも一緒に居てくれませんか?」
「……ぁ、も、ちろん。もちろん!僕も早紀が好きだよ!ずっと一緒に居たい!……でも、早紀はいいの?」
「はい?何がでしょう」
「……分かったと思うけど、僕かなりしつこいよ?嫌にならない?」
不安そうな顔で見つめてくる先輩に、私はニコリと微笑んだ。
確かに別れたくないと暴走した先輩には驚いた。
けれど、うん。
「大丈夫です。むしろ、嬉しいんで」
そう言えば先輩は、また泣きそうな顔をして、私を思いっきり抱き締めた。