梅雨空に紫陽花
「柴!お前また他校の生徒と喧嘩したそうだな!?」
「……あれ?生徒会長サマではないですか。今日も今日とて勉強に勤しまなくていいんですか?」
「宿題ならすべて済ませてある」
「そういうことではないんですけれども」
目の前の眼鏡を掛けた男子生徒はきっちり制服を着こなし、しっかりと背筋を伸ばして私のことをその高い身長で見下ろす。
身長分けてくれませんかね?なんて場違いなことを少しばかり思いながら、私は生徒会長――加納宗から視線を離した。
「柴、何か後ろめたいことがないならこっちを見ろ」
「何も後ろめたいことはないですが、生徒会長を見ているとその身長をへし折りたくなってくるんですよねぇ」
「は?何が言いたいんだ」
「驚きました。嫌味も通じないんですか?一体どんな生活を送ったらそうなるんです?」
「怒られたいのか」
「怒られるのは嫌ですねぇ」
「なら素行を直せ。柴」
真顔で、真剣に私を見る生徒会長に、つい、「何も知らないくせに」と呟いていた。
言っておいてハッとした。私は一体何を言っているんでしょうね。
「何も知らない、確かにそうだな。……分かった」
「何だか分かりませんが、分かってくれましたか」
「ああ、柴が自分のことを分かって欲しがっている子供ということは分かった」
「は、」
ひくり、と頬が引き攣るのを感じた。
一体全体、この人は何を言っているんでしょうねぇ。
私が分かってもらいたがっている、まるで構ってちゃんだと、彼はそう言ったのか。
「ふ、ふふ」
「し、柴?どうした?」
「あなたは本当に、人を苛立たせる天才ですね」
毎日毎日、飽きもせず。私の素行が気に食わないと言いながら付き纏って。
そのせいで学校中では「生徒会長と柴は付き合っている」なんて噂話が流れている始末。
嫌な思いをしている筈なのに、それでも傍に居てくれるから。
厄介で、面倒で、それはお互い様なのだろうけれども。
「柴。何か言いたいなら、言わないと分からないぞ」
「何も、言いたいことなんてありませんよ」
「そういう顔には見えない」
「そうですか。では、そういうことにしておいてください。レディーにはセンチメンタルな日もあるんです」
「誰がレディーだ」
「む。どこからどう見てもレディーでしょうよ」
「はあ、まあ、なんでも良いが」
生徒会長は私の頭を一撫ですると、少しだけ笑った。
「あ、すまん。弟が居るから、つい」
「……へえ、生徒会長にも弟さんが居るんですね」
「俺にも、ということは、柴にも弟が居るのか?」
「居ますよ。お姉ちゃん大好きな可愛い弟が」
「……それは、可愛いというのか」
その言葉に酷いですね、なんて返しながらいつの間にか生徒会長は私をしっかり家へと送っていた。
「また明日」
そんな言葉だけ置いて帰った後姿を見つめた。
本当に律儀で面倒な男ですね。
なのにも関わらず、明日が少しだけ楽しみになっていた。
このあとすぐだったように思う。
生徒会長と私が『恋人』というものになったのは。
その関係もすぐには終わったけれども。
他でもない、――宗くんが婚約するという話によって。
好きだったのかと問われると、好きだったのかも知れないし、そうでないかも知れない。
ただ一言、言えるのだとすれば。
「そんな宗くんだから今も傍に居れるんでしょうね」
頭良いのに馬鹿で、律儀で、面倒くさくて、融通が利かないくせに変なところで頭の回転は速くて。
そんなところが、昔から。
だから私は、宗くんの傍に居るのでしょうねぇ。
「……あれ?生徒会長サマではないですか。今日も今日とて勉強に勤しまなくていいんですか?」
「宿題ならすべて済ませてある」
「そういうことではないんですけれども」
目の前の眼鏡を掛けた男子生徒はきっちり制服を着こなし、しっかりと背筋を伸ばして私のことをその高い身長で見下ろす。
身長分けてくれませんかね?なんて場違いなことを少しばかり思いながら、私は生徒会長――加納宗から視線を離した。
「柴、何か後ろめたいことがないならこっちを見ろ」
「何も後ろめたいことはないですが、生徒会長を見ているとその身長をへし折りたくなってくるんですよねぇ」
「は?何が言いたいんだ」
「驚きました。嫌味も通じないんですか?一体どんな生活を送ったらそうなるんです?」
「怒られたいのか」
「怒られるのは嫌ですねぇ」
「なら素行を直せ。柴」
真顔で、真剣に私を見る生徒会長に、つい、「何も知らないくせに」と呟いていた。
言っておいてハッとした。私は一体何を言っているんでしょうね。
「何も知らない、確かにそうだな。……分かった」
「何だか分かりませんが、分かってくれましたか」
「ああ、柴が自分のことを分かって欲しがっている子供ということは分かった」
「は、」
ひくり、と頬が引き攣るのを感じた。
一体全体、この人は何を言っているんでしょうねぇ。
私が分かってもらいたがっている、まるで構ってちゃんだと、彼はそう言ったのか。
「ふ、ふふ」
「し、柴?どうした?」
「あなたは本当に、人を苛立たせる天才ですね」
毎日毎日、飽きもせず。私の素行が気に食わないと言いながら付き纏って。
そのせいで学校中では「生徒会長と柴は付き合っている」なんて噂話が流れている始末。
嫌な思いをしている筈なのに、それでも傍に居てくれるから。
厄介で、面倒で、それはお互い様なのだろうけれども。
「柴。何か言いたいなら、言わないと分からないぞ」
「何も、言いたいことなんてありませんよ」
「そういう顔には見えない」
「そうですか。では、そういうことにしておいてください。レディーにはセンチメンタルな日もあるんです」
「誰がレディーだ」
「む。どこからどう見てもレディーでしょうよ」
「はあ、まあ、なんでも良いが」
生徒会長は私の頭を一撫ですると、少しだけ笑った。
「あ、すまん。弟が居るから、つい」
「……へえ、生徒会長にも弟さんが居るんですね」
「俺にも、ということは、柴にも弟が居るのか?」
「居ますよ。お姉ちゃん大好きな可愛い弟が」
「……それは、可愛いというのか」
その言葉に酷いですね、なんて返しながらいつの間にか生徒会長は私をしっかり家へと送っていた。
「また明日」
そんな言葉だけ置いて帰った後姿を見つめた。
本当に律儀で面倒な男ですね。
なのにも関わらず、明日が少しだけ楽しみになっていた。
このあとすぐだったように思う。
生徒会長と私が『恋人』というものになったのは。
その関係もすぐには終わったけれども。
他でもない、――宗くんが婚約するという話によって。
好きだったのかと問われると、好きだったのかも知れないし、そうでないかも知れない。
ただ一言、言えるのだとすれば。
「そんな宗くんだから今も傍に居れるんでしょうね」
頭良いのに馬鹿で、律儀で、面倒くさくて、融通が利かないくせに変なところで頭の回転は速くて。
そんなところが、昔から。
だから私は、宗くんの傍に居るのでしょうねぇ。
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